第三百二十九話 ピクニックへGO!
伯爵様が冒険者ギルドにやって来た翌日。
朝からガッツリとオークの味噌焼き丼をたらふく食った後にフェルが一言。
『よし、ダンジョンに行くぞ』
案の定というか、面倒な問題が片付いたと思ったら、やっぱりフェルがダンジョンと言い出した。
『おっ、ダンジョン行くのか?』
『ダンジョン、ダンジョン』
それを聞きつけたドラちゃんとスイもダンジョンと言い出す。
「いやいや、行かないよ。ランベルトさんのところに注文してるワイバーンの皮のマントだってまだ受け取ってないんだから」
そう、マントだ。
そのこともあってカレーリナに戻ってきたんだし。
それに俺、マントの出来上がりけっこう楽しみにしてるんだぞ。
『むぅ、つまらん』
『何だ、ダンジョン行かないのかよー』
『ダンジョンー』
みんなダンジョン好きだねぇ。
あんな危ないところ好き好んで行くもんじゃないと思うんだけど。
やっぱり俺としちゃ家でのんびりするのが1番だよ。
とは言っても、家にばかりいてはフェルたちの不満も募るというもの。
ここはとりあえず狩りにでも連れて行くかと思っていると……。
「「「おはようございます」」」
「ムコーダのお兄ちゃん、おはよう!」
アイヤ、テレーザ、セリヤちゃん、そして最年少ロッテちゃんが仕事のためにやって来た。
「みんな、おはよう」
みんなそれぞれ何かを抱えているけど……。
「ムコーダのお兄ちゃん、はいあげる。お母さんが焼いたパンだよ!」
「おお、テレーザのパンか。ありがとう!」
ロッテちゃんからパンを受け取った。
「お、まだ温かいね」
焼いてからあまり時間が経っていないのか、まだ温もりが残っていた。
「フェル様たちの分もと思って、たくさん持ってきました」
テレーザがにこやかにそう言った。
みんなが抱えてるのもパンなんだ。
いっぱい焼いてくれたんだな、ありがたい。
「自分で作ったパンの素とムコーダさんからいただいたパンの素を使って2種類焼いてみたんです」
「へぇ~、そりゃ楽しみだな」
みんなが抱えたたくさんのパンはキッチンへと運んでもらった。
「それじゃ、私たちはお掃除させていただきますので」
「お願いね~」
アイヤとテレーザ、そしてセリヤちゃんとロッテちゃんは、掃除道具の置いてある地下室へと歩いていった。
うちの掃除道具はネットスーパーで買ったものが多いから、基本は人の目に付かない地下にしまっているのだ。
「さてと、それじゃ早速味見させてもらおうじゃないの」
どちらのパンも直径20センチちょいくらいの丸形の田舎パンのような感じで、この世界で一般的に流通している全粒粉の小麦で作られたパンだ。
切り分けて、まずは何もつけずにそのままで。
「テレーザの天然酵母パンは、目が詰まっていて固めだな。でも、全粒粉の滋味深い味わいを楽しむなら、これくらい噛み応えのあるパンの方がいいのかもしれないぞ。焼いて間もないから皮がパリッとして美味いのもいいな」
次は、俺の渡したドライイーストで作ったパンだ。
「こっちはさっきのテレーザの天然酵母パンよりふんわりした食感になってる。これは軽くトーストした方が、全粒粉の香ばしさもより感じられて美味いかもしれないな」
どちらにしても、この2種類のパンは絶対に塩気のあるものと合うはず。
確か、アイテムボックスにチーズとハムが……、あった。
両方のパンにチーズとハムを挟んで、パクリ。
「お~、やっぱり。どっちのパンも塩気のあるものと抜群に合うな!」
これは肉を挟んだガッツリ系サンドイッチなんかにすんごく合うと思うな。
ふむ、サンドイッチか……。
よし、今日はピクニックに行くぞ!
フェルたちを連れて狩りにって思ってたんだし、どうせ街の外に出るならその方がいい。
今日は天気もいいし、絶好のピクニック日和だしね。
俺はどっかこの辺の草原に下ろしてもらって、そこで美味いサンドイッチ作ってるから、その間フェルたちは狩りにでも行っていてもらう。
うん、完璧じゃないか。
よし、そうしよう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「それじゃ用意しておくから、あまり遅くなるなよ」
『わかっておる。たっぷり作っておくのだぞ』
『俺もいっぱい食うからな!』
「分かってるって」
フェルとドラちゃんが狩りをしに近くの森へと駆けていった。
ここは街の西側にあるだだっ広い西の草原だ。
前にブラッディホーンブルの群れの討伐に来た場所だ。
ここは初級冒険者の狩場の一つにもなっているため、遠くに冒険者がいるのがちらほら見える。
『あるじー、遊んでくるねー』
スイは草原で走り回って(這い回って?)遊びたいと言って、狩りには行かずにいた。
「はいよ。あ、あんまり遠くに行っちゃダメだからな。それと冒険者がいるから気をつけるんだぞ。スイの方が強いんだから、攻撃しちゃダメだからな」
スイの攻撃なんて受けたら、初級冒険者は即死しちゃうからな。
『はーい』
そう元気に返事したスイが草むらの中に消えていった。
「さてと、俺も作るか」
アイテムボックスから魔道コンロを出した。
作るサンドイッチは……、ズバリ、超贅沢ドラゴンステーキサンドとオーク肉のゆで豚サンドだ。
たまにはいいかなってことで、贅沢にいい肉を使うことにした。
ドラゴンステーキサンドの方は地竜の肉で、ゆで豚サンドの方はオークジェネラルの肉を使う。
普段は普通のオーク肉を使うようにしてるから、ちょっといいオークジェネラルの肉もまだ余裕あるんだ。
久々のドラゴンの肉だもんだから、フェルもドラちゃんもスイも食う気満々だった。
テレーザにお裾分けしてもらったパンが足りるかどうかが心配だよ。
材料はほぼ手持ちのものでそろっているから、足りない野菜類をネットスーパーで買えばOKだ。
「よし、まずは時間のかかるゆで豚からだな」
オークジェネラルの塊肉を鍋に入れて、肉が隠れるくらいに水を入れたらぶつ切りにしたネギと薄切りにしたショウガ、酒、塩を入れて火にかける。
沸騰したらアクをとって、弱火にして中に火が通るまで30分から40分ゆでていく。
その間にドラゴンステーキサンドを作る。
ドラゴンステーキサンドはシンプルイズベストだ。
軽く塩胡椒を振った地竜の肉を焼いて、ステーキソースに絡めたら、軽く焼いてバターを塗ったテレーザのパン(ドライイーストの方)に挟むだけ。
野菜はなしでパンと肉のみだ。
香ばしくて滋味深い味わいのパンとガツンと美味いドラゴンの肉は最高の組み合わせだと思うんだ。
ステーキソースは今回はいつものステーキ醤油でなく別な物を用意した。
いつものステーキ醤油ももちろん十分美味いんだけど、パンに合わせるならこっちの方が美味いかもと思って選んだのは、醤油をベースに黒胡椒とローストガーリックを利かせたステーキソースだ。
これも何度か買って使ったことがあるんだけど、黒胡椒がけっこう入っててピリッとした辛味があって美味いのだ。
「よし、出来た。早速味見~」
ガブリ。
出来上がったばかりのドラゴンステーキサンドにかぶりついた。
「ンーーーーッ、美味いッ!」
文句なしに美味い。
というか美味くないはずがない。
「あ~、うまっ。ダメだ止まらん」
最初に作ったステーキサンドは、結局すべて俺の腹に収まることになった。
「全部食っちゃったよ。ハハッ。いやぁ、美味すぎるぜこれは」
気を取り直して、再びステーキサンドを作った。
途中懸念していたとおり、テレーザのパンがなくなってしまったので、ネットスーパーで全粒粉の食パンを買い込んでそれで作っていった。
「ふぅ、ステーキサンドはこんなもんでいいかな。次はゆで豚サンドだな」
ゆで豚の方もステーキサンドを作っている間にしっかりとゆで上がっているから、一緒に挟むレタスとソースの用意だな。
レタスは洗って適当な大きさにちぎっておけばOK。
ソースは粒マスタードソースだ。
粒マスタード、醤油、ハチミツ、酢を混ぜ合わせて、最後に塩で味を調えて出来上がりだ。
あればバルサミコ酢なんかを使ってもよりコクがでて美味いかもしれないな。
ソースが出来たら、ゆで豚サンドを作っていく。
軽く焼いてバターを塗ったテレーザの天然酵母パンにレタスを載せて、その上に切ったゆで豚を載せていく。
その上に粒マスタードソースをかけて、パンで挟めばゆで豚サンドの出来上がりだ。
「どれ、味見だ」
出来上がったばかりのゆで豚サンドをパクリ。
「ほうほう、ゆで豚にピリっとして酸味のある粒マスタードソースがよく合うね。それに噛み応えのあるこのパンとも相性抜群だわ」
俺が味見とは言えないほどにゆで豚サンドをパクつきながら舌鼓を打っていると、スイの声が脳内に響いた。
『あるじー』
「ん? スイ?」
『うしろだよー』
後ろを向くと、すごい勢いで草原の中を走ってこちらに向かってくる3人の少年冒険者の姿が。
「は?」
『わーい』
草の間から飛び出してきたスイがピョ~ンと俺の胸へとダイブ。
「ハァ、ハァ、ハァ、おっさん、そのスライムを俺らによこせっ」
俺の前へとたどり着いた3人の少年冒険者。
この草原にいるということは初級冒険者なのだろう。
「そうだぞっ! そのスライムは俺たちの獲物だ!」
「横取りすんな!」
エエ~、これ、どうなってんの?
スイ、お前何やらかしたのさ?
長くなりましたので途中で切りました。
続きは明日か明後日になる予定です。
 




