第三百五十三話 話を聞かない奴ら
更新遅くなりました。すみませんです(汗)
次回更新はなるべく早めにとは思っております。
7月25日に発売となる「とんでもスキルで異世界放浪メシ 3 ビーフシチュー×未踏の迷宮」ですが
3巻から登場する新キャラを↓こちらで公開してます!
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本編ではお馴染みとなりつつあるドラゴンLOVEの壮年エルフと酒好きコンビです。
よろしかったらご覧になってみてください。
11階層―――。
黒い巨体のダンジョン牛の上位種が、そこかしこで草を食んでいた。
ダンジョン牛は、見た目は黒毛和牛にそっくりだけど、大きさは牧場で見る牛よりも一回りデカい。
この階にいる上位種は、そのダンジョン牛の倍はある大きさに角も生えていた。
「10階のダンジョン豚の上位種もデカいと思ったけど、ダンジョン牛の上位種はさらにデカいな」
『うむ。どれくらいの肉が出るかは分からんが、数もいるようだし食いでがあるな』
ダンジョン牛を見るフェルの目がギラついていた。
殺す気満々だよ。
『肉だ肉。ここでも狩りまくるぜー!』
『美味しいお肉、美味しいお肉~』
ドラちゃんとスイも、今にもダンジョン牛に向かって行きそうな勢いだ。
「あー、みんな、もう1回言うけど、ほどほどにな、ほどほどに。それと……」
俺はアイテムボックスからマジックバッグを取り出した。
「これをフェルに渡しておくから」
フェルの首にマジックバッグをかける。
「ある程度狩ったら、肉はフェルのマジックバッグに入れるか俺に渡してくれよ」
みんな一応は返事をするものの、聞いているのかいないのか、既にみんなの意識はダンジョン牛一直線だ。
『よし、ドラ、スイ、行くぞ!』
『おうよ!』
『お肉いーっぱい獲るのー!』
フェルの掛け声とともに、みんなが散っていった。
「ほどほどだぞ、ほどほどー!」
散っていくフェルとドラちゃんとスイに念押しに声をかける。
ほどなくして、ダンジョン牛の悲鳴がそこかしこから聞こえてきた。
「ブモォォォッ」
「モォォォォォッ」
「ブッ、ブモォォォォッ」
フェルもドラちゃんもスイものっけから狩りまくっているようだ。
「ったく、大丈夫かよ。ま、とりあえず、肉を回収に行くか。やり過ぎるようだったら止めればいいし」
………………
…………
……
「止めればいいし、なんて安易に考えていた俺が馬鹿でした……」
草原に無数に散乱したダンジョン牛の肉塊を前に項垂れる俺。
フェルもドラちゃんもスイも「もういいよ!」って言っても聞きやしない。
というか、狩りに夢中でそもそも聞いてないんだもんよ。
結局この階のダンジョン牛の上位種も狩りつくしちゃったよ。
ダンジョン牛の姿が消えたあとのフェルとドラちゃんとスイの言い訳がまたさぁ……。
『ぬ、知らぬ間に狩り尽くしていたぞ』
『いやぁ~、美味そうな肉だと思ったらついな』
『美味しそうなお肉だからいーっぱい獲ったの~』
狩り尽くしたあとにそんなこと言われても、もうどうしようもないじゃん。
そのままにしておくのももったいないし、結局みんなで拾い集めたよ。
フェルにマジックバッグを持たせておいたのが功を奏して、肉の回収が10階層のダンジョン豚のときよりは時間がかからなかったことだけは良かったけど。
何だかんだでここでも3桁を超えるダンジョン牛の上位種の肉塊が手に入ってしまった。
「はぁ、じゃ次行くか。……フェル、ドラちゃん、スイ、分かってるとは思うけど、ほどほどにな、ほどほどに!」
『しつこいぞ。分かっているわ』
『わぁってるって』
『分かったよ~』
本当に分かってんのかねぇ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そして、ついにやってきた肉ダンジョンの最終階層の12階。
「あれがダンジョン豚とダンジョン牛の上位種の特殊個体だな」
明らかに周りのダンジョン豚とダンジョン牛よりもデカい個体がいくつか見受けられた。
しかも、ダンジョン豚の下顎から突き出した牙もダンジョン牛の角も、より太く鋭く発達していた。
『うむ、だろうな。しかもだ、彼奴ら生意気にも我らに歯向かうつもりだぞ』
「ん? 歯向かうって?」
不思議に思って特殊固体がいる方に目を向けると……。
「ゲッ」
ダンジョン豚とダンジョン牛の上位種の特殊個体は、しっかりと俺たちの方を見据えていた。
そして、前足で何度も地面を蹴って……。
「ブモォォォォォォォォォッ」
「プギィィィィィィィィィッ」
雄叫びを上げた特殊個体が巨体を揺らして全速力で俺たちに向かって突進してきた。
ドドドドドドドドドドッ―――。
地響きのような足音が迫る。
「マズい! こっち突っ込んできたぞ!」
しかもだ、特殊個体に釣られて上位種もこちらに突進してきていた。
「ヤバいヤバいヤバい!」
向かってくるダンジョン豚とダンジョン牛の大群の迫力に思わずチビりそうになる俺。
『怯むなっ! このような奴ら我らの敵ではないわ! ドラッ、スイッ、返り討ちにしてくれるぞ!』
『当然だぜ! こんなのが俺たちに敵うわけないだろ! 全部肉に変えてやるぜ!』
『やるよー! スイ、いーっぱい倒しちゃうもんねー!』
ビビる俺とは対照的に、フェルとドラちゃんとスイは迫りくる巨体のダンジョン豚とダンジョン牛の大群へと自ら向かって行った。
そして……。
ドッゴーン、バリバリバリィィィッ―――。
ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ―――。
ドシュッ、ドシュッ、ドシュッ―――。
ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ―――。
ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ―――。
ダンジョン豚とダンジョン牛を襲う稲妻。
そしてかまいたちのような斬撃。
縦横無尽に飛び交い、ダンジョン豚とダンジョン牛に風穴を開けていく炎に包まれたドラちゃん。
ダンジョン豚とダンジョン牛の頭を貫く氷の柱。
高速連射されるスイの酸弾。
フェルとドラちゃんとスイの攻撃が飛び交う。
勇ましく俺たちに向かってきていたはずのダンジョン豚とダンジョン牛の大群が、今は哀れに逃げまどっていた。
「…………何とも一方的過ぎて、ダンジョン豚とダンジョン牛が可哀想になってきたよ」
フェルとドラちゃんとスイ、無敵のトリオに追い立てられて阿鼻叫喚のダンジョン豚とダンジョン牛は着実に数を減らしていった。
そして、数十分後。
『よっしゃ、これで最後だ! おりゃあっ!』
ドシュッ―――。
炎を纏ったドラちゃんが高速で飛来し、最後まで残っていたダンジョン牛の特殊個体の横っ腹を貫通していった。
「ブモォォォォォッ」
断末魔の叫びのあと、崩れるように倒れていく巨体。
そして残ったのは大きな肉塊だった。
静まり返った草原。
ダンジョン豚とダンジョン牛の大群は、きれいさっぱり姿を消していた。
「…………なぁ、フェル」
『む、ほどほどにとは言っていたが、今回は仕方ないだろう』
『そうだぜー、歯向かってきた奴らが悪い』
『あるじー、お肉いっぱいだよー』
「ハァ~、確かに今回はしょうがないか。倒してもらわなきゃ、俺もヤバかったし。よし、残していくのももったいないからとにかくこの大量の肉を回収するぞ。みんな手伝え」
フェルとドラちゃんとスイとともに、大量の肉塊を拾い集めていった。
「あー、ようやく終わった」
思わず草の上に大の字になってしまった。
『まったく、お主は柔だな』
大の字になった俺の横に座って俺を見下ろしたフェルが呆れたようにそう言った。
「うるさいなぁ~、拾い集めるのも大変なんだぞ。中腰だから腰に来るしさぁ」
『それが柔だというのだ。ほれ、立て。腹も減ったことだし帰るぞ』
『賛成。俺もいい加減腹減ったぜ』
『スイもお腹減ったよ~』
「あー、はいはい。よっこらせっと」
もう少し休みたいところではあったが、みんなに促されて重い体を起こした。
「じゃ、戻るとするか」
ダンジョンの外に出ると、すっかり辺りは暗くなっていた。
大分時間が過ぎていたようだ。
今回は冒険者ギルドのギルドマスターのジャンニーノさんの依頼でもあるから、遅くなってしまったが、一応冒険者ギルドによってみた。
ジャンニーノさんは今か今かと待っていたようで、ギルドに入ってすぐにやってきた。
依頼はダンジョン豚とダンジョン牛の上位種の肉をできれば10頭分という話だったけど、5頭分余計に渡した。
何せフェルもドラちゃんもスイも張り切り過ぎて10階、11階、12階のダンジョン豚とダンジョン牛の上位種は狩り尽くしたからね、ハハ。
俺のアイテムボックスには大量の肉塊が保管されているし。
ジャンニーノさんも久しぶりに上位種の肉が手に入ったということでホクホク顔だった。
久々ということで、買取金額も高めに設定してくれたようで全部で金貨360枚になったよ。
早々に買取代金をもらって、この街で宿にしている借家へと帰った。
本当なら夕飯はモツ料理をと思っていたけど、疲れてそれどころじゃなかった。
夕飯は簡単に済ませて、モツ料理は明日へ繰り越しだ。
明日は存分にモツを堪能してやるぞ!
ただ今のムコーダ所持金額
推定金貨87,865枚
何気に増えてます(笑)




