第三百五話 信用できて口の堅い人
今日は朝のうちに、ランベルトさんの店に卸す石鹸やらシャンプーやらを入れる壺や木箱を買ってきた。
そして、一心不乱に詰め替え作業に没頭した。
そうじゃないといろいろ考えちゃってさ。
なりゆきと勢いでこの豪邸を買っちゃったけど、いきなり躓いた。
冷静になって考えたら、デカすぎてどうしようって感じなんだもん。
この広い屋敷の掃除どうしようとか、庭だって広いし木もいっぱい生えてんだから手入れしなきゃいけないだろうしとかさ。
使用人用の家が3つも建ってるってのもこれなら納得だよ。
これだけの屋敷だったら、人を雇わなきゃとてもじゃないが維持できないわ。
使用人用の家も見たけど平屋の家で、普通に暮らす分には全然問題ない感じでさ、ぶっちゃけ俺はこっちで暮らしてもいいくらいだ。
とは言っても、この屋敷全部が俺のものになったわけで……。
何の手入れもしないっていうのも気が引ける。
何より、なら何で家を買ったんだって話になるし。
家を買った暁には、家の管理と石鹸やらシャンプーの詰め替え作業やランベルトさんの店に卸す仕事をやってもらうために、1人か2人、人を雇おうとは考えていたけど、この屋敷じゃ1人か2人じゃどう考えても足りないよなぁ。
あ~、詰め替え作業していても結局いろいろと考えちゃうな。
ったく、それなのにあいつらときたら。
「こっちは悩んでるってのに、フェルもドラちゃんもスイものん気なもんだぜ……」
俺の悩みを余所に、フェルたちは元気に広い庭を駆け回っていた。
悩みながらも詰め替え作業に没頭していたため、思ったよりも早く作業が進んだ。
「何にしてもやっぱ人を雇うしかないよな……。考えてた1人か2人じゃなく、何人かは覚悟しないとダメだろう」
幸いにして金はあるから、人を数人雇うのはいいんだけど、重要なのは……。
「人を雇うなら、何と言っても口が堅い人だよなぁ」
石鹸やらシャンプーやらの詰め替え作業を頼もうと思っている以上、俺のネットスーパーのスキルはバレる可能性大なわけだし。
ネットスーパーのスキルがどういうものかは分からないにしても、巷で売れまくってる石鹸やらシャンプーやらを俺が持っているってことは間違いなく知られてしまうだろう。
そうなると、やっぱり秘密厳守で口の堅い人じゃないとな。
それに、まだまだいろんなところを見てみたいから旅だってしたいし……。
そう考えると、この屋敷を留守にする間任せられる信用できる人がいいに決まっている。
「信用できて口の堅い人か……。そういう人を雇うにはどうしたらいいんかねぇ? こういうのを頼むなら商人ギルドなのか、はたまた職業を斡旋してるところが別にあるのか……」
異世界の求人事情はよくわからん。
1人で悩んでてもしょうがないし、やっぱりこういうのはランベルトさんに聞くのが1番かな。
商人のランベルトさんなら、こういうことは熟知していそうだし。
よし、明日、石鹸やらシャンプーを納めにいったときに聞いてみよう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌日、ベルレアンのときと同じ量をランベルトさんに収め、代金を受け取ったあとに話を切り出した。
「ランベルトさん、実はまたご相談したいことがありまして……」
家の管理と石鹸やらシャンプーやらを卸す仕事をやってもらうために、信用できて口の堅い人を雇い入れたい旨の話をした。
すると、ランベルトさんはすぐに答えをくれた。
「それならば奴隷を買うのが1番ですよ」
「ど、奴隷、ですか?」
奴隷という言葉にちょっとビビッた。
確かに奴隷がいるのは知っているし、この国に来るまでに見たことがあるけど、それを自分が買うとなるとね……。
「ああ、ムコーダさんはこの国出身ではありませんでしたね。この国の奴隷制度はしっかりしているので、買う側にとっても買われる側にとっても利点が多いんですよ」
ランベルトさんの話では、この国の奴隷制度は弱者救済的な意味も含んでいるので、かなりしっかりとした制度になっているとのことだった。
どこがというと、まず第1に登録制だということ。
奴隷を買うと、誰それの奴隷の主人は誰であると必ず登録されることになる。
それにより、主人になる者は奴隷に対して最低限の生活を保障することが義務付けられる。
第2に契約制であること。
主人になる者と奴隷との間で契約を結ぶことになる。
この契約は奴隷自身の買戻しの金額や、賃金の設定等の条項もあり、主人になる者と奴隷との間で自由に取り決めることができるということだった。
通常は、この契約の中に契約中に知りえた情報は他に漏らさない旨の守秘義務条項を入れることになるそう。
これにより、主人になる者の情報も守られるというわけだ。
この守秘義務は、契約終了後も厳守されなければならないことも決められているので安心だ。
しかも、この契約は魔力を使った強固な契約で、契約を結ぶと、奴隷の右手の親指の付け根に黒い丸が浮かび上がり、違反すると、その黒い丸が右手全体に広がっていくので一目瞭然なのだという。
これだけだと奴隷側に不利なようだが、奴隷側は主人側に契約違反があれば近くの騎士団の詰め所等に駆け込めば、のちに主人側は徹底した取調べを受けることになるそうだ。
登録と契約、この2つは非常に重要なもので、主人側も奴隷側も違反をすれば当然罪に問われることになるし、場合によっては莫大な賠償金を支払わなければならなくなる。
例えば、奴隷が自身を買い戻したり、主人から恩赦なりで契約を終了された場合は、登録も解除となり契約も終了となるが、登録も解除されていないし契約も終了していないのに勝手に逃げ出してしまえば、それは罪になり罰せられることになる。
主人の側も、奴隷に契約にないことをやらせたり、契約で決まった賃金を支払わなければ、当然罪になり罰せられる。
この世界の罰は過酷で死刑か犯罪奴隷になるかのほぼ二択しかないわけで、この場合は犯罪奴隷となる。
どこの国も一緒のようだけど、犯罪奴隷になった場合、人権もへったくれもなく酷使されるのが常だ。
「言ってみれば、奴隷も契約の一種なのですよ。しかも、この国は他の国々に比べて奴隷の人権が確立されていますし。犯罪奴隷になるリスクを背負ってまで違反するものはまずいないですね」
なるほど、確かに。
制度上ここまでしっかりしていれば、リスクを冒してまでそれを違えようなんて普通は考えないよな。
「中でも私のおすすめは一家ごと買い取ることですね」
「いっかごと、ですか?」
意味が分からず、ランベルトさんに話を聞くと、一家ごとというのはそのまま一家族ごとという意味だった。
不作で食うにも困って一家ごと奴隷にというケースや、借金で一家ごと奴隷にというケースが割とあるんだそうだ。
そういう奴隷は、家族がバラバラになることを防ぐために家族ごと買ってもらうことを希望する。
しかし、売る側の奴隷商も商売でやっているので、その希望をずっと聞き入れるわけにもいかないわけだ。
通常は3か月くらいを目安に家族ごとで売り出して、それでも買取り先が見つからない場合はバラバラに売られることになる。
「バラバラに売られる前に、家族ごと買い入れると恩義に感じてくれるのでしょうね。みんなすごく良く働いてくれるんですよ。それこそこちらが感心するくらいに。それに、私や店の不利益になるようなことは絶対にしませんしね」
ほー、そういうことがあるのか。
「それから、一家ごと買取った奴隷は自分たちを買い戻した後も、生活の安定を1番に考えるんでしょうね。そのままうちで働き続けてくれる者がほとんどなんです」
そういうこともあって、ランベルトさんは奴隷を買うときには一家ごと買取ることがほとんどなのだそうだ。
ランベルトさん曰く、一家ごと買取る場合は最初は少々高い金額を払うことになるが、その後のことを考えれば安いもんとのこと。
一家ごとの買い上げか、一応考慮はしてみるか。
でも、どうせ奴隷を買うなら、カワイイ女の子がいいかなぁ。
い、いや、別に変な考えがあってのことじゃないんだよ。
た、ただ、俺だって男だし、一緒にいるならカワイイ女の子がいいじゃないか。
男ならそう思うのが当然だろ。
「ああ、それと奴隷を買われるなら、戦闘のできる奴隷も一緒に買われた方が良いかと思います」
「え? 戦闘のできる奴隷ですか?」
「ええ、実は……」
ランベルトさんが、真剣な顔をして話し出した。
ただ今のムコーダ所持金額
推定金貨77,785枚
豪邸買って減ったと思ったら石鹸やらを売ってまた増えた(笑)
金には困らんムコーダさんが羨ましい作者です。
 




