第三百八話 ムコーダ、奴隷を買う。(後編)
サブタイトルを(前編)(後編)にしました。
「次は、お話のあった戦闘のできる奴隷ということでよろしいですかな?」
「はい、お願いします」
気を取り直して、次は戦闘のできる奴隷だ。
少し待っていると、ゾロゾロといかにもな風貌の筋肉ムキムキの男たち(数人女性も混じってるけど)が入ってきた。
ラドスラフさんの話では、全員が借金の末に奴隷になったということだった。
まず1人目は、元Cランクの冒険者。
歳は30代前半くらいで、背は俺よりちょっと高いくらいの細身の男だ。
でも、俺とは違って細マッチョっていうやつでムッキムキだし、目つきも鋭くて、冒険者時代は斥候を担っていたらしい。
ただ、借金の原因がギャンブルだっていうからなぁ。
ギャンブルって依存性高いっていうし、この人はちょっとパスかな。
続いて2人目は、小国群から流れてきた元傭兵だ。
あの辺りはしょっちゅう小競り合いが続いていて、傭兵稼業を生業にしている者も多いんだそうだ。
40過ぎの渋めのおっさんで、顔や腕に傷がたくさんあって黒い眼帯をしていて、某有名アクションゲームの兵士にソックリ。
めっちゃ強そうだ。
しかし、この人の借金の原因ってのが、酒に酔って大暴れして店を壊してできた借金っていうんだよね。
酒癖が悪い人はちょっとね……。
この人もパスかな。
3人目の元Dランク冒険者もギャンブルが原因での借金で、4人目のマッチョな元Cランクの女性冒険者もギャンブルが原因での借金だった。
ギャンブルや酒が原因で借金作ったってのはいただけないなぁ。
次もそんな原因なのかとちょっと辟易していたところ、やっとまともなのが出てきた。
5人目は、まだ若い20代前半の元Dランクの冒険者。
先祖に巨人族がいたらしく、先祖返りの2メートルはあろうかという上背に筋肉ムキムキのゴツイ男で何だかゴリラに似ている。
こんなゴツイ男なのにつぶらな目で、何とも純朴そうな感じだ。
借金の原因は、母親の病気だ。
母親の病気を治すために、回復魔術やポーションに相当金を使ったらしい。
結局母親は亡くなってしまったらしいが、借金が消えるはずもなく奴隷にということのようだ。
ラドスラフさんの話では、Cランクに上がる間際だったらしく、けっこう有望株みたいだった。
いいんじゃないかな、こりゃキープだ。
6人目は……、おぅ、見事に腹筋がシックスパックに割れた20代後半に見える虎獣人のマッチョレディ。
俺よりも背は高そうで、おそらく180センチは超えているだろう。
何だかエイヴリングの女傑ギルドマスターのナディヤさんに通じるものがある。
この虎獣人のマッチョレディは元Bランク冒険者で、借金の原因は依頼失敗による違約金ということだった。
普段通りであれば特に問題もない依頼だったらしいのだが、予想外のことが起きて大失敗。
それによって多額の違約金を支払うハメになったそうだ。
貯金もほとんどなく、違約金を支払う目途も立たないまま結局奴隷に。
何と7人目と8人目は、この虎獣人のマッチョレディの双子の弟。
弟たちは元Cランク冒険者で、姉弟でパーティーを組んでいたとのこと。
借金の原因は当然姉と同じ。
依頼失敗による違約金で、姉弟共々奴隷にということになってしまったようだ。
この双子の弟たちもマッチョレディと一緒で190センチ超えの大柄で見事に筋肉ムキムキだった。
ちなみに、この虎獣人の姉弟3人はラドスラフさん大プッシュの奴隷である。
俺も、この3人はアリだと思う。
第一候補だ。
9人目の元Fランク冒険者は、借金の原因は騙されてと言い張っているが、どうも嘘くさい。
何より家の警護をしてもらうには、Fランクじゃちょっと低すぎる気がする。
マッチョレディたちを見た後では、ちょっと見劣りしてしまった。
10人目は犬獣人の元Cランク冒険者で、30代半ばのなかなか強そうな見た目ではあったものの、この人もギャンブルが原因での借金だった。
「ラドスラフさん、ギャンブルでの借金が原因っていうのがずいぶん多いですね」
「ええ。特に中級以上の冒険者になると、ある程度自由になる金がありますからね。割とのめり込んでしまう人がいるんですよ」
何となく分かる。
会社勤めをしていたとき、同期にもそういうヤツがいたんだよね。
就職して給料もらうようになって、パチンコにドハマりしたみたい。
部署が違ったからあまり話したことはなかったけど、けっこうあちこちのパチンコ屋に出没して派手に遊んでいたようだ。
消費者金融にまで手を出してるって話を聞いて、俺はギャンブルに興味がなくて良かったとホッとしたのを覚えている。
どんな世界にも、ギャンブルってのはあるもんなんだね。
この世界でだって、俺自身はギャンブルに興味はないけど、そういうものにも関わらないように気を付けよう。
「さて、最後の奴隷です。元Bランクの冒険者で戦闘については申し分ないのですが、何とも癖のある人物といいましょうか、頑固といいましょうか……」
最後の11人目は、ドワーフだった。
150センチくらいの身長なのに筋骨隆々、そして髭ボーボーのおっさんだ。
借金の原因が聞いて呆れた。
こちらもマッチョレディたちと同じで原因は依頼失敗による違約金ではあるんだけど、マッチョレディたちほど多額ではなく、このドワーフのおっさんであれば払おうと思えば払えたというのだ。
何でも5人のパーティーで受けた依頼の失敗で、違約金は5人で等分に支払うことになったそう。
もちろん違約金は高かったが、それぞれ蓄えや装備品を売ることでなんとか支払うことができたそうだ。
だけど、このドワーフのおっさんだけは頑として装備品、持っているメインウェポンのハンマーを売ろうとはしなかったという。
で、結局1人だけ違約金を払えず奴隷になることになってしまったわけだ。
「所持しているハンマーを売れば、違約金を払っても多少は残ったでしょうにねぇ」
ラドスラフさんがいろいろと説明したあとに、ポロッとそんなことを言った。
「む、あれは誰にも売らんっ! あれは儂の物じゃっ。 名匠ドゥシャンの下に何度も通い詰めて、大金払ってようやっと作ってもらった一品なんじゃぞ。あれは儂の宝じゃっ、あれを誰かに売るくらいなら奴隷になった方がマシじゃわい!」
ドワーフのおっさんが憮然とした表情でそう言った。
このとおり並々ならぬ執着とこだわりを持っているようだ。
でもさ、ハンマー作ってもらうのに大金払ったんなら、貯金もありそうなもんなんだけどな。
その質問をぶつけてみると「あれは名匠ドゥシャンに何としても作ってもらうために貯めたんじゃ。目的が達せられたあとに貯めるわけなかろう。すべて酒代じゃ」とのこと。
すべて酒代とは、さすがドワーフというべきか。
なぜか虎獣人のマッチョレディと双子の弟たちまでウンウン頷いていたけど。
うむ、どうしようかね。
俺としては、ラドスラフさんもおすすめの虎獣人のマッチョレディと双子の弟たちの3人と元Dランクだけど有望そうな先祖返りのゴリラに似たゴリ男君、そして一番最後の頑固なドワーフおっさんかなと思っている。
やっぱり原因がギャンブルとか酒で暴れてとかは避けたいからな。
でもと、一応サラッと11人を鑑定してみた。
俺が買おうと思っている5人は申し分ない。
その他1人目の元Cランク冒険者は斥候職だったこともあって隠蔽スキルやら投擲スキルやら、いくつか持っていて有能そうだった。
元傭兵だという某有名アクションゲームの兵士にソックリな渋いおっさんも、剣スキルのほか統率スキルなんかも持っていて有能そうだ。
しかし、原因がねぇ……。
警護としては5人いれば足りるかな。
もし、足りないようだったらまた考えればいいし。
とりあえずはやっぱりあの5人かな。
俺はラドスラフさんに5人を買うことを伝えた。
虎獣人のマッチョレディはタバサさん(28)で双子の弟たちは上がルークさんで下がアーヴィンさん(2人とも24)、先祖返りのゴリ男君がペーター君(20)、頑固なドワーフおっさんがバルテルさん(92)だ。
タバサさんとルークさんとアーヴィンさんが3人で金貨1400枚、ペーター君が金貨380枚、バルテルさんが金貨680枚だった。
やはり戦闘のできる奴隷となると高くなるようだ。
5人の登録もしてもらって、トニ一家とアルバン一家を含めた代金〆て金貨3470枚をラドスラフさんに支払った。
そして、トニ一家とアルバン一家と5人との契約も滞りなく済ませた。
俺としては、守秘義務のところを特に重視した契約に。
とは言っても、俺の出身、スキル等にかかわることは絶対に漏らさないってことではあるんだけど。
石鹸やらシャンプーやらもスキルにかかわることだから、これで漏らせないはずだ。
契約上、俺の個人情報は漏らさないようにはなっているから大丈夫だとは思う。
そこのところだけは何度も確認したからな。
契約が終わり、14人を引き渡されたところで、フェルたちを紹介する。
「どうも。みなさんを買い取ったムコーダといいます。そして、こっちが私の従魔です」
のっそりと起き出してきたフェル、ドラちゃんを紹介して、革鞄を開けて中で眠るスイをそっと見せて紹介していった。
フェルを紹介すると、特に元冒険者でもある5人が一瞬身構えたけど、「従魔なので大丈夫ですから。詳しいことは家に帰ってから説明しますね」と言って、その場は何とか収めた。
そして、14人を引き連れてラドスラフさんの店をお暇することに。
「また奴隷がご入用のときは是非うちへお越しください」
笑顔のラドスラフさんがそう言った。
14人も一気に買えば、俺もお得意様か。
まぁ、今のところ増やす予定はないけどね。
14人を連れての大所帯、とりあえずは我が家へと戻ることにした。
ただ今のムコーダ所持金額
推定金貨74,315枚




