第三百六十三話 最後もやっぱり肉三昧
肉ダンジョン祭り3日目。
最終日の今日も屋台街は朝から人があふれて大盛況だ。
『よし、今日も食って食って食いまくるぞ』
『おうっ。今日も肉三昧だぜ!』
『今日もお肉いーっぱい食べる~』
うちの肉食系食いしん坊たちは今日も朝から食う気満々だ。
昨日に引き続き今日もフェルとドラちゃんとスイを連れて屋台巡り。
なんだけども、実は今朝早くに商人ギルドから職員の人が来て、何とか屋台を再開してもらえないかという話があった。
何でも俺の屋台で出したホットドッグが噂を呼んで、商人ギルドに問い合わせが多く来ているのだという。
職員の人に何とかお願いできませんかと何度も頼まれたけど、初日しか屋台を出すつもりがなかったからいかんせん準備していない。
肝心要のソーセージを初日で使い切っちゃたし。
孤児院で作ってもらったコッペパンはいくらか残っているけど、パンだけあってもどうしようもない。
ソーセージを作るにしても、それなりに時間がかかるし……。
ここは申し訳ないけどお断りさせてもらった。
断ったのは、屋台巡りをしたいフェルが俺の後ろで睨みを利かせて『断れ』と何度も念話を入れてきたからじゃないからな。
…………多分。
とにかく、準備してないものは出来ないとお断りした。
職員の人は残念そうにしょんぼり帰っていったけど、こればっかりはしょうがない。
そんなやり取りがあったのを知っているフェルは特に張り切っているのは気のせいじゃないよなぁ。
昨日目をつけている屋台があるとか何とか言ってるしさ。
それにしても……。
「昨日も胸焼けするほど肉ばっかり食ってたのによく飽きないよな」
俺がそうつぶやくと、耳ざといフェルにはしっかりと届いていたようだ。
『飽きるわけがなかろう。肉は美味い』
『肉が美味いって何当然のこと言ってんだよ、フェル。それによ、こいつに付いて来て知ったけど、人の作る肉料理はいろんな味が楽しめるからいいよな。全然飽きないぜ』
『うむ。ドラの言うとおりだな。人間は愚かなことをするが、料理についてだけは認めてやってもいい』
『だな』
「まったく、フェルもドラちゃんも偉そうだなぁ」
『偉そうではない。我は偉いのだ』
『そうそう。何せ俺たち強いからな』
何故か無駄にドヤ顔のフェルとドラちゃんに呆れていると、スイからの念話が。
『ねぇねぇ、あるじー、早くお肉食べに行こうよー』
「あ、そうだね。よし行こう」
ったく、素直なのはスイだけだよ。
『昨日我が目をつけた屋台がある。まずはそこへ行くぞ』
「はいはい」
目当ての店に向かって意気揚々と進むフェルのあとに続いた。
そしてたどり着いたのは、屋台街の中央に近い場所にある屋台だった。
ダンジョン豚の串焼きの店のようだ。
串に刺さっていい感じにこんがり焼かれているのは、厚めに切られた見るからにジューシーそうなダンジョン豚のバラ肉。
皮、赤身、脂身とキレイな3層になって、これぞ豚肉という感じだ。
そのバラ肉からポタリポタリと脂が落ちて何ともいえない香ばしい匂いが立ち上っていた。
そこにすかさず岩塩をおろし金でおろしながら振りかけていく店主。
ゴクリ―――。
昨日は“明日はもう肉はいいかな”なんて思ってたけど、これはたまらん。
「兄さん、是非買ってってよ」
40代に手が届くかどうかの温厚そうに見える店主が声を掛けてくる。
「味付けは塩のみですか?」
「ああ。そうだよ。だけどね、このダンジョン豚の肉も塩も俺の舌と目でよーく吟味してるからね、うんまいよぉ~」
味付けはシンプルに塩のみとは、攻めてるねぇ。
他の串焼きの店はタレに工夫を凝らしてるってのに。
こりゃあ相当目利きに自信があるようだ。
『おい、早く買え』
『はいはい、何本?』
『これはなかなかに美味そうだからな。とりあえず30本だな』
『ドラちゃんとスイは?』
『俺は、うーん、このあともあるし、とりあえず10本かな』
『スイはねー、フェルおじちゃんと同じ30本食べるー』
みんなの分として70本か。
ここの店主、相当自信ありそうだし俺も是非とも食ってみたいから俺の分1本追加だな。
「すみません、71本ください」
「おっ、随分多いね」
「ハハ、うちの味にうるさい従魔の分ですよ」
「毎度あり」
代金と引き換えに美味そうに焼きあがったダンジョン豚の串焼きを受け取った。
早速空いたスペースに移動し、みんなして肉にかぶりついた。
「うっま」
味付けは塩のみというシンプルな味付けだけど、それがかえってダンジョン豚本来の肉の旨味を存分に味わえる。
その塩もどこの岩塩なのか聞きそびれてしまったけど、しょっぱ過ぎないまろやかな塩味がこの肉に合っていてダンジョン豚の旨味をさらに引き立てていた。
『うむ、我が目をつけただけはある』
『うめぇーな、これ!』
『おいしー!』
フェルとドラちゃんとスイも納得の味のようで、みんなペロッとたいらげてしまった。
『よし、次に行くぞ』
『おうっ。次はあそこの店にしようぜ!』
『もっとお肉食べるよー!』
食いしん坊トリオは初っ端に美味い串焼きを食ったことでエンジンがかかったようで、すぐさま次の屋台へと向かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ふぅ~、何だかんだで今日もいろいろ食ったな」
やっぱり見て匂いを嗅ぐと、肉はもういいやって気分も吹っ飛んでついついね。
『うむ。この祭りは実にいい。今日で最後なのが残念だ』
『いろんな肉がたらふく食えたもんな。もっとやればいいのに』
『明日も明後日も、ずーっといろんなお肉が食べられるといいのにね~』
フェルとドラちゃんとスイは、肉ダンジョン祭りが今日で最終日なのが実に残念そうだ。
昨日も今日も肉三昧でみんな随分と楽しんでたもんなぁ。
俺たちは、この肉ダンジョン祭りのメインイベントとも言える“美味しい屋台のベスト5”の発表会場に来ていた。
大通りに出来た屋台街の突き当たりにある広場がそれだ。
ちょっとした舞台が作られて、その周りには発表を今か今かと待つ参加者や客が埋め尽くしていた。
ここに来る前にしっかりと投票も済ませてある。
とは言っても、投票できたのは人間である俺の分だけだったけども。
俺の一押しは今日食ったシンプルに塩のみの味付けのダンジョン豚の串焼きの店。
みんなの意見も聞いてみたけど、それぞれ好みもあってなかなか意見がまとまらなかった。
結局、俺の一押しの店も美味かったという話になって、この店に一票を投じた。
メイナードとエンゾの店も美味かったけど、ま、まぁ、贔屓はダメだからな。
2人ともごめんよ、ということで勘弁してもらうことにした。
とにかくだ、ここで上位に入れば人気店の仲間入りできるそうだし、どんな店が上位に入るのか楽しみだな。
そうこうしているうちに、舞台に小太りの男性が。
お、もうそろそろ始まるのか。
「えー、司会を勤めさせていただきます商人ギルド副ギルドマスターのラインホルトと申します。みなさまよろしくお願いいたします。今年の肉ダンジョン祭りは天候にも恵まれ、つつがなく最終日を迎えることができたわけですが……」
「そんなことより早く発表しろーっ!」
舞台に上がった司会の商人ギルドの副ギルドマスターがしゃべっていると、焦れた客から野次が入る。
野次に同意する「そうだそうだ」という声もそこここから聞こえてきた。
ま、いいところで長話されちゃそうなるわな。
「ゴホンッ。えー、肉ダンジョン祭り毎年恒例の美味しい屋台上位5店の発表を心待ちにしている方が多いようなので、早速発表させていただきたいと思います。まず5位からの発表です。5位は……、今年初参加だというメイナードさんとエンゾさんの若い2人の店です!」
発表と同時に沸き起こる歓声と拍手。
マ、マジか……。
上位も狙えるって言ってたけど、あの2人、本当に入賞しちゃったよ。
興奮した様子のメイナードとエンゾが舞台に上がっていく。
「2人とも一言どうぞ。まずはメイナードさんから」
「自信はありましたけど、本当に入賞できるとは……。これも師匠のおかげです! そして、投票してくれたみなさん、ありがとう!」
「それでは次はエンゾさん」
「みなさんありがとう。そして、師匠、やりましたよ!」
ワァァァァッ―――。
再び沸き起こる歓声と拍手の嵐。
なんだよ、2人とも嬉しいこと言ってくれるじゃん。
教えた甲斐があるってもんだ。
「続いて4位は……」
順位が発表されるごとに起こる歓声と拍手。
そしてそれぞれの悲喜こもごも。
肉ダンジョン祭りの“美味しい屋台のベスト5”の授賞式は熱狂のうちに終了した。
ちなみにだが、5位のメイナードとエンゾの店のほか1位から4位もすべて、フェルとドラちゃんとスイと一緒に屋台を巡り舌鼓をうった店だった。
1位はなんと昨日1番最初に向かったハーブを使った特製ダレのダンジョン牛の串焼きの店だった。
2位は特製ソースをかけたダンジョン豚のステーキの店で、3位はこってりした特製ダレをつけて焼いたコカトリスの串焼きの店、そして4位には俺たちも票を入れた塩のみの味付けのダンジョン豚の串焼きの店が入っていた。
屋台巡りで立ち寄った店はすべてフェルとドラちゃんとスイの意見をもとにしている。
その中に入賞店すべてが入っているとはね。
食いしん坊トリオの嗅覚恐るべしだ。
「さてと、帰ろうか」
俺たちは、興奮冷めやらず未だザワつく会場をあとにした。
肉ダンジョン祭り―――。
みんなでワイワイ言いながら屋台巡りして肉を食いまくるの案外楽しかったな。
「なぁ、また来年来ような」
『うむ。来年も来るぞ』
『絶対だぜ』
『また来るよ~』




