第三百四話 ムコーダ、家を買う。
302話のオークキングの記述が間違っているのではないかとのご指摘を受けたので、確認の上少し直しました。
ランベルトさんの紹介で商人ギルドの不動産部門を統括するネストリさんと話をし、早速物件を見にいくことになった。
商人ギルドから歩くこと約20分。
「こちらです」
「…………え? こ、ここですか?」
ネストリさんの前にはずいぶんと立派な門が。
しかも、その門の両脇からは2メートルはある高い石塀が続いていた。
「ささ、どうぞ」
門の鍵を開けたネストリさんに促されて、中へと入っていった。
美しい緑に囲まれた石畳の道をしばらく進み、ようやく屋敷が見えてきた。
「どうです? 素晴らしい屋敷でしょう」
屋敷を見て、思わず口をあんぐり開けてしまった。
いや、素晴らしいも何も…………。
こ、これ、個人で持つ家じゃないっしょ。
いつか見た旅雑誌の特集を思い出した。
『一生に一度は味わってみたいラグジュアリーな空間』
そんなキャッチコピーで紹介されていた、日本円にして一泊ウン十万円はする海外の隠れ家的超高級ホテル。
それにソックリだった。
城といっても過言ではない白亜の豪邸を目の前に、言葉も出ない。
「いつ見ても素晴らしいですなぁ~」
ランベルトさん、のん気に素晴らしいとか言わないでよ。
いや、確かに素晴らしいよ。
素晴らしいけどさ、何で一冒険者の俺にこんなものすごい物件紹介してくれちゃってんの?
てっきり旅の途中で借りた屋敷に近いもんを想像していたんだけど。
もちろんあれだって俺にとっちゃ豪華な屋敷で、あんな屋敷を手に入れるってことはすごい贅沢なことなんだからな。
だけど、目の前の白亜の豪邸は、旅の途中で借りた屋敷の比じゃない。
大きさからして違うし、高価と言われる板ガラスを使った窓がいくつもあった。
「庭も見てください。広々としているうえに緑も豊富なんですよ」
ネストリさんの言うとおり、手入れされた広々とした濃い緑の芝の庭とそれを囲むようにいろいろな木が植えられていた。
『うむ。人の家にしてはまぁまぁの広さの庭だな』
『うんうん。木もけっこうあるし、いいんじゃねぇか』
『わーい』
「あっ、コラッ! フェルっ、ドラちゃんっ、スイっ!」
庭の中をフェルが駆け回り、ドラちゃんが飛び回り、スイがポンポン飛び跳ねて回っている。
ああっ、フェルの駆けたあと芝がめくれあがってるところがあるじゃないかっ。
一応みんなには事前に念話で家を買うと説明はしていたけど、ここに決めたとは一言も言ってないのに。
「ハハハッ、ムコーダさんの従魔はここが気に入ったようですな」
「そうですね~」
ランベルトさんもネストリさんも人のことだと思って。
まだ買うと決まったわけではないですからね。
『フェル、ドラちゃん、スイ、この家を買うって決めたわけじゃないんだから、大人しくしててよ』
『む、ここでいいではないか。我はなかなか気に入ったぞ』
『俺も気に入ったぞ』
『スイもここがいいなぁ~』
ぐぬぬ。
もしかしてみんな高級志向なのか?
「さ、今度は家の中をご案内しますよ」
ネストリさんが、白亜の豪邸の観音開きの大きなドアを開けた。
一通り庭を見て回り満足したフェルたちと一緒に中へと入る。
ここだけで普通の家が建つんではなかろうかという広いエントランス。
そこには巨体のフェルでも悠々と上がれるようならせん階段があり、2階へと続いていた。
「広いでしょう。そして、上を見てください」
ネストリさんに言われるまま上を見ると、大きなシャンデリアがぶら下がっていた。
「クリスタルビートルを使ったシャンデリアです。これだけの大きさのものは、なかなかお目にかかれませんよ。もちろん光の魔石も中に仕込んでありますので、こうしてここに魔力を流しますと……」
ネストリさんがドアの横の壁にあった手のひらサイズの黒っぽい板に魔力を流すと、シャンデリアが淡い光を放った。
「この魔石も随分といいものを使っていますので、十年近くは持ちますよ」
何なんだ、ここは……。
豪華すぎてエントランスだけですでにお腹いっぱいなんですけど。
「次はこちらへ」
………………
…………
……
ネストリさん、まだ1階を案内してもらっただけなんだけど、正直、精根尽きました。
だって廊下には何だかわかんないけど、いかにも価値のありそうな絵とか壺とかが飾ってあるし、各部屋には見ただけで高級だとわかる毛足の長いフカフカの絨毯が惜しげもなく敷かれてるんだぞ。
しかもだ、キッチンの広いこと広いこと……。
俺の四つ口の魔道コンロと似たものが2つも設置されてたよ。
ランベルトさんがそのまますぐに住めるって言ってたのは嘘偽りなしで、高価そうな食器までズラリとそろっていた。
それに風呂だよ風呂。
旅の途中で借りた屋敷の風呂でも広いと思ってたけど、それが霞むほど広々とした風呂だったよ。
しかも花々の模様つきの高いやつだ。
魔石を使った蛇口もあって、そこから適温のお湯がジャブジャブ出てくるし。
それからトイレだよトイレ!
今まではボットンしかなかったんだ。
旅の途中で借りた豪華な屋敷でもそうだったから、この世界はこれしかないんだと思ってたんだ。
それなのに、ここのトイレはなんと水の魔石を利用した水洗だったんだよ。
ネストリさん曰く、王都で流行りだした最新式のトイレだそうだ。
カレーリナの街でも、この最新式のトイレがあるのは数か所のみとのこと。
風呂と水洗トイレには非常に惹かれるけど、この家はあまりに豪華すぎて気後れしちゃうよ。
「それでは2階をご案内します」
「私も今回初めて中を拝見いたしましたが、ため息がでるほど贅沢な造りですな~」
ランベルトさん、あなた完全に見物しに来ただけじゃないか。
「まずはこちらへどうぞ」
ネストリさんに案内されたのは主寝室だ。
「ここで1番のおすすめは、この大きなベッドです」
いったい何人寝るんだと言いたくなるようなデカすぎるベッドだ。
『ほーこれはなかなか寝心地よさそうじゃねぇか』
そう言ってドラちゃんがベッドにダイブ。
「あっ、ドラちゃん何やってんだよ!」
『おおっ、柔らけぇ』
『スイもー』
ドラちゃんを見て、スイもベッドに飛び乗った。
「ああっ、スイまでっ」
『わーい! あるじー、これすっごくやわらかいよー』
スイがご機嫌でベッドの上をポンポン飛び跳ねている。
『まったく、ドラとスイは何をやっているのだ。しかし、この家は確かに良いな。我も下に敷かれているこれは非常に気に入ったぞ』
そう言ってフェルが毛足の長い絨毯の上で寝そべった。
お前らなぁ……。
「…………すみません」
「いえいえ、ムコーダさんの従魔たちは庭に続いて屋敷も気に入ったようですな」
買うと決まったわけじゃないのに。
お前ら自由過ぎなんだよぉー。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「はい、それでは金貨1万2000枚分として白金貨120枚、確かに受け取りました。これがカギです」
丸い輪っかに鍵がいくつもついていた。
ネストリさんの説明では門のカギやら母屋のカギ、使用人専用の家のカギだ。
あの白亜の豪邸を買ってしまった。
俺としては、旅の途中で借りたくらいのちょっと豪華な家がよかったのに……。
はぁ~。
あいつらめ。
白亜の豪邸を買うハメになった、うちの子たちに愚痴をこぼしたくなる。
ネストリさんの案内で家を見に行ったはいいが、フェルもドラちゃんもスイもここがいいって言って出ようとしないんだもんな。
他の家も見てからって言ってるのに、ここがいいって聞かないんだぞ。
今だって俺だけ商人ギルドに来てるしさ。
相当居心地がいいのか、みんな動こうとしないんだもん。
しょうがないから白亜の豪邸を買ったよ。
「いやぁ、金貨1万2000枚を即金とは、Sランク冒険者はすごいですね。私もムコーダさんとお知り合いで鼻が高いですよ」
ランベルトさん、俺、この家買うつもりなかったんですよ……。
はぁ、今さら言ってもしょうがないし、もういいけど。
商人ギルドの前でランベルトさんと別れて、俺はたった今俺の家になった白亜の豪邸へと帰っていった。
しかし、俺とフェルとドラちゃんとスイしかいないのに、部屋も余りまくりのあの豪邸どうしよ……。
ただ今のムコーダ所持金額
推定金貨76,600枚
豪邸を買って少しだけ減りましたw
まだまだ大金持ちですが(汗)




