第三百五十五話 人員確保
皆さま、感想やらメールでお気遣いいただきありがとうございます。
夏バテと言ってもそれほどひどくはないので大丈夫です!
8月はもっと暑くなりそうなので、体調管理には気を付けないとですね。
皆さまもご自愛ください。
「君たち、何か用?」
昨日ダンジョンで出会った孤児院パーティーのリーダーの少年に声をかけた。
「あっ、おっちゃん、じゃなくて兄ちゃん」
君ィ、昨日も言っただろうが。
俺は決しておっちゃんではない。
「で、何か用か?」
「うん。ちょっと兄ちゃんに頼みごとがあってさ」
「頼みごと?」
「うん。実は……」
リーダーの少年ルイスの話によると、昨日スイに頼んで作ってもらった木製のバット、あれを孤児院に持ち帰ったところ、それを見たダンジョンに通う他の少年少女が自分たちも「欲しい!」って騒ぎになったらしい。
それでどうやって手に入れたのかを教えろって大勢から詰め寄られて……。
「俺の話をしたってわけか」
「ごめんな、兄ちゃん。迷惑だからダメだぞって何度も言ったんだけど、みんな聞かなくってさ」
そう言って申し訳なさそうな顔をするルイス少年。
まぁ1階層とはいえダンジョンに入ってるんだもんな。
下手すれば痛い目を見るんだし、よりよい武器を求めるってのもしょうがないか。
「話は分かった。しかし、俺がここにいるってよく分かったな」
「そんなの調べればすぐに分かったよ。Sランクのテイマーの冒険者ってすっごい噂になってたぞ。ってか兄ちゃんってSランクのスゲェ冒険者だったんだな! 全然そんな風には見えないけどさ!」
おい、一言余計だぞ。
確かにSランク冒険者には見えないかもしれないけどさ。
「ま、いいや。とりあえずお前ら、中へ入れ。そこで柵にへばりついていられると通りの人にも迷惑だし、落ちついて食ってらんねぇよ」
「だってさぁ、兄ちゃんに会いに来たらスッゲェいい匂いがするんだもんよぉ。なぁ、みんな」
ルイスがそう言うと、周りにいた少年少女がコクコクと頷く。
「ハァ、分かった分かった。とりあえずみんな中入れ」
俺は、孤児院の少年少女たちを柵の中へと迎え入れた。
のはいいんだけど…………。
少年少女の視線がBBQコンロに注がれる。
もうすんごいギラギラした目で凝視だよ。
そんな目で見てたって焼きあがったホルモンはフェルたちにあげたから、網の上には何にもないぞ。
まぁ、すぐに焼ける状態ではあるけどさ。
それにしても、みんな飢えた猛獣のごとくギラついた目だね。
食わせるのはいいんだけど、足りるかな?
モツの下処理に手間がかかるから、俺たちが食う分くらいしかしてないんだけど。
……あ、いいこと思いついた。
下処理、こいつらにやってもらえばいいじゃん。
まだまだモツはあるから、食わせる代わりにやってもらおう。
うん、それがいい。
「お前ら、肉、食いたいか?」
そう聞くと、少年少女たちがブンブン首を縦に振る。
「食わせてやってもいいけど……」
そう言った途端にワーッと歓声があがり、いっきにBBQコンロの周りに腹を空かせた少年少女が群がった。
「ちょーっと待った!!! こっち注目っ。まずは、俺の話を聞きなさい」
「何だよ兄ちゃん。食わせてくれるんじゃないのかよ?」
ルイスが不満げな顔をしてそう言う。
周りの少年少女も不満げな顔だ。
「おいおい、誰もタダで食わせるとは言ってないぞ。いいか、食わせる代わりにこのあとちょっと仕事を手伝ってもらうからな。それでもよければ食わせてやる。どうだ?」
「何だ、そんなことか。金を払えっていうんじゃなければいいぞ。みんなもそうだろ?」
ルイスがそうみんなに問いかけると「ああ」と言う返事がそこかしこからあがる。
「よし、そんじゃちょっと待て」
アイテムボックスからフォークと皿を取り出した。
少年少女は総勢21人。
何とか手持ちの物で間に合った。
「よし、焼いていくからな」
再びホルモンをBBQコンロで焼いていく。
ジュウジュウと食欲をそそる音と匂いが立ち込める。
『おい、小童どもだけでなく我らも食うからな』
フェルがぬぅっと顔を覗かせてそう言った。
「うおっ、デカい狼がしゃべったぞ!」
「スッゲー! しゃべる狼なんて初めて見たー!」
「私も初めて見た! スッゴーイ!」
人語をしゃべるフェルに驚く少年少女。
孤児院の子どもたちはフェンリルのことは知らないみたいだ。
御伽噺で知っている子もいるかもしれないが、フェルがフェンリルだとは分かっていないんだろうな。
子どもということもあって、怖い物知らずなのかフェルに興味津々のよう。
隣にいるドラちゃんとスイにも興味津々だ。
そうは言っても、食欲の方が勝っていた。
「焼きあがったぞ」
そう言った途端にフェルもドラちゃんもスイも押し退けて我先にと皿を出してくる少年少女。
これにはフェルもドラちゃんもスイも唖然としていたね。
とりあえず腹ペコの子どもたちの皿に焼けたホルモンを次々と載せてやってからフェルたちの皿へ。
『我等を押し退けるとは、この小童どもなかなかやるな』
ホルモンを食いながらフェルがそうボヤいてたよ。
当の子どもたちはというと「これ変わった食感だけど美味いな」なんて言ってホルモンをペロッと完食。
当然こんなもんで腹は満たされるわけもなく、次々と追加のホルモンを焼くことになった。
ホルモンがダンジョン豚とダンジョン牛の内臓だと知ったときは「えっ、それハズレじゃん」とか「ブヨブヨして気持ち悪いやつ」とか言って驚いてたけど、美味いならそんなのは関係ないのかバクバク食ってたな。
食欲旺盛な子ども21人とフェルとドラちゃんとスイがモリモリ食ってれば、用意したホルモンもすぐに尽きるわけで……。
「ありゃ、もうない。とは言っても今から下処理するとなると時間がかかるし。ここはしょうがない、ダンジョン豚とダンジョン牛の肉を出すか。もちろん普通のだけど」
子どもに上位種は贅沢過ぎる。
普通のダンジョン豚とダンジョン牛の肉でも子どもたちは大騒ぎだったけどな。
滅多に食えないご馳走だって、みんなしてこれでもかってくらい腹に詰め込んでたぜ。
ったく少しは遠慮せいっての。
「ふ~、食った食った」
満足気にそう言って腹をさするルイス少年。
「お腹いっぱい~」
「こんなに肉食ったの初めて。幸せだなぁ」
「おいしかった~」
パンパンに腹を膨らませた少年少女も一様に満足そうだ。
「よーしお前ら、少し休んだら約束通り仕事手伝ってもらうからな」
「「「「「エエーッ」」」」」
美味い肉の余韻に浸っていたところへの俺の言葉に、子どもたちはちょっと不満げだ。
「エーじゃないよ。そういう約束だったろ。腹いっぱい食ったんだから、その分働け」
そういう約束だったんだから、ここはしっかりと働いてもらうぞ。
「ま、しょうがねぇよ、みんな。そういう約束だったんだし。それに美味い肉腹いっぱい食わせてもらったんだしさ」
ルイス少年がそう言うと、子どもたちの間から了承の言葉が次々とあがった。
「確かになぁ」
「ま、しゃあねぇか」
「お腹いっぱいお肉たべさせてもらったしね」
フハハハハ、無事人手確保。
大量にあるモツの下処理、全部やっていただこうじゃないの。
そうすれば料理に使うときもすぐに使えて手間が省ける。
さぁて、それではやってもらうとしましょうか。