第三百四十四話 畑、収穫!
朝飯を食ったあと、俺は畑に向かった。
「おはよう、みんな」
畑ではトニ一家とアルバン一家、そして警備総出で、大きく実ったメロンやらスイカやらキュウリを収穫していた。
「おはようございます、ムコーダさん」
「おはようございます」
一家の主であるトニとアルバンが挨拶すると、次々と「おはようございます」と返ってくる。
「ムコーダのお兄ちゃん、おはよう! 見て見て、こーんなに大きいの!」
ロッテちゃんがもぎ取った丸々と大きく実った真っ赤なトマトを上に掲げてそう言った。
「おお、大きく実ったなぁ」
「でしょー。他のもね、すっごく大きいんだよ! こっちこっち」
ロッテちゃんに手を引かれて畑の中に足を踏み入れた。
「ムコーダさん、勝手に収穫してしまってすみません。成長が早いもんで、これ以上放っておくと腐ってしまうのではと思いまして」
ナスを収穫していたアルバンが俺のほうを向いて、申し訳なさそうにそう言った。
「いや、いい判断だったと思うぞ。せっかくこんなによく実ってるのに腐らせちゃもったいないし」
メロン、スイカ、レタス、キュウリ、トマト、ナス、トウモロコシ、カボチャ。
畑に蒔いた種はどれもこれもこれ以上ないくらいによく育っている。
というか、普通のものより1.5倍くらい大きい。
大きいと中身がスカスカだったりするんだけどと思いながら、近くにあったトウモロコシを1つもいでみた。
「うん、大きいね。ひげ根もふさふさしてるし、重さもけっこうズッシリしてる」
皮を剥いてみると、ハリのある少し白っぽい粒がギッシリと詰まっていた。
「確かトウモロコシって白っぽい方が甘いんだよな」
生でも食えないことはないので、少し齧ってみた。
「あっま! 何コレ、あっま!」
ハリのある実は1粒1粒ジューシーで、驚くほど甘かった。
「え? トウモロコシってこんな甘かったっけ? 今まで食ってたトウモロコシと全然違うんだけど」
もしやと思い鑑定してみると……。
【 トウモロコシ 】
異世界の野菜トウモロコシ。たっぷりの栄養と異世界にはない魔素にさらされることで最高品質に育った。実をつけるのは1代限り。
やっぱりあの栄養剤が影響していたか。
それと魔素。
これも影響しているようだ。
確かに地球には魔素なんてもんはなかったもんなぁ。
って、そういうことなら、トウモロコシ以外もこんな感じか?
そう思いつつ他の野菜類も鑑定してみると、トウモロコシと同じような鑑定結果だった。
すべて最高品質。
何にせよ美味しく育ってくれたなら文句はないな。
ただ、みんな“実をつけるのは1代限り”とあった。
ということは、ここで育った実の種を蒔いても育たないってことだよな。
残念ではあるけど、種なら俺のネットスーパーでいくらでも買えるし、特に問題ないか。
「ムコーダさん、収穫終わりました」
そう言ったアルバンの手には、生活用品として支給した麻袋が。
中には、見るからに瑞々しい濃い緑色をしたキュウリがあふれんばかりに入っていた。
他のみんなの手にする麻袋にも実った野菜類がたくさん入っている。
「思ったよりたくさん実ったな」
「はい。それにどれも見たことがないくらいにいい出来です」
この畑で出来た野菜類は、元農家のアルバンもびっくりするほどいい出来なのだそうだ。
「よし、早速味見してみよう」
「ワーイ! ロッテこの間食べた甘いのがいい!」
「メロンとスイカだね」
みんな朝飯は食っただろうから、ロッテちゃんの希望でもあるしデザートとしてメロンとスイカにするか。
「じゃ、フェルたちを呼んでくるからちょっと待っててな」
みんなを少し待たせて、俺はフェルたちを呼びに母屋へ戻った。
みんなスライムであるスイは別にしても、俺抜きではさすがにフェルとドラちゃんには腰が引けるみたいなんだよね。
自由奔放な感じのするロッテちゃんも、アルバンとテレーザによく言いつけられているのか、不用意にはフェルたちに近付かない。
興味はあるみたいなんだけどね。
そんなもんだから直接俺が呼びに行った。
フェルたちを連れて戻ったら、アイヤとテレーザに手伝ってもらってメロンとスイカを切っていく。
前と同じように、フェルたちの分は皮から外して切り分けて皿に盛ってやった。
「よーし、みんなで試食だ」
メロンやスイカを口に入れた瞬間、みんな「甘い!」と口々に言う。
ロッテちゃんも口の周りをベタベタにしながら夢中で食っている。
甘いもの好きのスイも『これ前に食べたのより甘くておいしー』とご満悦。
フェルとドラちゃんも気に入ったみたいで、無言ながらガッフガッフと口いっぱいに頬張っている。
「どれ、俺も食ってみるか。まずはメロンからだな」
メロンの甘い香りに誘われて、俺もメロンを口にした。
よく熟れて瑞々しく甘いメロンの果肉が口の中で溶けるように消えていく。
「めちゃくちゃ甘いな。これなら確かにこの間のよりも美味いわ」
スイの言うとおり、ネットスーパーで買ったものよりも甘くて美味い。
スイカも食ってみたら、こちらも瑞々しくて甘かった。
俺も含めてみんな極上の甘さのメロンとスイカに大満足だった。
でも、これだけいい出来なんだから、他のも食ってみたいよな。
うーむ……、これはあれの出番だな。
「よし、今日はみんな仕事は休みだ。バーベキューやろう!」
『む、バーベキューとは炭火で焼いた肉だな。あれは美味い。たくさん肉を焼くのだぞ』
『炭火で焼いた肉か。あれ、香ばしいのが美味いんだよなー』
『香ばしいお肉ー! スイ、いっぱい食べるよー!』
バーベキューの美味さを知っているフェルたちはノリノリだ。
って、肉だけじゃないからね。
今回は野菜を食うためのBBQだから。
「あ、あの仕事が休みって……」
そう言って困惑顔なのはトニだ。
他のみんなも同じように困惑顔。
「みんながんばってくれてるおかげで庭もキレイに手入れされてるし、母屋もキレイだからね。今日1日くらい休みにしてもどうってことないよ」
俺がそう言うと、トニ一家とアルバン一家の面々がちょっと嬉しそうにしている。
「警備だって、昼間っから襲ってくるようなバカはいないだろうしさ」
俺がそう言うと、タバサが「ムコーダさんのおかげで厄介な輩の問題も片付いたしね」と言った。
「そもそもSランクの冒険者の屋敷を襲うなんてよっぽどアホしかおらんわい。ましてや、当のSランク冒険者が居るにもかかわらず襲ってくるような輩は、救いようのないアホの中のアホじゃ」
バルテルがそう言うと、他の警備の連中も「そうだわな」と同意している。
「ということで、今日は休みにしても問題ないな。テレーザとアイヤ、それからセリヤちゃんは、BBQの準備の手伝い頼むよ」
フェルとドラちゃんとスイに加えてみんなの分となると、肉や野菜を切るだけとは言え大量に用意しなきゃいけないからな。
「あの、私は畑の方を……」
そう遠慮がちに言ったのはアルバンだ。
「それなら、収穫後の苗を引っこ抜いておいてもらえるか?」
「はいっ」
それなら俺らも手伝うと、トニたちや警備の連中も苗を引っこ抜いていく。
すぐに畑は何もない状態になってしまった。
「ムコーダさん、畑にジャガイモを植えていいですか?」
アルバンが言うには、買っておいたジャガイモの中で芽が出てきてしまって食用に適さない物がいくつかあるらしいのだ。
「もちろんだよ。畑の責任者はアルバンなんだから、自由に使ってくれ。あ、それとこれも渡しておくよ」
俺が渡したのは、余っていたレタスやらキュウリやらの種と栄養剤だ。
「い、いいんですか?」
「ああ。だけど、この種から実るのは1代限りらしいからそこだけ気をつけてくれ。それと栄養剤なんだけど……」
栄養剤は入れすぎ注意。
ここにあるジョウロならキャップの半分よりちょっと下くらいでいいと教えた。
「それじゃ、俺たちはBBQの準備だ。アイヤ、テレーザ、セリヤちゃん行こう」
俺は3人とフェルたちを伴って母屋へと戻った。




