第三百二十二話 懐かしい面々と再会
冒険者ギルドでギルドマスターに会ったあとは、この3日間の間に作った作り置きの肉巻きおにぎりで簡単に昼を済ませて、フェルたちの希望で街の外へと狩りに出かけた。
昼過ぎからの狩りで、今日のところはあまり時間もないことから街からはそれほど離れていない森での狩りとなった。
とは言っても、フェルとドラちゃんとスイは俺を置いたら遠くまで行くんだろうけど。
「飯の用意しておくから、暗くなる前に戻って来いよ」
フェルの首にマジックバッグ(特大)をかけてやりながらそう言った。
『うむ。では行ってくる』
『大物狩ってきてやるぜ!』
『あるじー、ビュッビュッってやっていっぱいとってくるから待っててねー』
そう言ってフェルとドラちゃんとスイが、森の奥へと駆けて行った。
「さてと、飯の仕込みするか」
帰ってから飯を作るのも面倒だし、どうせならフェルたちが狩りに行っている間に用意して、ここで済ませてしまおうという魂胆だ。
「何を作ろうかな……。そうだ、外だし、久々にBBQでもするか」
となると、何の肉を使うかだな。
肉はさっき冒険者ギルドで引き取ってきたばっかりだから、けっこういろいろあるんだけど。
アイテムボックスを探る。
「んーと、よし、今日はこれだ」
俺はロックバードの肉を取り出した。
「今日は鶏肉、じゃなくてロックバードの肉をメインにBBQだ」
今回、肉を漬け込むタレはBBQソースにしてみた。
ハチミツ入りの甘めのタレで後引く味だ。
作り方は、ケチャップ、ソース(ウスターでも中濃でも好みによってでOK。ちなみに俺は中濃を使用)、ハチミツ、おろしニンニク(チューブ入り)を混ぜるだけ。
粒マスタードを入れても美味いぞ。
今回は、両方作ってみた。
適当な大きさに切ったロックバードの肉を味がしみ込みやすいようにフォークでプスプス穴を開けたら、ビニール袋に入れてBBQソースをかけて漬け込めば準備OK。
これを粒マスタード入りBBQソースの分も作っておく。
フェルたちのために両方とも大量に作った。
もし余っても、これはフライパンで焼いても美味いから大丈夫だからな。
あとは野菜類だな。
つっても、食うのは俺とスイくらいなんだけど。
ドラちゃんも食うのは食うけど、基本肉の方が好きだからあんまり食わないし、フェルにいたっては野菜を見ただけで顔を顰めるし。
スイは、肉の方が好きではあるみたいだけど、野菜もそれなりに食ってくれる。
ま、野菜は余らない程度にだな。
ネットスーパーで、自分の食いたい野菜を選んでいく。
「やっぱりトウモロコシは食いたいな。皮をつけたまま蒸し焼きにするから手間いらずだし。それからアスパラだろ。あとは~……」
甘みのあるパプリカとシャキシャキした食感が楽しめるエリンギにしてみた。
パプリカはオリーブオイルをつけて丸焼きにするから、下処理しておくのはアスパラとエリンギだ。
アスパラはピーラーで下の方の固い皮を剥いて、エリンギは適当な大きさに割いておく。
「これで食材の方はOKだな。あとはバーベキューコンロを出して準備しておくか」
アイテムボックスからドランで作ってもらった特製バーベキューコンロを取り出した。
その特製バーベキューコンロの引き出し部分にネットスーパーで購入した木炭を入れて準備をしていると……。
ガサッ、ゴソッ?――。
木々をかき分けてこちらに近づいてくる気配が。
いったん手を止めて、アイテムボックスからミスリルの槍を取り出した。
フェルに結界を張ってもらっているし、この辺はまだ街にも近い場所ではあるから、そんな大層なもんは出ないだろうと思うけど……。
ゴブリンかオークだろうと予想をつけつつも、ミスリルの槍を構えて、相手が現れるのをジッと待った。
そして現れたのは…………。
「あれ? ラーシュ、さん?」
「んっ、ムコーダさんじゃねぇか! こんなとこで何やってんだ?!」
木々をかき分けて姿を現したのは、懐かしい見知った顔の“フェニックス”の面々だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「なるほど。依頼の帰りってわけですね」
「ああ。このまま街に帰るには早いからな。ちょっとした小遣い稼ぎってわけさ」
フェニックスの面々は、依頼で近くの村まで行っていたそうだ。
何でも、その村の近くにグレイウルフの群れが住み着いてしまって、その群れの討伐依頼とのことだった。
「で、ムコーダさんは、こんなとこで何やってんだ?」
「ああ、俺の方はですね……」
フェルたちの狩りに付き合って森まで来たことを伝えた。
「とは言っても、俺はここで待ってるだけなんですけどね。あ、そうだ。フェルたちが帰ってきたら、ここで飯にするんですけど、皆さんも食ってってくださいよ。久々の再会なんですし」
「それじゃ、ご馳走になるか」
「「「「ゴチになりますっ」」」」
こうして、フェニックスのメンバーもBBQに加わることになった。
BBQはフェルたちが帰ってきてからなので、とりあえずアイテムボックスに残っている材料で超簡単に作れるキャベツとベーコンのコンソメスープを作って振舞うことにした。
ベーコンを1センチ幅に切って、キャベツはざく切りに。
鍋にオリーブオイルをひいてベーコンを炒めたところに水を入れて、固形のコンソメを入れる。
そこにざく切りにしたキャベツを入れて、キャベツが煮えたところで塩胡椒で味を調えたら出来上がり。
「フェルたちが帰ってくるまでもうちょっと待ってくださいね」
みんなにスープの入った器を配った。
「お、すまないな」
俺も一緒にいただくことにする。
「それにしても、戻ってきたんだなぁ」
俺を見てそうしみじみと言ったのは、どこだかのギルド職員のサンドラちゃんとお付き合いしているというシードルだ。
「いろいろと噂はこっちまで伝わってきてるぜ。ドランのダンジョン踏破したとかさ」
コンソメスープを啜りながらヘンクがそう続ける。
「そうそう。エイヴリングのダンジョンも踏破したって話だしさ」
うんうんと頷きながら、アロイスがそう言った。
「おいおい、その前にSランクなったってことだろ。俺なんてSランク冒険者と知り合いだって自慢しちゃったぜ」
フェニックスの中で1番年若いセサルが笑いながらそう言う。
「いやまぁ、みんなフェルたちのおかげというかですね……」
俺もコンソメスープを啜りながらそう答えた。
何と言ってもダンジョン踏破はフェルたちがいなきゃ無理な話だったしね。
Sランクだってフェルたちがいなかったらなれなかっただろうし。
「まぁ、あれだけ強い従魔を従えていたらなぁ」
ラーシュさんがフェルを思い出しているのか、しみじみとそう言った。
そういやドラちゃんの加入はカレーリナの街を出た後だから、フェニックスの面々は初めてだったな。
「この街を出てから、従魔が増えたんですよ」
「そうなのか? どんな奴なんだ?」
「ええと、そのうち戻ってくると思うんで見てもらった方が早いと思うんですけど」
『戻ったぞ』
フェルの声が脳内に響いた。
「あ、戻ってきたみたいです」
木々をかき分けて俺たちの前に姿を現したフェルとドラちゃんとスイ。
バシャッ―――。
ラーシュさんがコンソメスープの入った器を落としていた。
「ド、ドラゴン?」
ラーシュさん以外の面々もスープの器を持ったまま固まっていた。




