第三百七十六話 団らんラン
活動報告でもお知らせしましたが、限定ボイスドラマ第3弾「ニンリルのリクエスト」が特設サイトにて公開されてます!
特設サイト→http://over-lap.co.jp/narou/865541670/
これはWEBでしか聞けませんので是非是非聞いてみてください。
いよいよ12/25に「とんでもスキルで異世界放浪メシ4 バーベキュー×神々の祝福」発売です!
コミック1巻も同日発売となりますので、小説・コミックどちらもよろしくお願いいたします。
『アホザルどもが追ってこねぇな。縄張りを出たか?』
『うむ、そのようだな』
『えー、もう終わりなのー?』
「はぁ、ようやく出たか」
フェルにしがみ付いていた腕を緩めホッと一息ついた。
『むぅ、もっと倒したかったー』
「なに言ってんのスイー。めちゃくちゃいっぱい倒してたじゃないか」
スイの酸弾を食らって、ブラックバブーンは死屍累々だったぞ。
『えへへー、そうかなぁ。でも、スイもっとがんばれるよー』
「そっか。でも今日は終わりだよ。また魔物が襲ってきたら倒してな。頼りにしてるからさ」
『うん、分かったー』
スイ、本当に何でこんなに戦闘好きになっちゃったんだろね?
やっぱり一緒にいる誰かさんの影響なのか?
弱肉強食の頂点にいるような存在が傍にいるのは、生まれたばっかりのスイの教育には良くなかった気がするよ。
しかも、その後にこれまた強い仲間もできたしね。
強い味方がいてくれるのは心強いけど、スイにはもっとほのぼの育ってもらいたかったなぁ。
何とも言えない気持ちからか、フェルとドラちゃんに目が行く。
『む、何だ?』
『何だよ?』
「……いや、何でもない」
今更何言ってもしょうがないか。
フェルやドラちゃんに文句言っても『強くて何が悪い』って言われそうだし。
一般人に手を出さないお利口さんに育ってくれただけで良かったってことかもな。
「それにしても、金貨に宝石、魔道具とお宝がたくさん手に入ったな」
『うむ。宝は我らの飯の種になるのだろう? これだけあれば、また美味いものが食えるな。よろしく頼むぞ』
『ホントだぜ。あ、プリンも大盤振る舞いで頼むぜ!』
『ケーキー!』
「はいはい、分かったよ」
うちのみんなはホント食い気が1番だな。
『しかし、あの洞窟の罠の多さには辟易したが、我が今まで出会ったことのなかった罠もあったのはいい経験になった。さすが神様も粋なことをなさる』
『ホントだな。ダンジョンじゃないから魔物はいなかったけど、あんだけの罠はなかなか経験できるもんじゃないぜ』
『楽しかったー!』
フェルもドラちゃんもスイもあの洞窟について何でもないように話してるけど、普通は中で死んでるからね。
俺はこんなとこ二度とごめんだよ。
それにな、神様も粋なことをなさるって、デミウルゴス様としちゃお宝をお供えのお礼にってことだと思うぞ。
…………そうですよね?
罠三昧の洞窟がいい経験になるからとかじゃないですよね?
信じていますからね、デミウルゴス様っ。
『おい、腹が減ったぞ』
『俺も腹減ったー』
『スイもお腹減ったよー』
「何だかんだで、今日は昼飯食う暇なかったからなぁ。とりあえず街道に戻ってから飯にしよう」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
街道に戻ると、辺りは薄暗くなっていた。
その脇の空き地で夕飯にして、今晩はそこで野営することに。
夕飯はドラちゃんの温まる食い物というリクエストにより、再び鍋にすることにした。
鍋はいいけど何の鍋にしようかと迷っていたところ、フェルの『久しぶりに亀が食いたいぞ』との鶴の一声でエイヴリングのダンジョン産のビッグバイトタートルの肉ですっぽん鍋に。
フェル、ドラちゃん、スイとともにすっぽん鍋をたらふく食って、〆の雑炊まで堪能した。
「久しぶりのすっぽん鍋、美味かったな」
『うむ。肉が1番ではあるが、亀も悪くない』
『亀の肉もウメェけど、最後の〆の雑炊ってやつが美味いよな』
『美味しかったー』
「あ、そうだ、まだ腹に余裕あるか?」
『む、何かまだあるのか?』
「いや、ほら、プリンとかケーキって言ってたじゃん」
『プリンか?! プリンなら別腹だぞ! 早くくれ!』
『あるじー、ケーキちょうだーい!』
「ハハハ、分かった分かった。フェルも食うだろ?」
『当然だ』
みんなの期待にこたえて不三家のメニューを開いた。
「今日の成果はみんなのおかげでもあるから、フェルとスイには大きいケーキな。ドラちゃんにはプリンいっぱいだ」
そう言うと、みんな嬉しそうだ。
フェルはすまし顔だが尻尾をファッサファッサ揺らしてるし、ドラちゃんは『よっしゃ!』と言って短い腕を上に振り上げている。
スイは『うわぁーい!』と高速でポンポン飛び跳ねている。
「じゃ、ちょっと待っててな」
フェルには好物のイチゴのショートケーキをホールで。
プリン好きのドラちゃんには、イチゴのプリンサンデーにバナナのプリンサンデー、それからカスタードプリンを5個。
チョコ好きのスイには、チョコレートのスポンジにたっぷりのチョコレートクリームがサンドされた上にフルーツがたくさん飾られたチョコレートケーキをホールで。
「どうぞ」
みんなの前にそれぞれ出してやった。
『うむ、うむ。やはりこのケーキは美味いな』
生クリームを口の回りにつけながらフェルが美味そうにパクついた。
『カーッ、やっぱりプリンはウメェなぁ』
何かオヤジくさい口ぶりでしみじみとそう言うドラちゃん。
『チョコのケーキ美味しいなー』
大好きなチョコレートケーキを食えてご機嫌なスイ。
俺はというと、ちょっぴり贅沢にネットスーパーで買ったブルーマウンテンのドリップバッグのコーヒーを飲みながらみんなが美味そうにケーキやプリンを食うのを眺めていた。
土魔法で作った箱型の家の中―――。
底冷えする中、専用の布団に寝そべるフェルに暖を求めてぴったりと寄り添って眠るドラちゃんとスイ。
フェルもドラちゃんもスイもぐっすり眠っている。
モフモフの毛のフェルに寄り添って寝るのは実に暖かそうではあるが、俺にはやらねばならないことがあった。
明かりが漏れないよう自分の布団の中に潜り、ランタン型のLEDライトを点けた。
そして、アイテムボックスから取り出したのは盗賊王のお宝の中にあった転移の魔道具に隠されていた本だ。
俺と同じくこの世界にやって来た日本人。
その日本人が書いたものだ。
どんなことが書かれているのかすごく気になる。
転移の魔道具の使い方も書かれているらしいが、他には何が書かれているのだろうか?
ゴクリ―――。
俺は、LEDの淡い光を頼りに古びた本のページをめくった。