第三百十話 ふわふわ甘いパン
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画面を操作していつものように、石鹸やらシャンプーやらをカートに入れていく。
これはみんなへの支給品にするつもりだ。
何と、ここの使用人用の家には小さいけど風呂が付いていた。
これだけの屋敷だから、それに携わる使用人にも清潔さが求められたからだろうと思う。
いいことだ。
風呂は気持ちがいいし、俺としても清潔にしていてもらった方が嬉しい。
この家の掃除なんかを任せてるのに、掃除してる人たちが不潔じゃドン引きだし。
クゥゥゥゥ―――。
何ともカワイイ腹の音が聞こえてきた。
音のした方を見ると、トニ一家のセリヤちゃんが顔を真っ赤にしてうつむいていた。
何だかんだで大分時間も過ぎてるし、腹も減るか。
説明だけは先にしておきたいし、ちょうどいいからネットスーパーで小腹を満たすようなもんでも買って食いながら聞いてもらうことにしよう。
何にしようかな……、面倒だし、とりあえず菓子パンでいいや。
あとはオレンジジュースでも一緒に出しときゃいいか。
よしと、ポチっとな。
精算ボタンを押すと、俺の目の前に段ボール箱が現れた。
後ろから「おおっ」という驚きの声が上がる。
俺にとってはいつものことだけど、普通は当然そうなるよなぁ。
段ボール箱をベリベリッと開けて、中のものを出していく。
「小腹も空いただろうから、とりあえずこれを食いながら聞いてください」
そう伝えて、みんなに菓子パンを配っていった。
そして、1.5リットル入りのオレンジジュースのペットボトルのフタだけ開けてコップを人数分出して置いていく。
「飲み物は、各自自分で注いで持って行ってくださいね」
そう言うと、飲食店に勤めていた経験もあるというアイヤさんがテキパキと人数分のコップにオレンジジュースを注いで、みんなに渡していった。
病気だというアイヤさんも、健康体とは言いがたいが、今のところ日常生活には問題はなさそうだな。
これから働いてもらうためにも、もちろん処置は考えているけどね。
みんなに菓子パンとオレンジジュースが渡ったところで、説明を再開した。
「こんな感じで、異世界のものを取り寄せることができます。で、みなさんにやってもらいたいことは……」
食いながら聞いてくれればいいって言ったんだけど、なぜかみんな菓子パンに手をつけようとしない。
……ああー、分かった。
袋の開け方がよくわからないのか。
「えーと、これはこんな感じで開けるんです」
自分用に購入してあった菓子パンの袋をベリッと開けて見せた。
と、そこで菓子パンの袋を開ける音を聞きつけたフェルがムクリと起き出してきた。
『ぬ、それは甘いパンだな。お主、自分だけ食うなんてズルイぞ。我も甘いパンを食う。我にもよこせ』
『あーっ、ホントだズリィッ! 俺も甘いパン食いたいぞ!』
『スイも甘いパン食べるー!』
ドラちゃんもフェルに便乗して食べたいと言い出して、甘い物好きのスイも食べたいと騒ぎ出す。
「小腹を満たすだけで、この後にちゃんとした飯にしようと思ってたんだけどな……」
『食べたい』と騒ぎ出したフェルたちに押されて、再びネットスーパーを開いて菓子パンを大量に購入した。
袋から取り出した菓子パンを山盛りに盛った皿を、フェルとドラちゃんとスイに出してやった。
「今はこっちのみんなと話してるところだから、これ食って大人しくしててよ。話が終わったら飯にするからさ」
菓子パンを食えて満足なのか、フェルもドラちゃんもスイも念話で『分かった』と伝えてきた。
「お待たせしました。ってみなさん、食ってないじゃないですか。食いながらでいいですよ」
そう言うと、空腹と好奇心には勝てなかったのか、最年少のアルバン一家のロッテちゃんが袋を開けて菓子パンにかぶりついた。
「おいしー! これ、ふわふわで甘くておいしーよ!」
そう言って小さい口いっぱいに菓子パンを頬張る。
「さ、みなさんもどうぞ」
俺がそう言うと、ようやくみんな菓子パンを口にしだした。
「うまっ」とか「甘いっ」とか「柔らかい」だとかの言葉が飛び交う。
さきほどカワイイ腹の音を鳴らしていたセリヤちゃんも美味そうに菓子パンをパクついていた。
オレンジジュースも美味いようで、みんなゴクゴク飲んでいる。
小腹が空いたし、俺も食うか。
自分の分のあんぱんと缶コーヒーを開けた。
うむ、やはりあんぱんは美味いな。
そして、菓子パンにはやっぱり缶コーヒーだな。
そんなことを考えていると、クイクイっと誰かが俺のズボンを引っ張ってきた。
何だと思ったら、足元にロッテちゃんがいた。
「ねぇねぇおじちゃん。ロッテ、もっとふわふわ甘いパン食べたいの」
それを見て、慌てて父親のアルバンさんと母親のテレーザさんが青い顔をして飛び出してきた。
「コラッ、ロッテッ! 申し訳ありませんっ」
「本当に申し訳ありません。ほらっ、ロッテも謝るんだよっ」
「いやいや、気にしてませんから。それよりも……。ロッテちゃん、俺のことはおじちゃんじゃなくてお兄ちゃんと呼ぶように。いいね」
さすがにこれからずっとおじちゃん呼びされては俺の精神にダメージが……。
それだけは阻止せねば。
「うん、分かった。それでね、ムコーダのお兄ちゃん、ロッテねふわふわ甘いパン食べたいの」
子どもだけに順応性早いね。
「うーん、あげてもいいけど、もうちょっとしたらご飯にしようと思ってるんだけどなぁ。今、甘いパンを食べちゃうと、ご飯食べられなくなっちゃうんじゃないの? いいの? 美味しいご飯を出す予定なんだけどなぁ~」
「美味しいご飯食べられるの?」
「そうだよ」
「じゃあロッテ我慢する!」
「そうか。あとちょっとだから、我慢してな」
「うんっ」
うんうん、子どもは素直が1番だよ。
それから、石鹸の包装を取り去って木箱に詰める作業や、シャンプーやトリートメントを壺に詰め替える作業の説明をしていった。
一通り説明し終わったところで、次は元冒険者5人の仕事の説明だ。
「次は、元冒険者のタバサさ……、ゴホン……、タバサ、ルーク、アーヴィン、ペーター、バルテルの仕事だけど、ズバリこの屋敷の警護だね。さっきの石鹸やらシャンプーやらにも関わることなんだけど、その評判を聞きつけて、ちょっと厄介なのが嗅ぎまわっているようなんだよ」
ランベルトさんから聞いた話を、5人に話して聞かせた。
「スタース商会か……」
「あんまりいい噂は聞かないなぁ」
5人が口々に、あの商会にいい噂はないと話した。
スタース商会というのは、あくどいことも平気でやるというその評判のよろしくない商会のことだ。
「俺も冒険者だから、家を留守にすることもあると思う。5人には、その間の家の警護をしてもらいたい。もちろん普段の警護もだけどな」
厄介な仕事ではあるけど、実力のありそうなこの5人なら問題ないだろうと思う。
「承知した。精一杯やらせてもらうよ」
タバサの返事とともに他の4人も了承した。
「トニ一家とアルバン一家も何かあれば、すぐに俺かこの5人に助けを求めること。いいね」
元冒険者の5人はある程度戦えるだろうから心配ないだろうけど、心配なのはトニ一家とアルバン一家だからな。
トニ一家とアルバン一家が家の敷地の外にでるときは、警護の5人のうち誰かが必ずついて行くことも伝えた。
それでも、何かあった場合に避難できるところはあった方がいいな。
ランベルトさんと冒険者ギルドにも後で話を通しておこう。
あとは、今晩の寝床のこともあるし、使用人用の家の案内かな。
ロッテちゃんには申し訳ないけど、飯はそれが終わってからだ。




