第三百七話 ムコーダ、奴隷を買う。(前編)
俺の前には2家族総勢9人の奴隷が並んでいた。
何で俺ってこんなに女運がないんだろうね……。
ハァ~。
何でこんなことになっているのかというと、‟リアルメイドはカワイイ女の子”これだけは譲れないと、カワイイ女の子の奴隷を希望したんだ。
だけど、ラドスラフさんが言うには、俺が希望する奴隷は用意ができないということだった。
カワイイ女の子の奴隷がいないというわけではなく、奴隷の方の希望が俺と合致しなかったからだ。
この国では、奴隷になって最初の3か月くらいは奴隷の意見が優先されるためこういうことになってしまった。
見た目の良い奴隷というのはそれだけで需要があるもので、男女関係なくほとんどその3か月以内に売れてしまうそうで、そうなると俺が希望したカワイイ女の子の奴隷も3か月以内ということになる。
そうなると、その子たちの希望が優先されるというわけで……。
そういう子はみんな貴族か商人へ買われることを希望しているという。
奴隷へ支払う賃金は安いが、貴族や商人の方がその中でも高くなるからだ。
奴隷側としては、自分を買い戻すことを考えると、少しでも賃金の高い方を希望するのはわからなくもない。
俺は冒険者だから、それで避けられたのだろう。
そんなにケチるつもりはないんだけどな……。
ラドスラフさんも俺がSランク冒険者だと知っていて、相手はSランク冒険者だから貴族や商人と比べても遜色はないと説明してくれたらしいんだけど、どうも冒険者っていうだけで粗野で乱暴だというイメージを持たれているのもあって、みんなウンとは言わなかったそうなんだ。
ランベルトさんの紹介で来た店で、まさか手ぶらでは帰れないだろ。
そんなわけで、とりあえずランベルトさんおすすめでもある家族ごとの買取りを希望している奴隷を見せてもらうことにしたんだけど……。
そして、今に至る。
「トニ一家とアルバン一家です」
ラドスラフさんから紹介を受けた2家族。
まずはトニ一家。
父トニさん(33)、母アイヤさん(30)、長男コスティ君(13)、長女セリヤちゃん(9)という家族構成だ。
トニ一家は借金の末に奴隷に。
何でもアイヤさんが病気にかかり、神官に回復魔法をかけてもらうお布施代とポーション代とで借金がかさんでしまったそうだ。
そのアイヤさんも、借金の原因になったもののその処置のおかげか今現在は健康状態は万全とはいかないものの小康状態を保っているという。
よく見れば、アイヤさんはあまり顔色がよくないようだ。
ラドスラフさんの話では、トニさんは腕のいい植木職人だそうで、植木が多い我が家にはおすすめの奴隷とのこと。
息子のコスティ君もトニさんからある程度のことを仕込まれているので、十分に役に立つということだった。
アイヤさんも、主婦として家事全般はそつなくこなせるほか、病気になる前は食堂で働いていたこともあり、料理はお手の物とのことだ。
セリヤちゃんも、まだ9歳ではあるが、アイヤさんが病気になってからは家事一切をこなしていたためある程度できるとのことだった。
続いてアルバン一家。
父アルバンさん(30)、母テレーザさん(28)、長男オリバー君(10)、次男エーリク君(8)、長女ロッテちゃん(5)という家族構成だ。
アルバン一家は元々農家で、不作が原因でやむを得ず奴隷に。
ラドスラフさんの話だと、アルバンさんは果樹農家だったのでトニさんと同じく植木の手入れなんかもできるとのこと。
そういや、家に果樹の類も植わっていたような気がするな。
息子のオリバー君とエーリク君もアルバンさんの仕事を手伝っていたから、ある程度の仕事は任せられるくらいだという。
テレーザさんは、農家の主婦として家事全般はお手の物だし、小さい魔物なら解体もできるとのことだった。
ロッテちゃんについては、まだ5歳なのでご勘弁をという話だ。
ランベルトさんが一家ごと買い取ることをすすめるのも何となく分かったよ。
だって、みんな必死なんだもん。
これで家族ごと買い取ったら、そりゃあ恩義に思うわ。
必死なのはわかるけど、だからってそんなすがるような目で見ないで……。
2家族9人のすがるような目が俺を見ていた。
「一生懸命働きますっ! だから、だから僕らを買ってください! お願いしますっ!」
そう言って頭を下げたのはトニ一家の長男コスティ君だ。
続いてその妹のセリヤちゃんも「おじちゃん、お願いします」と頭を下げる。
父親のトニさんも「何とか家族一緒にっ」と深々と頭を下げている。
母親のアイヤさんも同じだ。
「おじちゃんっ、僕らもがんばって働きます! だから、家族をバラバラにしないでっ。お願いします!」
アルバン一家の長男オリバー君もそう言って頭を下げた。
その両親アルバンさんとテレーザさんも深々と頭を下げる。
両親と兄を見てエーリク君も泣きそうな顔をして頭を下げていた。
チビッ子のロッテちゃんまで何が何だかわからないだろうに「おねがいしましゅ」とチョコンと頭を下げている。
………………。
クッ…………、君たち、俺の弱いところを的確についてくるね。
だから俺はこういう話に弱いんだって。
おじちゃん発言はあれだけど、子供にこんなに必死にお願いされたら、嫌なんて言えないだろがぁーっ。
俺にはこれを無視できるほど人でなしにはなれないよ……。
「……ラドスラフさん、2家族とも買います」
「ありがとうございます」
ラドスラフさんは満面の笑顔。
トニ一家とアルバン一家は、家族がバラバラにならずに済んでホッとしたのか泣き崩れてるよ。
その後、登録のために2家族はいったんドアの向こうに下がっていった。
トニ一家は金貨500枚、アルバン一家は金貨510枚。
人の値段としては、やけに安いような気がしたけど、ラドスラフさん曰く……。
「トニ一家やアルバン一家のような平民にとってはとてつもない大金ですよ。しかも、買い戻す場合はその倍の金額を支払うのが常ですから、自分たちを買い戻すとなると何十年もの年月が必要になるのですよ」
フェルたちのおかげで金があるから安いなんて思っちゃったけど、トニ一家やアルバン一家のようなこの世界の一般的な家にとってみたら、確かにそうだよな……。
まぁ、うちはやることやってもらえればうるさいこと言わないし、今までと同じく普通に暮らしていってほしい。
買取ったからには、俺だってそれくらいはするよ。
考えていたカワイイ女の子の奴隷は手に入らなかったけど、これも何かの縁だろう。
ランベルトさんによると、家族ごと買い入れると恩義に感じてくれてみんなすごく良く働いてくれるってことだから、期待してるよ。
………………。
そう思ってないとやってられんです。
トホホ。
奴隷購入編はもちろん次がありますよ。




