第三百二話 カレーリナの街、再び
今日は302、303話の2話更新です。
開いている門の間から見覚えのある街並みが見えた。
「カレーリナの街だ……。よし、早く街の中へ入ろう」
『うむ』
『おう』
俺を背に乗せたフェルがカレーリナの街へと駆けていく。
その隣をドラちゃんが飛びながら並走した。
ちなみにスイはいつものように革鞄の中でグッスリだ。
久々にフェルの姿を目の当たりにした門番も少し驚いていたけど、一緒にいる俺の姿を見て「ああ」となったのか特に問題なかった。
ドラちゃんについても俺が金ピカのSランクのギルドカードを見せたら、あっさり通れたよ。
やっぱり金ピカのSランクのギルドカードの威力は侮れないね。
街に入って見覚えのある通りを歩いていると、何となく「帰ってきたな」という思いがこみ上げてきた。
この国に来て最初に滞在した街だし、滞在期間も長かったからな。
やはり思い入れのある街ではある。
「まずは冒険者ギルドに挨拶に行こうか」
俺とフェルとスイにとっては久しぶりの、ドラちゃんにとっては初めてのカレーリナの冒険者ギルドへと向かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
冒険者ギルドに着くと、俺たちのことを覚えていた受付嬢があわてて席を立つのが見えた。
なんかちょっと笑ってしまった。
そんなにあわてなくても大丈夫だよ。
そして、すぐに見覚えのある筋肉ムキムキの厳つい元気な爺さんがやってきた。
ここカレーリナの冒険者ギルドのギルドマスター、ヴィレムさんだ。
「おぉっ、久しぶりだな!」
「お久しぶりです」
「お前、Sランクになったんだってなぁ」
「ええ。おかげさまで。あと、新しい従魔もできました。ドラちゃん、こっち」
そう言うと、何故かドラちゃんが俺の後頭部にペタッと張り付いた。
ドラちゃんや、頭に爪が食い込んで痛いんですけど。
「ええと、新しい従魔のピクシードラゴンです……」
「ハハッ、終にドラゴンまで従魔にしたか!」
「ピクシードラゴンって珍しい種類で、これで成体なんですよ」
「ガハハッ、珍しいか。従魔を3匹も連れてるお前の方が儂にとっちゃ珍しいぜ」
そう言われるとねぇ。
確かにテイマー自体少ないのに、3匹も引き連れてる冒険者は他に見たことないわ。
「この街にいる間は、またいろいろ頼むからな。よろしく頼むぞ」
「はい。しばらくはこの街にいる予定なんで。今日はとりあえず挨拶に……」
そうだ、どうせ来たんだし解体してもらおうかな。
もちろん肉以外は買い取ってもらうけど。
自分で解体できるようになったとはいえ、大きいものは無理だし、せいぜい1匹か2匹だし。
やっぱり本職にはかなわないからね。
うちは肉の消費量がハンパじゃないし、頼めるうちに頼んどいた方がいいな。
「あと、少し買取をお願いできればなと思って」
「おおっ、そうか。お前が持ち込むもんはいいもんばっかりだからな。こっちとしてもありがたい。早速倉庫行くぞ、倉庫」
そう言ってズンズン進んでいくギルドマスター。
俺たちもそれに付いて倉庫に向かった。
「おうっ、ヨハン。久々の顔だぞ」
倉庫に着いてギルドマスターが声を掛けると、見覚えのある厳つい禿げ頭のおっさんが奥からやってきた。
「おーっ、兄さんかい! 久しぶりだなぁ。ここに来たってことは買取だな? 兄さんの持ち込みは、なかなかお目にかかれないもんばっかりだから腕が鳴るぜ。どれ、出してみな」
「いや、今はそんなたいしたものないですよ」
ドランで狩った魔物、ドランでは半分くらいしか買取お願いしなかったから、残りをここでお願いしておこうかなと思っただけだし。
「えーっと……」
ドランで狩った魔物の残りをアイテムボックスから次々と出していった。
ワイバーン×8、ワイルドバイソン×3、ゴールデンシープ×3、ジャイアントホーンボア×1、ロックバード×2、ブルーブル×10、ジャイアントターキー×3。
軽トラサイズのジャイアントホーンボアは肉がたくさん確保できそうだから、この際お願いした。
あとブルーブルはさすがに数が多かったから10頭に止めたよ。
「ワイバーンかよ。それに、ゴールデンシープにジャイアントホーンボアまでいやがるじゃねぇか。さすが兄さんだぜ」
俺が出した魔物を見て、ヨハンのおっさんが驚きの声を上げた。
ヨハンのおっさんが言うには、ゴールデンシープとジャイアントホーンボアはここ数年カレーリナのギルドに買取に出されることがなくとんと姿を見なかったそうだ。
「儂も久しぶりに見たぜ。やっぱりお前が持ち込むもんはいいもんが多いな」
ギルドマスターも、久しぶりの魔物に満足そうだ。
あれ? もしかして、まだ余裕ある?
「あの、もうちょい大丈夫ですか?」
「ん? ああ、大丈夫だぞ。お前のおかげで、うちもちっとばかし資金に余裕が出来たしな」
そう言ってニヤニヤ笑みを浮かべるギルドマスター。
へぇ~、そうなんだ。
そんなら前にここで見せて、資金がないって買取拒否されたキマイラとオルトロス、出しちゃうよ。
「それならば、前に出したこれ、大丈夫ですかね?」
前にも2人に見せたキマイラとオルトロスをアイテムボックスから出した。
「それに、これです」
それに加えて出したのは、これまた残ってたディムグレイライノだ。
「「…………」」
ギルドマスターもヨハンのおっさんも無言だ。
「あの……」
「くっ、そうきたか。前に見せてもらったキマイラとオルトロスだな。それに、ディムグレイライノだと? また珍しいものを」
「ええ。前にフェルたちが……」
その言葉だけで2人には通じた。
「ヨハン、どうだ?」
「ディムグレイライノは珍しいですが前にも解体したことがあるんで特に問題はないです。キマイラとオルトロスはさすがにないですが、やってやれないことはないと思いますね」
ヨハンのおっさんも、キマイラとオルトロスを見るのは2度目なので前よりは落ち着いているようだ。
ギルドマスターはヨハンのおっさんの返事を聞いて少し考えている。
「うーむ、ディムグレイライノは買取しよう。だが、キマイラとオルトロスの両方はさすがに無理だな」
「両方は無理ってことは、どちらか一方ならいいということですか?」
「うむ。どちらか一方なら買取しよう。お前の持ち込みで随分とここも潤っているからな。その流れに乗って、また稼がせてもらおう」
キマイラかオルトロスのどっちかか。
どっちも塩漬けになってた魔物だから、この際どっちでもいいから捌けてくれればありがたい。
ずっとしまいっぱなしだと、正直、あることも忘れそうになるし。
さて、どっち買取してもらおうかな。
『キマイラだ』
どちらにしようか考えていると、フェルの声がした。
「キマイラ?」
『うむ。肉が食えるからな』
あ~、フェルがそんなようなこと言ってたな。
って、この見てくれで本当にキマイラって食えるのか?
キマイラのおどろおどろしい姿を見て心配になった。
「あの、キマイラって食えるんですか?」
「いや、儂はそんな話は聞いたことがないぞ。ヨハンはどうだ?」
「俺も聞いたことないですね……」
ギルドマスターもヨハンのおっさんもキマイラの肉が食えるとは聞いたことがないという。
う~ん、エイヴリングのスッポンの例(こっちの世界の人は食えるとは思ってなかった)もあるしな……。
こういうときはコソッと鑑定だ。
【 キマイラ 】
Sランクの魔物。食用可。極上の赤身肉で焼いても煮ても美味である。
…………キマイラ、食えるんだ。
極上の赤身肉だってよ。
あんな姿の魔物なのに、わかんないもんだねぇ。
とりあえず食えることが分かったから、キマイラの方の買取をお願いした。
もちろん肉はすべて戻してもらうことで話も付けた。
「それじゃ、お願いします」
「おう。そうだな、4日後に取りに来てくれ。買取代金もそのときまでには用意しておく」
ギルドマスターとヨハンのおっさんに別れを告げて、冒険者ギルドを後にした。
さて、次はランベルトさんのところだ。
きっともうそろそろ石鹸やらシャンプーやらの話も出てくるころだろうし。
それに、ちょっと個人的に相談にのってもらいたいこともあるしね。




