第三百六十九話 デミウルゴス様からの神託
新章突入です。
ローセンダールの街を出て最初の野営。
この日は早めに夕飯も済ませたこともあって、恒例のデミウルゴス様へのお供えをすることにした。
お供えはいつものとおり、日本酒数本とプレミアムな缶つまのセットだ。
『いつもすまんの~』
「いえいえ」
ま、これも保険みたいなもんですしね。
『彼奴らの分に儂の分とお主にはずいぶんと手間をかけさせて、本当にすまんなぁ』
「大丈夫ですよ。ニンリル様たちも1か月に1回にしてもらったので余裕がありますし、デミウルゴス様は日本酒がお好きということなので、それを中心に選ばせてもらってるのでそれほど時間もかかりませんし」
デミウルゴス様は基本おまかせだし、俺もランキングとかおすすめを基準に選んでるからそれほど手間というわけでもないしね。
『そう言ってくれるのは嬉しいんじゃが、それじゃあ儂の気が済まんしなぁ。…………そうじゃ! 確かお主らはローセンダールの街を出たとこじゃったな?』
「はい、そうですけど……」
『そうかそうか。それならちょうどいいかもしれんな。儂ら神は、下界にあまり干渉しないというのが鉄則じゃが、これくらいならかまわんだろう』
ん? どうゆうこと?
『その近くに山があるじゃろう?』
山?
そういえば街道の左手に見えてたな。
『その山に行ってみるといいぞい』
「え? その山に何かあるんですか?」
『まぁ、それは行ってみてのお楽しみじゃ。おそらくフェンリルあたりが気付くじゃろうて。それじゃあな』
「あっ! デミウルゴス様っ!」
そのあと何度か呼びかけてみたものの返事はなかった。
「あの山に行けって、何があるんだろう?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ということを言われたんだ」
朝飯を食いながら、昨日デミウルゴス様に言われたことを話した。
ちなみにフェルたちは朝から生姜焼き丼をパクついている。
さすがに俺は遠慮して、おかかのおにぎりと高菜のおにぎり、そしてネットスーパーで買った即席の味噌汁をいただいていた。
『神があの山へ行けとはな。面白い……。おかわり』
フェルの五度目のおかわりの声に大盛りの生姜焼き丼を目の前に置いてやる。
「ほらよ。あの山に何があるのかはわからないけど、神様が行ってみろっていうからには行かなきゃダメだよなぁ」
『でもよ、あの山にはあれがいるぞ。俺もおかわりくれ』
今朝はドラちゃんもよく食うな。
ドラちゃんの目の前に三度目のおかわりの丼を置いた。
「ドラちゃんあの山のこと知ってるのか?」
『まぁな。ずっと前だけど、うっかり入っちまってよ。ひどい目に遭った』
おかわりの丼をがっつきながらドラちゃんがそう言った。
『あるじー、スイもおかわりー』
お次はスイがおかわりか。
スイの前にもフェルと同じく五度目のおかわりの丼を置いた。
「ひどい目?」
『ああ。1対1なら絶対負けるようなことないんだけどよう、あいつら数だけは多いからな。それにめちゃくちゃしつこいし。前のときもずいぶん追い掛け回されたぜ。ムカついたから全力で氷魔法ぶっ放してやったけどな』
何か不穏なワードがいっぱい出てきてるんだけど。
あいつら数だけは多いとかしつこいとか。
ドラちゃんは何を指して言ってるんだろうね?
しかも全力で氷魔法とか、ドラちゃんが全力で魔法ぶっ放したらヤバいんじゃないのか?
『そんで追いかけてきたやつ等の半分以上氷で串刺しにしてやったから、そこで恐れをなしてようやく追い回してこなくなったけどな!』
…………ドラちゃん...。
『何だ、ドラもあいつらとやり合ったことがあるのか』
『というとフェルもか?』
『うむ。しかし、ドラの言うとおり彼奴らは数が多いうえ狡賢いからな。どうとでもなる相手ではあるが、我だけで相手にするには面倒ではあった』
『そうそう、数が多くてしつこくて狡賢いんだった! あのときも数に物言わせて方々から石を投げられたわ』
エェェ、石投げられたって何なのさ。
『しかしだ、今回は我だけではない。ドラもスイもいる。難関のダンジョンは気になるが、神託を無視することはできないからな。ククク、山へ向かうついでに彼奴らに思い知らせてやるのも面白い』
『おっ、その話乗った! 俺だってあいつらにはひどい目に遭わされたからな。仕返しだぜ!』
何かフェルが悪そうな顔してるんだけど。
それにドラちゃん、氷魔法で串刺しにしてやったんだから十分仕返ししたんじゃないの?
ってかさ…………。
「さっきからフェルとドラちゃんが話してるのって何のことなの?」
『ブラックバブーンのことだ』
『そ。ブラックバブーンっつう魔物のこと』
ブラックバブーン?
バブーンっていうと……、ヒヒの魔物か?
『魔物ー? 戦うのー?』
『そうだ。戦うぞ。もちろん我らが勝つがな』
『ハッハー、当然だぜ!』
『ヤッター! スイいーっぱい倒すよー!』
フェルもドラちゃんもスイも既にヤル気満々だ。
だけど、嫌な予感しかしないのは気のせいだろうか?
「でも、行かないっていう選択はないんだよなぁ。何せ、デミウルゴス様から直々に言われたことだし……」
うーむ。
『よし、朝飯も食ったし、早速向かうぞ』
『おう、行こう!』
『いーっぱい倒すー!』
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょい待ちなさいって。なにいきなり行こうとしてんのさ。片付けもしないといけないのに」
『むぅ、さっさとやれ』
「やるけどさ、そんなすぐ行かなくても」
『何を言っている。神託なのだぞ。すぐ実行しなくてどうする』
『そうだぞ、早く山行こうぜ! あいつらにギャフンと言わせてやるんだからさ』
『あるじー、早くお山行こー』
ダメだこりゃ。
みんなすっかり戦闘モードじゃん。
こうなったみんなに待ては効かないな。
しょうがない、山に向かうか。