第三百六十一話 肉ダンジョン祭り
本日、WEBコミック誌『コミックガルド』にてコミック6話目更新してます!
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肉ダンジョン祭り当日―――。
大通りの両脇に屋台が所狭しと並ぶ。
それを目当てにした人人人。
ローセンダールの街の内外から集まった人で、肉ダンジョン祭りは賑わいを見せていた。
「毎度あり~」
ホットドッグを買ってくれた親子を見送る。
「兄ちゃん来たぜー」
「お、ルイスたちか。今朝ぶりだな」
ルイスとパーティーを組んでいる面々がやって来た。
「端っことは聞いてたけど、本当に兄ちゃんの店が端なんだなぁ」
「まぁな。申し込みが遅かったからしょうがないよ」
肉ダンジョン祭りのために出来た屋台街の1番端に俺の店はあった。
店とは言っても、特注のマイBBQコンロを出して店としているだけなんだけど。
ちなみにフェルとドラちゃんとスイは、店を出している俺の後ろの空いているスペースで昼寝している。
屋台巡り出来ないことを散々愚痴られたけど、屋台を出すのは今日だけだからとなんとか納得してもらった。
フェルとドラちゃんとスイが「明日と明後日は屋台巡りでとことん食う」とか意気込んでいたのがちょっと怖いけど。
「やっぱ場所がいい店よりは客の入りが少ないね」
「そりゃそうかもしれないけど、それでもそれなりにお客さん来てくれてるんだぞ」
俺としては、これくらいが余裕を持って対応もできるしいい感じなんだけどな。
「それはそうと、これ、美味そうだなぁ。この腸詰をうちで作ったパンに挟むんだろ?」
「そうだ。このこんがりいい感じに焼けた腸詰を孤児院で作ってもらったパンに挟んで、このトマトソースをかけるわけだ」
「「「「「「ゴクリ……」」」」」」
ルイスをはじめその仲間たちの目がこんがり焼けた俺お手製のソーセージに釘付けだ。
「美味そう……」
「おい、これは商品なんだからやらんぞ。食いたいなら買ってくれよ」
そう言うと、みんな残念そうな顔に。
さすがにこれは売り物だからねぇ。
買ってちょうだいよ。
「やっぱそうなるか。どうする、みんな?」
ルイスたちがどうしようかと相談している。
「兄ちゃんのは確かに美味そうだけど、他の店のも食いたいしなぁ」
「でも、兄ちゃんの飯はめっちゃ美味いぜ」
「そうなんだよなぁ」
「うんうん、迷うところだよなぁ」
「で、これはいくらなんだ?」
おうおう、どうする君たち?
「兄ちゃん、それっていくらなの?」
「これか? これは1つで鉄貨6枚だな」
「鉄貨6枚か、う~ん。ちょと高いな」
「えー、そうか? パンと腸詰なんだぞ。これでも良心的な値段にしたつもりなんだけど」
「確かにそう言われりゃそうか。肉だけじゃなくパンもあるから腹にもたまりそうだしな。うーん……。よし、俺は買うぞ! 兄ちゃん1つくれっ」
買うと決めたルイスからの注文だ。
「おう、毎度あり」
ルイスから鉄貨6枚を受け取った。
こんがり焼けたソーセージを孤児院特製のコッペパンに挟んで、たっぷりとトマトソースをかけて出してやる。
「うわっ、美味そう」
「美味そうじゃなくて美味いんだよ。食ってみろ」
ルイスがガブリとホットドッグにかぶりついた。
「うっまぁ~」
幸せそうな顔でそう言ったルイスを見て我慢できなくなったのか、他のみんなも次々とホットドッグを注文していった。
そして、大口を開けてホットドッグにかぶりつく。
「美味い!」
「これは買って正解だったな!」
「パンに腸詰を挟むだけで、こんなに美味くなるんだなぁ」
「バァーカ。この腸詰はめちゃくちゃ美味いんだっての。パリッとして中から肉汁がジュワァよ」
「それこそバーカだ。確かに腸詰もウメェけど、上にかかってるこの赤いソースが全体をまとめて美味くなってんだっての」
お前ら孤児なのに案外グルメだよな。
肉ダンジョンのあるこの街だからなのかね。
ルイスと仲間たちが、店の前であれこれ言いながらホットドッグを美味そうに食っているのが宣伝になったのか、近くにいたエルフの男性がホットドッグを買いに来た。
「私にも1つください」
「毎度ありー」
鉄貨6枚をもらいホットドッグを渡す。
お上品な顔をしたエルフの男性が大口を開けてかぶりつく。
目を閉じてゆっくりと味わうように噛み締めたあとゴクリと飲み込む。
次の瞬間、目をカッと見開いて今度はガツガツとホットドッグを貪り食った。
瞬く間にホットドッグを完食すると「フゥ~」っと息を吐いた。
「いや~、非常に美味しかったです。こうして今までにない美味しいものに出会うことができるんですから、肉ダンジョン祭り通いは止められませんね~」
笑顔でそういうエルフ。
「追加でもう1つお願いできますか」
「はいよ」
代金を受け取って追加のホットドッグを渡した。
再びホットドッグにかぶりつくエルフ。
そして……。
「うーん、美味しい。この腸詰は肉汁たっぷりだし、塩だけでなく胡椒も入っていますね。それに、上にかけられたトマトを煮詰めたものも程よい酸味がこの腸詰とパンに抜群に合います」
そうブツブツつぶやくエルフ。
「ハッ、すみません。ご存知かもしれませんが、エルフは食には一家言ありましてね。私の場合、ついつい感想を口にしてしまうのがクセでして」
あー、エルフはグルメで食にうるさいってことですね。
はいはい知ってますよ。
知り合いに、某街の冒険者ギルドのギルドマスターとか某Aランク冒険者パーティーの見た目クール美女な冒険者とかがいるんで。
まぁこの2人はただ単に食いしん坊エルフって感じだけど。
少し話してみると、このエルフの男性客はガブリエルさんという行商人で、肉ダンジョン祭りには開催当初から毎年来ているそうだ。
しかし、毎年とはかなりのリピーターだね。
「この時期になると、毎年どうしようかと迷うのですが、結局足がこの街に向いてしまうんですよねぇ」
普段は、王都とビショフという街(王都とここローセンダールの中間くらいにある街)の間を行ったり来たりして行商しているそうだが、肉ダンジョン祭りの時期になるとついついローセンダールの街まで足を伸ばしてしまうそう。
「エルフの知り合いがいますけど、やっぱりガブリエルさんも美味いものには目がないんですね」
「ハハハハ、エルフですからね」
そんな風にガブリエルさんと話していると……。
「なぁんだ、だから肉ダンジョン祭りの時期になると街にエルフが増えるのか~」
俺たちの話を聞いていたルイスがそう言った。
「そういやこの時期になるとよくエルフを見かけるよなぁ」
他の仲間たちもうんうんと頷いている。
言われてみれば、あそこにもそこにもエルフがいるな。
「肉ダンジョン祭りでは美味しいものがいろいろと食べられますからねぇ。やはり私たちとしては惹きつけられますよ」
美味いもの目当てで、この街にエルフが集結しているようだ。
食い物のために大移動も辞さないエルフ、恐るべし。
そうは言っても、うちの食いしん坊たちも同じようなもんか。
「今年も来て正解でした。こうして美味しいものが食べられましたから。明日もまた食べに来ますね!」
ガブリエルさんが明日も来る気満々でそう言う。
でもねぇ……。
「あの、申し訳ありませんが、この屋台、今日しかやらないんですよ」
「エエェェェッ、そ、そんな……」
ガブリエルさん、そんな泣きそうな顔しなくても。
「あっ、そうだ! ちょっと待っててくださいね」
そう言うと、アイテムボックスの中をゴソゴソしだした。
魔力豊富なエルフだからガブリエルさんもアイテムボックス持ちってことだな。
「あった! これに、詰めるだけ詰めてください!」
ガブリエルさんが出したのは小ぶりのバスケットだ。
でも、小ぶりとはいえど、ホットドッグが10個くらいは入りそうだ。
「本当にいいんですか? けっこうな数になりそうですけど。それに、アイテムボックスに入れてるとはいえ食品ですから、早めに食べてもらわないと……」
俺みたいな時間経過なしのアイテムボックスじゃなきゃ食いものの保存はヤバいぞ。
「大丈夫ですよ。これに入るくらいなら、おそらく明日中には食べ切っちゃうと思いますから」
これに入る量を明日中かよ……。
まぁ、それじゃあということで、代金を受け取ってホットドッグをバスケットに詰めていった。
バスケットの中にはきっかり10個入った。
「どうぞ」
「ありがとうございます! それでは」
そう言ってガブリエルさんは、早速ホットドッグをパクつきながら去っていった。
それから1時間後―――。
「え? な、何なんだ、これは……」
俺の店には、何故かエルフが大挙して訪れていた。
最初は少し客足が増えたなと思いながら対応していたんだけど、いつの間にかワラワラとエルフが集まってきて……。
ホットドッグを作ったり、代金を清算したりでてんやわんや。
暇だったのか未だ俺の店の周りでうろちょろしていたルイスたちを急遽バイトで雇って何とか対応した。
大量のソーセージを焼いていると、ホットドッグを食っているエルフたちの言葉が耳に入った。
「ガブリエルの言ったとおりだ。これ、美味いな!」
「同じ宿のガブリエルさんに美味しいって聞いて来て見たけど、正解だった!」
「ガブリエルさんの情報だったけど、やっぱり同胞の美味いもの情報にはハズレがないな~」
…………原因はあんたかーっ!
口コミしてくれるのはありがたいけど、いっきに来過ぎだぜ。
エルフっていうのは、美味いもの情報を聞いたらすぐに食いたくなる性質なのかね。
そんなことを思いつつ、黙々とホットドッグを作り続けた。
「はぁ、何とか捌けたな」
ようやくエルフの客が捌けた。
急遽バイトにはいってもらったルイスたちも疲れた顔をしていた。
今回は本当に助かった。
ルイスたちがいなかったら大変だったぜ。
少しは駄賃を弾もうかと考えていると、1人のおっさんが声を掛けてきた。
「おい、兄ちゃん。エルフが美味そうに食ってるのって兄ちゃんの屋台のもんだよな?」
俺の店の周りにはホットドッグを美味そうにパクつくエルフがたくさんいた。
「まぁ、そうですね」
「やっぱそうか! 俺にも1つくれ。いやぁ、舌の肥えたエルフが美味そうに食ってるもんだから気になって気になって」
おっさんがホットドッグを買うと、それを皮切りに再び客が大挙して押し寄せた。
おっさんと同じくエルフが美味そうに食ってたものだから、それに釣られてという感じのようだ。
「俺も1つくれ!」
「俺もだ!」
「私にもちょうだい!」
「こっちは2つだ!」
「う、うわっ、お、おい、みんな仕事だぞ!」
またルイスたちに手伝わせて、何とか対応していった。
「はい、これで売り切れです! 申し訳ありませんがお終いです」
最後の1つのホットドッグが売れた。
メイナードとエンゾに手伝ってもらって屋台用に用意したソーセージがすべてなくなった。
多めに作ったつもりだったんだけどな。
「ハァ、疲れた」
「兄ちゃん、俺もだぜ」
ルイスのその言葉に他の仲間たちも無言で頷いている。
「今日は本当に助かったから、1人銀貨2枚の駄賃だ」
「ホントかっ?!」
「もちろんだ。ほれ」
1人ずつ駄賃を渡していくと、疲れた顔をしていたのにもう笑顔だ。
「よし、これで美味いもの食うぞ!」
「「「「「おうっ!」」」」」
お前ら、まだそんな元気あったんだな。
まったく現金なもんだぜ。
「そんじゃ兄ちゃん、またなぁ~」
ルイスと仲間たちが、まだまだ活気を見せる肉ダンジョン祭りの屋台街へと消えていった。
「さて、俺らも帰るか」
フェルたちにそう声をかけると、フェルの不機嫌な声が。
『おい、何か忘れてやしないか?』
「ん?」
『飯だ、飯っ』
「あーっ! ごめんごめん。忙しすぎてすっかり忘れてたわ」
エルフの襲来やらそれに釣られてきた客が大挙して押し寄せたもんだから、フェルたちの昼飯のことまで頭が回らなかったよ。
『ったくよぉ。空きっ腹にここの匂いはきついんだからなっ!』
ドラちゃんもご立腹だ。
『あるじー、お腹空いたよぅ……』
スイにいたってはひもじくて悲しそうな声。
「みんなごめん、ホントごめんなっ。ここの屋台にあるの何でも買ってやるから、な!」
両手を合わせてフェルとドラちゃんとスイに頭を下げた。
『フンッ、当然だ』
『だよな!』
『スイ、いっぱい食べるのー』
その後、フェルとドラちゃんとスイが満足するまで言われるままあっちこっちの屋台で大量購入して、俺の肉ダンジョン祭り1日目が終わった。