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第三百七十一話 盗賊王の宝

 ブラックバブーンの縄張りの森を無事に越えた俺たちの目の前には、切り立った山がそびえ立っていた。

『む?』

 そう声に出したフェルが山の頂上付近を睨んでいた。

「どうかしたか?」

『頂上手前の切り立った崖があるだろう』

「ああ、あるな」

『あの辺り、幻術の類の魔法がかけられているな』

「幻術? というと、あの辺りに何かあるってことか?」

『おそらくな』

『そういう話なら、俺がちょっくら行って何があんのか確かめてくるか?』

 俺とフェルの話を聞いていたドラちゃんがそう申し出た。

 確かにドラちゃんなら飛べるから確認してくることもできるだろうけど……。

「幻術の魔法がかけられているってことは、誰かが意図的にかけたってことだろ? 危なくないか?」

『ドラなら問題ないだろう』

『そうだぜ。俺、そんな弱くねぇぞ』

「そりゃドラちゃんが強いのは分かってるけど、行くのはドラちゃん単独だろ? 今まではみんなで行動してたのにさ。何があるのか分からないし、やっぱ心配じゃないか」

『大丈夫だって。何かあったとしても、俺がそんなすぐやられるわけないだろ』

『そうだぞ。ドラの強さは我も認めるところだ。ちょっとやそっとではやられはしないわ』

「フェルとドラちゃんがそう言うならいいけど……」

『すぐに戻ってくっから、お前らはここで待ってりゃいいってことよ。んじゃ、ちょっくら行ってくるわ』

「あっ、ドラちゃん待てっ!」

 俺の待てという言葉も聞かず、ドラちゃんは山の頂へと飛んでいってしまった。

「そんなすぐ行かなくてもいいのに。大丈夫かなぁ……」

『心配はいらぬ。ドラは強い』

 それはもちろん分かってるんだけど、何があるか分からない場所へ単独で向かうとなると心配だよ。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「なぁ、本当に大丈夫なのか?」

 ドラちゃんが飛び立って既に2時間近くが経過した。

 さすがに心配になって、ジッとしていられない。

『うろうろするな、落ちつけ。ドラなら心配いらんと何度も言っているだろう』

 落ちつきなくうろうろと歩き回る俺を呆れたように見るフェル。

「そうは言うけどさ、ドラちゃんが飛び立ってからけっこう時間経ってるじゃないか。何かあったんじゃ」

『待て、あそこを見ろ。戻ってきたぞ』

 そう言ってフェルが鼻先で指す空を見上げると、高速でこちらへ向かってくる何かが。

 ヒュンと飛んできた何かは、俺たちの前で止まった。

『わりぃわりぃ、待たせたな』

「ドラちゃん! なかなか戻ってこないから心配したんだぞ!」

『わりぃって』

『フン、だから何度も心配はいらぬと言ったのだ』

「そんなこと言ったって、なかなか戻ってこないんだから心配にもなるだろうよ」

『みんなぁ、どうしたのー?』

 ああ、スイも起きてきちゃったよ。

 ブラックバブーンとやり合ったあと革鞄の中で眠ってたのに。

『スイも起きたならちょうどいい。フェルの言ってたあの場所、面白いもんがあったぜ』

「面白いもの?」

『ああ。あそこにはな……』

 偵察に行ったドラちゃんの話では、フェルが指摘した頂上手前の切り立った崖には実際に幻術がかかっていて一見しただけではただの崖にしか見えなかったそう。

 しかし、フェルから聞いていたこともあって慎重に確認していくと、崖の中腹辺りに洞窟のような横穴を見つけたそうだ。

『幻術で隠されてたのはこれかと思って、とりあえず中に入ってみたんだ。そしたらよ……』

 ドラちゃんが見つけたのは槍で串刺しになった人間の死体。

 3体あったそれは大分時が経って骨だけになっていたそうだけど、革鎧を着て剣を持ち冒険者ギルドでよく見かける冒険者のようだったとのことだ。

 それから何かに押しつぶされたように粉々になった魔物の骨もあったという。

 洞窟、冒険者、魔物、これらから思い出されるのはダンジョン。

 ドラちゃんも「これはもしかしてダンジョンなのか?」って思ったらしいけど、どんどんと奥に進んでも魔物は一向に出てこない。

 おかしいなと思いつつ、一旦飛ぶのを止めて地面に足をつけた途端に……。

『ゴォォォッと音を立てて俺の頭上が業火で埋め尽くされたってわけさ』

「足をつけた途端って」

『おそらく罠だろうな。ドラ、小さくて助かったな』

『ケッ、うるせぇよっ』

「しかし、罠があるってことはやっぱりダンジョンなのかな?」

 ドラちゃんの話では魔物は出ていないみたいだけど、罠があるとなるとそれが1番可能性があるような気がするんだけど。

『ダンジョン行くのー?』

『いや、スイ、あれはダンジョンじゃねぇぞ。ある程度奥まで進んでみて思ったんだけど、ありゃダンジョンじゃない。あの罠はダンジョンっていうより人間が仕掛けたものって感じがした』

「人が?」

『ああ。さっき話した業火の罠のときも、油の匂いが残ってたしな。ダンジョンじゃ罠に油なんか使わねぇだろう』

 そう言われてみると、確かに。

 フェルたちがいたおかげで何の被害もなかったからすっかり忘れていたけど、ダンジョンでもその手の罠があったな。

 でも、思い出してみても油の匂いなんて1度もしなかった。

『ダンジョンの罠は基本ダンジョン内にあるもので構成されているからな。火を使う罠ならば油など使わず火の魔石が使われている』

 フェルの言うとおり、ダンジョンには魔物がいるんだから油なんか使わなくても火の魔石を使った方がよっぽど効率がいいだろう。

「そうなるとドラちゃんの言うとおり人が仕掛けたものってことか。でも、何であんなところに? そこまでして守りたい何かが、その洞窟に隠されているってことか?」

『宝物とかか?』

「いやいや、宝物とは限らないだろう。あんなところに隠すくらいだから、何か世に出せない(いわ)くつきのものかもしれないぞ」

『いや、それはないだろう。そもそも神託でこの山に来たのだぞ。曰くつきのものがあるのなら、わざわざ神が行けとは言わんだろう』

「あっ、そうだった。神託で来たんだよな、この山に。そうなると、何だろうな?」

『ドラの言う宝物というのが1番の線だとは思うが…………、あ!』

 何かを思い出したようにフェルが声を上げた。

「フェル、何か知ってるのか?」

『思い出した』

「何を?」

『うむ。今から300年ほど前にな、この辺りに自らを盗賊王などと名乗る野盗がおったのよ』

「盗賊王?」

 フェルの話では、その盗賊王と名乗る人物の一味はこの辺りを根城に大陸中を行脚しながら盗みというか強盗を繰り返していたらしい。

 商隊、貴族、金のありそうな馬車を狙って襲い、それが成功するとすぐさま移動。

 そのためになかなか居場所がつかめずに、当時の国も冒険者ギルドも、この盗賊王には手を焼いていたそうだ。

 盗賊王がこの辺に根城を築いていたというのも、フェルだからこそ知っていたものの他は知る由もなかった。

「ここが根城だって教えてやればよかったのに」

『何の義理もないのに教えてやる必要もなかろう』

「そりゃあそうだけど」

『まぁとにかくだ、彼奴らは何かのマジックアイテムを手に入れていたのだろう。当時からブラックバブーンの縄張りだったこの森も、自由に行き来しておったわ』

 当時からこの辺がブラックバブーンの縄張りだっていうなら、そりゃあ見つからないわな。

 こんな危険地帯にまさか根城があるとは誰も思わないだろうし。

『その盗賊王だが、正に強欲そのものでな。年老いて寿命を迎える寸前だというのに、自分が手にした宝の数々は誰にもやらんと言って行方をくらませたらしいのだ』

 うわぁ、すごい欲の塊。

 死んだら宝なんて持ってたってどうにもならないでしょうに。

『それから数十年経ち、盗賊王の一味の子孫だかの話でこの辺に盗賊王の根城があったということが噂になった。それで、行方をくらませた盗賊王もこの辺に宝とともに眠っているのではと憶測がたってな。数多くの冒険者が宝を求めて、この地に来たらしいぞ。ほとんどがブラックバブーンに返り討ちにされたようだがな』

「その盗賊王の宝が見つかったって話はないわけだ」

『うむ』

「フェルは、ドラちゃんが見てきた洞窟の中にその盗賊王の宝が隠されているんじゃないかと見ているわけか」

『まあな』

 …………あり得る。

 そもそもデミウルゴス様のこの神託だって、お供えのお礼という感じだし。

 それを考えると、俺の利となることを教えてくださったとしか思えない。

「盗賊王の宝か……」

 面白そうではあるな。

『フハハハハ、話は聞かせてもらった! 面白いじゃねぇか! まだ見つかってないお宝なんて! スイ、ダンジョンではないが楽しそうな話になってきたぜ!』

『楽しいのー? スイもやるー!』

『ということで、早速行こうじゃねぇか!』

『うむ』

『行くー!』

「いやいやいや、みんなちょい待ちなさいよ。何だか行く気満々なんだけども、あと1時間もすれば日も落ちるんだぞ。暗くなってから山登りなんてできるわけないだろ、明日明日」

『むぅ、しょうがない』

『まぁ、腹も減って来たし、明日っていうんならそれでいいけど』

『スイもお腹減ってきたし、明日でいいやー』

 ということで、山へは明日登ることとなった。

 盗賊王の宝は俺も興味があるから行くのはいいんだけど、その前に……。

「この山、どうやって登るんだろ?」

 それこそプロの登山家でもなきゃ無理っぽいんだけど。







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― 新着の感想 ―
[一言] 盗品を見つけたとして、それは宝になるのでしょうか。 本来の持ち主に返さないといけない様な… 続きの話を楽しみにします。
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