第三百七十五話 謎の石板
活動報告でもお知らせしましたが、限定ボイスドラマ第2弾「フェルのブラッシング」が特設サイトにて公開されてます!
特設サイト→http://over-lap.co.jp/narou/865541670/
これはWEBでしか聞けませんので是非是非聞いてみてください。
12/15にはボイスドラマ第3弾を公開予定ですのでお見逃しなく。
そして、12月25日発売のコミック1巻ですが、特典について公開されていますのでオーバーラップさんの広報室をご確認ください。
オーバーラップ広報室→http://blog.over-lap.co.jp/gardo_tokuten171208/
同じく12月25日発売の「とんでもスキルで異世界放浪メシ4 バーベキュー×神々の祝福」との連動特典などもありますのでお見逃しなく!
アイテムボックスにしまおうとしていた石版を凝視する。
「何で日本語が……」
その石版には、複雑な魔法陣に象形文字のような文字が書かれていた。
そして、その中心には……。
「転移の、魔道具?」
わざわざ日本語で書かれていた文字。
それを日本語でつぶやくと、ゴトッと音を立てて石版の右側の仕掛け扉が開いた。
「何だ?」
中を覗くと、古めかしい1冊の本が入っていた。
本を取り出して表紙を開いてみると、そこも日本語で書かれていた。
“この本を手にしているということは、君は日本人なのだろう。
この石版は読んで字の如し、転移の魔道具だ。
ちなみに僕の渾身の力作さ。
悪用されるのは嫌だけど、思い出の品でもあるしさすがに壊すのは忍びなくてね。
同胞の手にゆだねることにしたよ。
いろいろと疑問はあるだろうけど、使い方も含めてこの本に記してあるから有効に活用して欲しい。”
「……これを作ったのは日本人ってことか。ということは、俺と同じで勇者召喚の儀式でこの世界に召喚された日本人?」
まぁ、俺は巻き込まれただけだけど、勇者召喚の儀式でこの世界に来たのは間違いない。
それにだ、確かレイセヘル王国の豚王が「古の儀式である勇者召喚の儀を行なった」とか言っていたな。
ということは……。
「前にも勇者召喚の儀式は行われたってことだ」
俺を含めた4人の日本人よりももっと前にこの世界へとやって来た人か。
興味を引かれて本を開こうとすると、フェルの声が。
『おい、こっちはもう終わるぞ。そっちはどうなのだ?』
ドキッとしながら、急いで本と石板をアイテムボックスへとしまった。
何故かはわからないけど、フェルにはまだ知られてはいけないような気がしたからだ。
これはあとでゆっくり読ませてもらうとしよう。
「あ、あーっと、もうちょっとかな。ちょっとだけ待って」
俺は急いで魔道具や宝をアイテムボックスへとしまっていった。
「終わったぞ」
魔道具をしまい終わってフェル達と合流した。
『これを』
宝を回収したマジックバッグをフェルから受け取る。
「ドラちゃんとスイは何を見てるんだ?」
何故かドラちゃんとスイが熱心に足元を見ていた。
『お主も見てみるといい。宝の山の下から面白いものが出てきた。今ではダンジョン以外で見かけるのは珍しいぞ』
「面白いもの?……って、何だこれは?」
ドラちゃんとスイが熱心に見ていたのは、何かの魔法陣だった。
大分時が経ったことで薄れてはいるが、はっきりと文様は見て取れた。
「何の魔法陣だ?」
『おそらく転移の魔法陣だろうな』
フェルの話によると、今になっては聞かないが数百年前までは短距離ではあるけど転移の魔法陣を解する者がいたという。
もちろん、転移に関する複雑な魔法陣を理解して描ける者となると数は少なかったようだが。
フェルが言うには、盗賊王がそういう者を攫ってきて描かせたのではないかということだった。
冒険者ギルドでも転移の魔道具を使ってるって話を思い出して、その話をしたら『人や大きな物は運べるのか?』と逆に聞き返された。
確か冒険者ギルドの転移の魔道具は手紙を送るくらいだって聞いた気がする。
今ではそれぐらいがせいぜいということなのかもしれないな。
フェルによると、人や物、転移させるものが大きくなればなるほど、そして転移する距離も長くなればなるほど使われる魔法陣は複雑で難解になるそうだし。
ここに描かれている魔法陣も見れば確かに複雑難解だ。
『これだけの量の宝を我らがたどってきた道程で運ぶのは無理だろうからな』
確かにフェルの言うとおりだ。
魔道具の中にマジックバッグも3つほどあるにはあったけど、さすがに全部が特大ということはないだろう。
それを考えると、3つのマジックバッグでこの山のような大量の宝を1度で運べるとは思えない。
俺たち一行はみんなのおかげというか、フェルがいたから俺も洞窟まで何とかたどり着けたけど、普通なら死んでいてもおかしくはない厳しい道程だ。
あの命がけの道程を、何度も行き来したとは考えられないよな。
それに加えて、洞窟の中は罠だらけ。
罠を仕掛けた側にしても、これを避けたうえで命がけの道程を何度もなんて、どだい無理な話だろう。
『よし、これを使うぞ』
「使うぞって、フェル、これの行き先わかるのか?」
『わからん』
わからんってそんな堂々と言われても。
「どこに転移するかわからないのに使うって怖いだろ」
『そうは言うが、この魔法陣も短距離の転移となるだろう。せいぜいが山の麓のどこかだと思うぞ』
「山の麓なのはいいけど、場所がわからないのはちょっとなぁ」
山の麓って言ったら、あれがいるだろうが。
ブラックバブーンがさ。
あれの近くにいきなり転移するってのは嫌なんだけど。
『ごちゃごちゃとうるさいのう。転移が嫌だと言うなら、来た道を戻るしかないのだぞ。それでいいのか? 我はどっちでもいいぞ』
そうフェルに言われて考える。
転移しないで帰るなら、確かに来た道を戻るしかない。
それ以外に方法はなさそうだし。
来た道を戻るってことはあの絶壁を降りて急斜面を下る……。
想像しただけで鳥肌がたった。
無理無理無理無理、絶対に無理。
そうなるとフェルの言うとおり、この転移の魔法陣を使った方がいいのかな。
「分かったよ。この魔法陣を使って戻ろう。でも、転移先が山の麓だとしたら、あれ、ブラックバブーンがいるかもしれないぞ」
『フン、我とドラとスイがいるのだ。彼奴ら程度何とでもなるわ。そうだろう? ドラ、スイ』
『当然だな』
『また戦うのー? スイがやっつけちゃうから大丈夫だよー』
この面々なら大丈夫か。
でも、俺は大丈夫じゃないから……。
「掛けてもらった結界ってまだ効いてるんだよな?」
『お主は心配性だな。まだ大丈夫だ。安心しろ』
命あってのものだねだからね。
それじゃなくてもこの世界は危ないことが多いんだから、ちょっと心配性なくらいの方がちょうどいいんだよ。
『我が魔力を込めるゆえ、みな魔法陣の上へ乗れ』
フェルにそう言われて、みんなして魔法陣の上に移動する。
『それでは行くぞ』
そう言うと同時に魔力を込めるフェル。
魔法陣が光りだして、一瞬浮遊感が襲った。
光が収まると、既に俺たちは森の中にいた。
そして……。
「これは、ちょっとというか、かなりマズイんじゃないのか?」
『うむ。どうやらブラックバブーンの棲み処に転移してしまったようだな』
『ハハハッ、さっきよりも多くいらぁ』
『わぁ~、いーっぱいいるねぇ~』
俺たちの周りはブラックバブーンだらけだった。
行きがけに出会ったブラックバブーンの群れよりもさらに数が多い。
「ヴォッ、ヴォッ、ヴォーッ」
「ギャァーッ、ギャッ、ギャッ」
「ヴォッ、ヴォーッ」
ブラックバブーンは、突然自分たちの棲み処に現れた異物である俺たちを排除しようと襲い掛かる。
「うわぁぁぁっ、ど、どうすんだよーっ?」
『フン、当然なぎ倒して進むに決まっている。行きと同じだ。乗れ』
フェルの背中に飛び乗ると、宣言通りフェルが爪斬撃を放ちブラックバブーンをなぎ倒していく。
『ドラッ、スイッ、後衛は頼んだぞ!』
『おうよ! 任せとけ!』
『スイ、またいっぱい倒すよー!』
「うぉぉぉぉぉぉぉっ」
フェルは俺を乗せて再び木々の間を猛スピードで駆け抜けていった。




