第三百三十九話 は、畑が大変なことに!
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雅先生書き下ろしのクリアファイルのフェル・ドラちゃん・スイがめちゃ可愛いです!
朝食を食って人心地ついていると、慌てた様子で俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
「ム、ムコーダさんっ! 大変なことがっ!」
「ん、アルバンじゃないか。おはよう。そんな慌ててどうしたんだ?」
「は、畑がっ、畑がっ」
畑?
アルバンも焦った感じで畑がとしか言わないから、埒が明かない。
「畑に何かあったってことか?」
そう聞くとアルバンが何度も頷く。
「んじゃ、とりあえず見に行ってみるか」
フェルたちにちょっと見に行ってくると言って外に出た。
アルバンを連れて昨日作ったばかりの畑を見に行ってみると、俺を呼びに来たアルバン以外のみんなが畑の前で立ち尽くしていた。
「みんなおそろいでどうしたんだ?」
不思議に思いながらも、俺も畑を覗き込んだ。
そうしたら……。
「な、なんじゃこりゃっ!」
あまりのことに我が目を疑った。
なんと、昨日種をまいたばかりなのに、どれも青々とした葉っぱを茂らせて既に小さな蕾をつけているではないか。
「ア、アルバン、ここら辺の土地は作物がすっごく早く育つとかあるのか?」
「い、いえ、そんな話は聞いたことがないです……」
だとすると、これはやっぱり異世界パワーということなのだろうか?
しかし……、これは効き過ぎだろう。
一晩でこれだけ成長するとは思いもよらなかったよ。
異世界パワーで期待していたのは、蒔いた種が普通より早く発芽したとか、普通なら育たないはずのスーパーで買ったメロンとスイカから発芽したとかだったんだけど。
いくら異世界パワーでも、これはちょっと予想外だぞ。
異世界の種ってそんなに異世界パワーを秘めていたのかな?
……いや、待てよ。
原因は種じゃなくて、もしかしてアレか?
昨日畑に撒いた液体の栄養剤。
もしやと思い、アイテムボックスから栄養剤の入ったボトルを取り出した。
そして、そのボトルをよく見てみると……。
「げっ……」
「どうしたんですか?」
隣にいたアルバンが、栄養剤のボトルを見ながら固まっていた俺に声を掛けてきた。
「昨日撒いた栄養剤、濃すぎた……」
10リットルでキャップ1杯のところを1リットルでキャップ1杯だと思い込んでた。
アチャー……。
10倍の濃さだよ。
4リットルのジョウロを使ったから、キャップ4杯入れちゃった。
しかも、多めに撒いちゃったし……。
アルバンに聞いたら、こっちの農業は割と土頼みというか、耕して植えたらあとは少し間引いたり雑草を抜いたりするくらいの手入れしかしないそうなんだ。
だから、土に栄養をって言ってもピンとこないらしくてさ、それで素人考えで栄養たっぷりやった方がいいかななんて思っちゃって。
「ムコーダのお兄ちゃん! 蕾が大きくなってきたよ!」
どうしようかと考えていると、ロッテちゃんが俺の手を引っ張りながらそう言った。
まさかと思って見ると、確かにさっきよりも蕾が膨らんでいた。
「うぉっ、ど、ど、どうしようっ。た、確か、ウリ科のメロンとスイカとカボチャは受粉しなきゃならないんだよな?!」
アルバンにそう聞いたって、分かるわけがない。
何たって異世界の野菜なんだから。
「落ちつけ、俺、確か種の入っていた袋に受粉の方法が……」
アイテムボックスから昨日蒔いた種の袋を取り出した。
「あ、あれ? ウリ科ってキュウリもそうなのか?」
キュウリの種の入っていた袋に書いてある説明書きを確認すると、キュウリは受粉しなくても大丈夫みたいだ。
カボチャの説明書きも確認してみると、こちらはやはり受粉が必要なよう。
「肝心な受粉の仕方は……」
花の根元がプックリ膨らんでいるのが雌花でそれがないのが雄花。
その雄花を摘んで、周りの花弁を切り取って雄しべだけにしたら、雌花の雌しべに優しくチョンチョンと花粉を付けてあげれば受粉終了ということらしい。
ついでに言うと、1株で実は3個くらいにしておくと甘いカボチャが収穫できるようだ。
メロンとスイカは、種を買ったわけじゃないから分からないけど、同じウリ科だからそうそう違わないだろうと思うことにしてカボチャ基準でやるしかないな。
何にしろ、一晩でこれだけ成長して蕾もこれだけ膨らんでいるんだから、今日中に花開くのは間違いない。
受粉をしっかりやらないと実がつかないから、これはやっておかないといけない。
「アルバンたちには一時庭の仕事は休んで、今日は畑のことをやってもらうから。それ以外のみんなは通常通りお願いね」
俺がそう言うとロッテちゃんが元気よく「ハイッ!」と手を上げた。
「ロッテちゃん、どうした?」
「ムコーダのお兄ちゃん、ロッテも今日は畑仕事がやりたいです!」
お母さんのテレーザが「この子はもう」って困った顔をしていた。
「ハハッ、畑仕事か。じゃ、お父さんの言うこと聞くんだぞ」
そう言うとロッテちゃんが笑顔で「うんっ」と頷いた。
ロッテちゃんはどの道仕事の頭数には入ってないから、男性陣に入っても特に問題はないしね。
その後、女性陣は母屋へ。
警備組は、門と屋敷の見回りへと散っていった。
俺は、残った男性陣プラスロッテちゃんに受粉の仕方を伝授した。
そして、1株に3個程度残して間引くことも伝える。
元農家なだけあって、アルバンはすぐに分かったようだからアルバンに任せておけば大丈夫だろう。
「この様子だと、花が咲くのもすぐだろうから、よく観察して、花が咲いたら受粉作業お願いね」
そう言うと、みんなから「分かりました」という返事が返ってきた。
「ロッテお花が咲くのちゃあんと見てるよ!」
「ああ。咲いたらお父さんに知らせるんだぞ」
「分かった~」
そう言うとロッテちゃんは睨めっこするようにカボチャの蕾をジーっと見つめた。
「じゃ、アルバン、頼んだよ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『何だったんだ?』
「いやな、昨日蒔いた種がさ……」
畑で見たことをフェルに話していった。
『話は分かったが、早く育って何が悪いのだ?』
「いや、悪いってわけじゃないけど、そんな早く育つなんて通常じゃ考えられないし、普通驚くだろ」
『そのようなもんなのか?』
いやいや、そのようなもんなのかって、昨日の今日で蕾が付くくらい育ってたら誰だって驚くだろうが。
「てかさ、そういうこと言うってことは、フェルって植物にまったく興味ないだろ」
『うむ、まったくないな』
フェルってば断言しちゃったよ。
「おい~、なら何で聞くんだよぉ」
『む、なんとなくだな。そんなことより、今日は狩りだろう?』
そういや、あとで連れて行くって言ってたんだっけ。
でも、今日はランベルトさんとこと冒険者ギルドに行こうと思ってたんだけど……。
『おい、まさかまた狩りはあとでとか言い出すんじゃないだろうな? うん?』
うっ……、俺を見るフェルの目が鋭い。
「えーっと、いや、そういうことはないんだけどさ、ちょっとランベルトさんのところへ商品を卸しに行って、冒険者ギルドにも行かなきゃいけないし……」
俺はフェルをチラチラ見ながらそう言った。
『そうだとしても、1日中というわけではないだろうが』
「い、いや、そうなんだけどさ……」
俺としちゃ、今日もできればゆっくりしたいかなぁなんて。
『はっきりしない男だのう。さっさと用事を済ませて狩りに行くぞ。おい、ドラ、スイ出かけるぞ』
おぅ、フェルの中では狩りに行くのは決定済みなんだね。
『おい、行くぞ』
「ちょっ、持っていかなきゃならないものがあるんだから待てよ」
『遅いぞ。早くしろ』
へいへい、まったくもう。
女性陣にお願いして詰め替えてもらったシャンプーと【神薬 毛髪パワー】を地下室へと取りに行った。
シャンプーと【神薬 毛髪パワー】をアイテムボックスにしまい、階段を上がっていくとフェルたちが待ち受けていた。
『よし、行くぞ。乗れ』
有無を言わさぬフェルに背に乗るように促されて、俺たちはランベルトさんの店へと向かった。




