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第三百十三話 鍋

 アホの双子は内緒話の話がダダ漏れで、タバサに再び鉄拳制裁をくらっていた。

 さすがにこれにはタバサも平謝りだったよ。

 この双子はあれだな、脳筋の典型というかなんというか。

 どうにも憎めないキャラではあるけどさ。

「それじゃ、夕飯の用意しますんで。テレーザと……、アイヤも手伝い大丈夫?」

 テレーザと元気になったばかりのアイヤに声をかける。

「もちろん大丈夫です」

 アイヤがそう言った。

 元気になってヤル気も漲っているようだ。

「それと、セリヤちゃんもお手伝いできるかな?」

「はいっ」

 セリヤちゃんも一通り家事ができるってことだったから、聞いてみたら元気な返事が返ってきた。

 さてと、それじゃキッチンで飯の用意をしますかね。

 3人を引き連れてキッチンへと向かった。

 作るのは、ズバリ、鍋だ。

 親睦を深めるのに鍋はもってこいだろう。

 簡単だし美味いし、こういう大人数の場にはピッタリだ。

 今回はベルレアンで仕入れた魚介を使った寄せ鍋とロックバードの肉を使った鶏塩鍋を作ろうと思う。

 まずはネットスーパーで足りない材料の調達だ。

 ネットスーパーのことはみんなに教えてあるし、気兼ねなく開いた。

 買うのは、鍋に入れる野菜類だ。

 白菜は絶対必要だし、あとはニンジンとネギ、エノキ、豆腐でいいか。

 あとは肝心の鍋つゆだ。

 面倒だし市販のものを使う。

 市販と馬鹿にするなかれ。

 これがけっこう美味いんだよ。

 今回はパック入りのストレートの鍋つゆを使うことにした。

 薄める必要もないし、このまま鍋に移して温めればOKなのがお手軽でありがたい。

 前に使って美味かった、かつおと昆布のダシの利いた寄せ鍋のつゆと鶏だしの利いた塩鍋つゆを購入。

 〆には雑炊とラーメンを考えているから、足りない麺を購入するのも忘れない。

 あと、アイヤたちに使ってもらう包丁やらまな板だな。

 調理用品一式もここにそろってはいるものの、この世界の包丁ってちょっと大きめにできていて使いにくいんだよ。

 ニンジンの皮剥き用にピーラーも購入。

 セリヤちゃんくらいだと包丁を使うより、こっちの方がいいだろうからな。

 さてと、調理開始だ。

 とは言っても、切って鍋つゆで煮るだけなんだけどな。

 アイヤとテレーザ、セリヤちゃんに野菜類を切ってもらうことにする。

「セリヤちゃんは、ニンジンの皮むきね」

 ピーラーの使い方を教えていった。

「こんな感じでニンジンを押さえて、ピーラーを動かすと……、こんな感じで皮がむけるよ。やってみて」

 セリヤちゃんがピーラーを受け取って、恐々俺が言ったようにピーラーを動かした。

「わっ、すごいっ! 皮がスルンとむけたよっ」

 キレイにニンジンの皮がむけたことに興奮するセリヤちゃん。

「上手上手。それじゃ、ちょっと多いんだけど、ここにあるの全部皮むいてくれるかな?」

「はいっ」

 セリヤちゃんがヤル気満々で笑顔で返事をした。

「アイヤとテレーザには野菜を切ってもらいたいんだけど、この白菜はこんな感じで……」

 根元の芯の部分に切り込みを入れて、葉をはがして軽く洗ったものを何枚か重ねてザク切りに。

 厚みがあって気になる白い軸の部分は繊維に沿って細切りに。

「セリヤちゃんが皮をむいたニンジンはこれくらいの大きさで」

 ニンジンは煮えやすいように短冊切りにした。

「ネギは軽く洗ってから、こんな感じで斜めに」

 ネギは当然斜め切りで。

「エノキは下の部分を切って、これくらいの大きさでほぐしておいてもらえば」

 エノキは石づきを切り落として、細かくなり過ぎないようにほぐして。

「豆腐は、こんな感じで横に切ったら、十字に切ってください」

 豆腐は8等分に。

 さすが主婦。

 豆腐なんかの初めての素材も、上手い具合に切っていく。

 アイヤもテレーザも包丁の薄さと切れ味に感動していた。

 一般家庭では、料理には片刃のナイフを使うのが当たり前で、ある程度厚みのあるナイフで切ると柔らかめの素材などはグチャっと潰れてしまうことが多かったそうだ。

 ネットスーパーで買った包丁は難なく食材がスッと切れると大好評だった。

 包丁、まな板、ピーラーは支給品にするから、帰りに家に持ち帰っていいと言ったら喜んでたよ。

 ピーラーはセリヤちゃんの分しかないからもう1本買って支給だな。

 買ったのはT字型ピーラーだから、ジャガイモやらのイモ類の皮がむきやすいI字型ピーラーも買って支給しよう。

 ジャガイモはこの世界でも割とポピュラーな野菜で、良く食卓にも上がるようだしな。

 これは元冒険者の5人のとこにも支給するつもりだけど、あそこって料理できるのいるのかな?

 後でそこんとこも確認しなきゃな。

 さてと、そんなことはさておき、俺の方は魚介とロックバードの肉の用意だな。

 まずアイテムボックスから取り出したのは、ベルレアンで仕入れたアスピドケロンとタイラントフィッシュ、そしてスモールハードクラムだ。

 白身魚のアスピドケロンとタイラントフィッシュとちょっと大きめのハマグリみたいなスモールハードクラムは寄せ鍋にピッタリだろう。

 アスピドケロンとタイラントフィッシュは切り身になっているから、あとは適当な大きさに切っていく。

 スモールハードクラムについては砂抜きも済んでるから、軽く洗うだけでOKだ。

 ロックバードも、そのままぶつ切りに。

 鶏だんごを作るのもありだけど、今はみんな待ってて時間がないからそのままだ。

 ロックバードは肉自体美味いからこのままでも十分だろう。

 あとは、鍋つゆを入れた土鍋を温めて具材を入れて煮ていけば出来上がりだ。

 キッチンにある四つ口の魔道コンロ2つと俺の手持ちの魔道コンロを取り出して、いっきに土鍋を火にかけた。

 鍋つゆが温まったところで、アイヤとテレーザにも手伝ってもらって具材を入れていく。

「あとは、具材に火が通ったら出来上がりだよ」

 クツクツといい感じに煮えてきた。

「もうそろそろいいかな」

「いい匂いですね」

「ホント」

「美味しそうな匂い~」

「さ、みんな腹をすかせてるだろうから、早く飯にしよう」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 まずは、アイヤたちに手伝ってもらってフェルたちに鍋を出していく。

 後に回すと、フェルがうるさそうだからな。

「こっちが魚介の鍋で、こっちがロックバードの鍋な」

『ぬ、我は肉の方だけでいいぞ』

「まぁまぁ、こっちの魚介の寄せ鍋も美味いんだから食ってみろよ」

『むぅ、しょうがない』

「熱々だから気をつけろよ。スープはお楽しみがあるから、残して置くようにな」

 ドラちゃんは〆を食ったら腹いっぱいになりそうだけど、フェルとスイはまだまだ食い足りないだろうなぁ。

 そのときはアイテムボックスに残ってる作り置きで対応だな。

 フェルたちの分を出したら、今度は俺たちの分だ。

 ダイニングにあるドデカいテーブルに、ネットスーパーで急遽購入した鍋敷きを敷いて熱々の鍋を置いていく。

 トニ一家とアルバン一家で寄せ鍋と鶏塩鍋を1つずつ、元冒険者の方は人数は少ないけど見るからに食いそうだからこっちには寄せ鍋1つと鶏塩鍋を2つ用意した。

 俺用には寄せ鍋をチョイス。

「わぁ~、いい匂い!」

 飯を待ちかねていた、ロッテちゃんが目をキラキラさせている。

「お待ちかねの美味しいご飯だぞ。ほら、そこに座って」

 そういうと、ロッテちゃんが「うんしょっ」とイスに座った。

「みんなも空いてる席に座って」

 よし、みんな席に着いたな。

「俺の故郷の料理だから、みんなの口に合うか分からないけど食べてみてよ。こっちが魚介の鍋で、こっちがロックバードの鍋だよ」

 そう言ったら、またもや元冒険者5人が「ブフォッ」と噴いた。

「ロ、ロ、ロックバードって言ったら高級食材じゃないかいっ」

「姉貴の言うとおりだぞっ。BランクやCランクでそこそこ稼いでた俺たちだって、数えるほどしか食ったことないってのに」

 タバサとアーヴィンが興奮気味にそう言った。

「まぁまぁ、俺には珍しい食材でもないからさ。とりあえず食いなよ」

 フェルもドラちゃんもスイもグルメなもんだから、手持ちはこういう食材ばっかりなんだからしょうがないだろ。

 ロックバードだって、今も冒険者ギルドで解体してもらってるところだからまた手に入るし。

「ち、ちなみにじゃが、こっちの魚介は何じゃ?」

 バルテルが恐る恐る聞いてくるもんだから「美味い白身の魚です」って答えておいた。

「何にしろ美味けりゃいいんですよ、美味けりゃ。そんなことより早く食べましょう」

 ルークとペーターなんて驚きつつも食欲には勝てなかったのか、涎たらして待ってるぞ。

 トニ一家とアルバン一家は、元冒険者たち5人の驚きを見て手が止まっているけど。

 ロッテちゃんは食べたそうな顔してるし。

 しょうがないな。

 俺は、自分用の寄せ鍋を取り分けて食い始めた。

「みんなも同じように自分で取り分けて食ってくださいよ」

 俺がそう言って、ようやくみんなおずおず取り分け始めた。

 食器類は元からあったものを使ったんだけど、この家の元の持ち主の趣味なのか、みんなの使った取り皿が鍋には合わないボーンチャイナみたいな花柄の白い食器なのはご愛嬌だ。

「おいしー! ムコーダのお兄ちゃん、これ美味しいね!」

 ロッテちゃんがロックバードの鶏塩鍋に舌鼓を打っている。

「な、美味しいご飯だろ?」

「うんっ」

 嬉しそうに笑顔でロックバードの肉にかぶりつくロッテちゃん。

「おおっ、魚ってこんなに美味かったんだな……」

「本当に美味いな。魚を食べるのは数年ぶりだが、前食べた魚はこんなに美味くなかった」

 アルバンとトニが寄せ鍋を味わいながらしみじみそう言った。

 そうだろ、そうだろ。

 アスピドケロンとタイラントフィッシュは、口の中に入れるとホロホロと崩れていく身とたんぱくであっさりした味なのに噛むと旨味もしっかりと味わえる。

 海の魚だと説明すると、トニ一家とアルバン一家のみんな海の魚を食べるのは初めてだということだった。

 川には水棲の魔物がいるし、そもそも魚を口にすること自体滅多になかったようだ。

 ロッテちゃん以外の子どもたち、コスティ君、セリヤちゃん、オリバー君、エーリク君も美味そうにもりもり鍋を食っていた。

 アイヤとテレーザは、そんな子どもたちを見ながら泣き笑い。

 2人とも「久々にお腹いっぱいに食べさせることができました。ありがとうございます」と言っていた。

 奴隷っていう境遇じゃ、さすがに腹いっぱいは食えないもんな。

 大人には我慢できても、子供に空きっ腹は辛いもんな。

「みんな、いっぱい食えよ」

 そう子どもたちに声をかけると、笑顔で頷いていた。

 元冒険者5人は、さすがにみんな体がデカいから食うわ食うわ。

 ウメェウメェ言いながら、競うように食ってたね。

 俺用に鍋1つ用意したけど、さすがに全部は食いきれなくて、残ったの「食うか?」って聞いたらアホの双子とペーターが奪うように鍋ごと持って行ったよ。

 途中、鍋の具を全部食い終わったフェルたちに〆を作ってあげたりしながら、ようやく俺たちの鍋もスープだけになりいよいよ鍋の最後のお楽しみだ。

「この鍋ってのはね、最後まで美味いんだ」

 スープだけ残ったところでカセットコンロを出して少し温めなおす。

 寄せ鍋は飯を入れて最後に溶き卵を。

 鶏塩鍋には、買っておいた鍋用のラーメンを入れて少々煮込む。

「よし、これでいいだろう。〆の雑炊とラーメンだ」

 卵なんてめったに食えないご馳走らしく、トニ一家とアルバン一家の面々は雑炊を美味そうに食っている。

 ラーメンが人気ないけど、俺はラーメンが食いたかったから鶏塩鍋の〆をいただいたよ。

 麺とスープをよそって、最後にバターをひとかけ載せる。

 ズゾゾゾゾーッ。

「塩バターラーメンうんまぁ~」

 〆の塩バターラーメンの味に感激していると、みんなからの視線が……。

 どうもラーメンをすする食べ方に驚いたようだ。

「ああ、これはなこうしてすすって食うのが美味いんだよ」

 俺がそう言うと、元冒険者の5人がラーメンに挑戦。

 うまくすすれたのはペーターだけだった。

 でも、味は美味かったようで、すぐに完食。

「ふぅ、食った食った」

 満足満足。

 鍋はやっぱり〆まで美味いね。

 トニ一家とアルバン一家、元冒険者の5人も満足げな顔をしていた。

『おい、我はまだ食うぞ』

『スイもー』

『ハハッ、フェルとスイはまだまだ食うな。俺はもう腹いっぱいだけど』

 …………満足してないのがここにいたな。

 フェルとスイには作り置きしておいたから揚げやらハンバーグやらを追加で出してやった。

 トニ一家とアルバン一家、元冒険者の5人には、今日の所は、自分たちの家に帰ってゆっくり休んでもらうことにした。






鍋はシンプルに寄せ鍋が好きな作者です。

市販の鍋つゆは超便利。

うちでも鍋の時はよく使ってます。


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― 新着の感想 ―
I字型ピーラー。 あれはとてもとても良いものですよね!!!
[一言] 世界一幸せな奴隷たちに祝福をw
[良い点] 奴隷編おもしろい なんなら私も雇ってほしい、風呂付き家賃タダ住み込みで家族と住めて、お仕事も掃除と詰め替えするだけでいいとか最高
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