第三百十四話 ワイン祭り
リビングでコーヒーを飲みながら食休み。
フェルとドラちゃんとスイは、ふかふかの絨毯のうえでグタッと寝そべっている。
そうだ、もうそろそろデミウルゴス様にお供えしなくちゃな。
どれどれ、見てみるか。
コーヒーを飲みつつ、ネットスーパーを開いた。
テナントのリカーショップタナカを開くと、何かワイン祭りなるものが開催されていた。
その中で、店長とソムリエの資格を持つ店員が厳選して選んだおすすめワインが特集で紹介されていた。
「へ~、ワインか。ワインは人気あるからなぁ」
そういや元の世界の上司がワイン好きで会社のみんなで飲む度にうんちく語ってたな。
イスに背をあずけ画面のワイン特集を見ていると、ポンッとスイがイスに飛び乗ってきた。
『あるじー、何見てるのー?』
「ん? これか? 神様に何をお供えしようかなーって見てるところなんだ」
『神様ー?』
「そう。俺たちを見守っていてくださいねーってお願いするためにお供えするんだよ」
『ふーん』
スイは分かってるんだか分かってないんだか。
でも、俺が見ていたものには興味があるらしく、画面を覗いている。
『ニンリル様に供え祈りをささげるのだな。しっかりやっているようだな』
フェルが寝そべったまま顔だけ俺のほうへ向けてそう言った。
「いや、これはニンリル様へのもんじゃないぞ」
何せあの女神様は今は絶賛謹慎中だからな。
『なぬっ?! ニンリル様に供え祈りをささげないつもりかッ』
「いや、それはな、ニンリル様よりも偉い創造神様の指示なんだからしょうがないんだよ。それとも何か? フェルはこの世界を創った、この世界で1番偉い神様に文句言うのか?」
文句があるならデミウルゴス様に言ってくれよ。
俺は悪くないんだからな。
『ぬぅ、そ、それは……』
デミウルゴス様はこの世界で1番偉い神様なんだから、いくらフェルだって文句言えないよな。
フェルは渋々という感じで納得していた。
画面へと再び視線を戻すと、スイがジーッと画面を見つめていた。
『ねーねーあるじー、これって食べ物なのー?』
「んーこれはな、お酒だよ。スイにはまだちょっと早いかな。そうだ、それよりもケーキ食べるか? 今日はまだだっただろ?」
『ケーキ! 食べる食べるー』
スイがケーキと聞いてイスの上でポンポン飛び跳ねた。
「フェルとドラちゃんもいるだろ?」
『もちろんだ』
『プリン食うぜ!』
不三家のメニューを開いて、みんなのリクエストを聞いていく。
『我はもちろんいつものだ。やはりあれが1番美味い』
フェルは当然のようにいつものイチゴショートを2個だ。
『俺はやっぱりプリンだな』
ドラちゃんもお気に入りのプリンをご所望。
新作にイチゴミルクプリンが出ていたので教えてあげると、それといつものカスタードプリンがいいとのことだった。
『スイはー、これとこれっ』
スイが選んだのはブルーベリータルトとイチゴのロールケーキだ。
今日はその2つが食べたい気分なんだとさ。
みんなにケーキを出してやって、俺は2杯目のコーヒーを飲みつつ再びリカーショップタナカの画面を眺めた。
ワインか……。
日本酒ばっかりだったし、たまにはワインが入ってもいいかもな。
今回のデミウルゴス様へのお供えは日本酒のほかワインも入れてみることにした。
しかしながら、俺はワインには詳しくない。
こういうときは素直におすすめを選ぶのが吉だ。
まず1本目は店長のイチオシだというドイツ産の白ワイン。
何でもドイツで生産されるワインは白ワインがほとんどで、その中でもリースリングという白ワイン用のぶどうで造るワインの代表格がこれだそうだ。
ビスマルクもこよなく愛したワインとして知られていて、みずみずしい果実の香りとフルーティーな酸味でスッキリした甘さの味わいのワインとのこと。
2本目はソムリエの資格を持つ店員さんのイチオシだというフランスワイン。
ワインを題材にした某マンガに登場したことでブレイク。
バランスが良く、繊細さもありながら調和の取れたワインで、値段の割には実に美味しいワインでおすすめだとのこと。
ワインはこの2本で間違いないだろう。
何せ店長とソムリエのイチオシだし。
日本酒はいつもと同じくランキングから選んだ。
今回は週間ランキングから。
週間ランキング1位に輝いていた青森県産の酒で、サッパリしつつもコクがあって美味いとのクチコミが多く寄せられていた。
もう1本はランキング2位の福島県産の和紙のラベルが貼ってある純米大吟醸酒だ。
‟マジで美味い”とか‟絶対リピする”って絶賛のクチコミが多かったから間違いないだろう。
ワイン2本に日本酒2本をカートに入れたら、いつものプレミアムな缶つまギフトも購入。
今回はワインもあるので、ワインのおつまみに合いそうなカマンベールチーズとスモークチーズも一緒に購入した。
「よし、これでいいな」
精算して商品が届いたところで、段ボール祭壇の上に並べていく。
「デミウルゴス様、どうぞお納めください」
『おーお主か、いつもすまんのう』
「今回はぶどうという果実で造った酒もありますのでお試しください。もちろん日本酒もありますよ。おつまみの缶つまと、ワインに合うおつまみとしてチーズも入れておきましたので」
『おお、それは楽しみじゃなぁ。ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ』
段ボール祭壇に置いたワインと日本酒、缶つまギフトとチーズが淡い光をともなって消えていった。
「よしと。今日は何だかんだで忙しかったし、さっさと風呂に入って寝るか」
『お風呂ー?』
「そうだよ。スイも入るだろ?」
『うんっ』
「ドラちゃんはどうする?」
『もちろん入るぜ』
スイとドラちゃんとともに広々とした風呂を楽しんだ。
いや~、足を伸ばしてゆったりのびのび入れる広い風呂は最高だね!
ドラちゃんとスイもこの家の広々とした風呂は一発で気に入ったみたいだ。
気持ちよさそうにひとしきり泳いだあとはプカプカ浮いてたよ。
風呂で疲れを取った後は、これまたデカいベッドですぐに寝たよ。
…………でも、何でかフェルとドラちゃんとスイが一緒だった。
あまりにも自然に『おやすみ~』って言われて、俺もいつものように何とも思わなかったよ。
でも、よくよく考えればこれだけ部屋があるんだから、別に一緒じゃなくていいんだよな。
まぁ、今日の所はこれでいいか。
 




