第二百四十九話 この世界のエルフはグルメだった
夕飯のメニューはフライにした。
アジフライにエビフライ、ホタテフライにハマグリフライ、白身魚フライを木皿に盛ってミックスフライ盛りだ。
フェルとドラちゃんとスイにはミックスフライ山盛りで、タルタルソースをたっぷりかけて出してやった。
それからフェルたちにはちょっぴり不評だけど、クラムチャウダーも一応出してやった。
俺たちにはミックスフライとクラムチャウダーに黒パンのメニューだ。
もちろんミックスフライにはタルタルソースをたっぷり添えてある。
フェルとドラちゃんとスイは出された傍からガツガツ食っている。
エルランドさんと”アーク”の面々は何故かなかなか手を付けない。
「えーっと、これはそのまま食べればいいんですか?」
あー、そうか。
フライの料理は初めて見るだろうし、添えてあるタルタルソースもあるしで、どう食えばいいのかわかんなかったか。
「これはですねベルレアンで仕入れた魚介にパンくずを付けて油で揚げたフライという料理です。添えてあるこの白いソースを付けて食べてください。こんな感じで」
フォークでフライを刺してからタルタルソースをたっぷりつけて口に運んだ。
うん、エビフライめっちゃ美味いぜ。
あ、気軽に魚介のフライ出しちゃったけど、魚介は苦手ってことがあるかもしれんな。
ネイホフで出会った、魚介が大の苦手だという冒険者影の戦士のアロンツォさんを思い出した。
そういやあの人たちもエイヴリングへ行くって言ってたな。
ダンジョンから出たらひょっこり再会したりして。
なんてね、ここもけっこうデカい街だしそうそう再会するわきゃないか。
「もし、お口に合わないようでしたら他のものを出しますんで遠慮なく言ってくださいね」
とは言ったけど心配無用のようだった。
エルランドさんもガウディーノさんはじめアークの面々も無言でフライをバクバク食ってるよ。
気に入ってもらえたみたいで良かった。
さて、俺も食おうっと。
あーアジフライうめぇな。
揚げたてをすぐにアイテムボックスにしまったからサックサクのままだ。
タルタルソースをつけて食うとたまらんな。
「やっぱアジフライにはタルタルだな」
たまにはウスターソースもいいけど、やはりこれだな。
これに冷えたビールをキューッと……。
いかんいかん、今はダンジョンの中なんだから。
しかし、フライを食ってるとビールが飲みたくなるのは何でなんだろうな。
「このフライっちゅーのは初めて食ったが美味いのう。エールと抜群に合いそうだわい」
ドワーフのシーグヴァルドさんがフライを味わいながらそう言う。
さすがドワーフ、酒に合いそうな料理が分かるってことか。
「ええ。フライに限らず揚げ物料理はビーじゃなかったエールに抜群に合いますよ」
「ほぅ、そうか。そう言えばドランの街発祥の揚げ芋だったか? あれもエールのつまみにゃ最高じゃったわい」
フライドポテトももう食ったのか。
「あの揚げ芋はムコーダさんがドランの街へ広めたんですよ」
「なぬ、そうなのか? 冒険者の腕のみならず料理の腕も一流とはすごいのう」
いやぁ、照れるな。
そうは言ってもみんな大雑把な男料理なんだけどね。
しかもネットスーパーがあるおかげでのことだし。
ここがダンジョンじゃなきゃ、それこそウイスキーでも出してやるところだよ。
『おい、おかわりだ。この魚と貝には、ウスターソースをかけてくれ。他のものはいつもの白いソースだ』
フェルからおかわりの注文だ。
アジフライとハマグリフライにはウスターソース、エビフライ、ホタテフライに白身魚にはタルタルソースか。
そういやアジフライとハマグリフライにはウスターソースが合うって言ってたもんな。
『俺もだぜ。この魚とこの貝とこの貝に茶色いソースかけたのくれ』
ドラちゃんはアジフライにホタテフライ、ハマグリフライにウスターソースをかけたものね。
『スイもおかわりー。スイはね、白いのかけたやつがいいのー』
スイはタルタルソースをかけたやつね。
もちろんミックスフライは山盛りで。
それぞれの注文通り皿に盛って出してやると、再びガツガツ食い始める。
「その茶色いソースは何ですか?」
エルランドさんが興味深々という感じで聞いてきた。
「これですか? これはウスターソースっていうソースです。あ、これかけて食ってみます?」
エルランドさんの皿が空になっているのを見てすすめてみた。
「是非とも」
フライ全種はさすがにきついかな?
ウスターソースなら一番合うのはアジフライかな。
とりあえずアジフライにウスターソースをかけて出してやった。
「ウスターソースにはこのフライが一番合うと思いますよ。どうぞ」
「おお、ありがとうございます」
早速エルランドさんがウスターソースのかかったアジフライにかぶり付いた。
「おおっ、しょっぱいだけじゃない複雑な味わいのソースがこのふっくらして淡泊な味の魚に合いますね。さっきの酸味がありまろやかな味わいの白いソースも非常に美味しかったですが、こちらのソースもなかなか」
エルランドさんはそう評しながらパクパクとアジフライを食っていく。
「「「「ゴクリ……」」」」
アークの面々がエルランドさんを凝視していた。
ガウディーノさんもギディオンさんもシーグヴァルドさんもあの体格だと足りないか。
スレンダーなフェオドラさんもいけそうな感じだし。
「あー、おかわりいりますか?」
「すまん、お願いできるか」
「頼む」
「儂も頼むぞ」
「……(コクコクコク)」
この面々フライ全種類のおかわりいけそうだな。
エルランドさんもまだ食いたそうにしているしエルランドさんにも声をかける。
「エルランドさんもおかわりします?」
そう聞くと嬉しそうに「お願いします」と空の皿を渡してきた。
エルランドさんとアークの面々にウスターソースをかけたフライ全種盛りを出してやった。
「こっちの茶色いソースがかかったのも美味いな」
「ハグハグ、ング……うめぇ」
「美味いのう。これでエールがあったら最高じゃな」
「……(バクバクバクバク)」
「それにしても、ダンジョンの中でこんな美味しいご飯が食べられるなんて夢のようですね。ダンジョンで何が一番辛いかって言ったらマズイ携帯食ばかりになることですからねぇ。アイテムボックスがあっても容量がありますし、他の荷物の事を考えると結局食料は携帯食になっちゃうんですよね、普通は」
エルランドさんのその言葉にアークの面々もうんうん頷いている。
「なるほど。俺は、大きめのアイテムボックス持ちで良かったです」
俺は誤魔化すようにそう言った。
だって俺のアイテムボックスって大きめというかほぼ無限だからね。
「このスープも絶品ですねぇ。ムコーダさんの作る料理は本当に美味しい。王都の一流と言われるレストランの上を行きますよ」
クラムチャウダーをすすりながらエルランドさんが俺の料理を褒めちぎった。
そこまで言われるとなんかこそばゆいね。
「俺も美味いと思ったけど、エルフのあんたが言うなら間違いなしなんだろうな。味にうるさいうちのフェオドラも夢中で食ってるし」
エルランドさんがガウディーノさんに「この味ならエルフの我々だって夢中になりますよ」と返すと、フェオドラさんが無言でコクコクと何度も頷いている。
ん?この味ならって、何かエルフに関係するのか?
俺が疑問に思っているとエルランドさんが教えてくれた。
「我々エルフは長命ですからね。その分いろいろなものを食べていますし、美味しいものを食べることを楽しみにしている者も多いんですよ。ですからエルフには舌が肥えた者が多い。”美味いものが食いたければエルフに聞け”と言われているくらいですし。その中でも冒険者のエルフは世界各地を回ってその土地土地の美味しいものも食べてますから、特に味にうるさいと言われてるんですよ」
ほー、そんな話になっているのか。
意外や意外、この世界のエルフってグルメで通ってるんだね。
エルフって言ったらベジタリアンで少食なイメージが強かったけど、この世界のエルフって肉OKの肉食系エルフだし、エルランドさんもフェオドラさんも魚介もこうしてバクバク食うしで、俺らと変わんないな。
『おかわりをくれ』
『スイもおかわりー』
エルランドさんやアークの面々と話しているときに、フェルとスイからおかわりが入ってまたフライの山盛りを出してやった。
ドラちゃんは腹いっぱいなのか、ゴロンと転がって腹をさすってたよ。
エルランドさんやアークの面々にもおかわりいらないか聞いてみたけど、さすがにもう腹いっぱいだとのことだった。
1人を除いては。
フェオドラさんが、空になったクラムチャウダーが入っていた木の器を悲しそうに見ていた。
見た目はクールな美女なのにな。
笑いそうなのをこらえて「クラムチャウダー、スープのおかわりいりますか?」って言ったら、フェオドラさんがコクコク頷きながら木の器を押し付けてきたよ。
クラムチャウダーをよそってやったら嬉しそうにニコニコ顔で食ってた。
「美味いものをご馳走してくれて感謝する。それに…………すまんな。フェオドラは無口だが実力もある冒険者で、俺たちメンバーも一目置いているんだが、食い物のことになるとな……」
ガウディーノさんがフェオドラさんを見てすまなそうに頭を下げた。
「いえいえ、美味しそうに食ってもらえるのは俺も嬉しいですから」
それに見た目クール美女なフェオドラさんが実は大食い食いしん坊キャラだなんて、面白いもの見れたしね。
フェオドラさんはこの後もう一杯クラムチャウダーをおかわりして満足気な顔をしてたよ。
フェルとスイもこの後二度ほどフライの山盛りをおかわりしてようやく満足したところで、この日の夕飯は終了となった。