第二百十六話 ベルレアンの街の商人ギルド
今日は朝から冒険者ギルドに来ていた。
受付に行くまでもなく、すぐに2階のギルドマスターの部屋に案内された。
部屋に入ると、マルクスさんが待ち構えていた。
「おう、よく来たな。座ってくれ」
マルクスさんの向かいのイスに座った。
「いやぁ、ダンジョン産の品もかなりあるうえに地竜の素材なんてもん見せられちまったからな、かなり悩んだぜ」
「それで、買取するものは決まりましたか?」
「ああ」
マルクスさんが買取したいと言ってきたダンジョン産の品は、オークの睾丸×31、ミノタウロスの鉄斧×15、オークキングの睾丸×1、レッドオーガの魔石(中)×1、ジャイアントキラーマンティスの鎌×38、マーダーグリズリーの毛皮×21、ジャイアントセンチピードの外殻×3、キラーホーネットの毒針×286、ミミックの宝箱(小)×1だった。
地竜の素材の方は、血を2瓶ということだった。
「ダンジョン産の品も地竜の素材も滅多に手に入るもんじゃねぇから本当はもっと買取させてもらいたいところだがよ、さすがにこれが限界だ」
マルクスさんは残念そうにそう言った。
でも、地竜の血も買取してくれるし、思ったより捌けて良かったよ。
買取の品は当然ここで出すわけにもいかず、倉庫でという話になった。
「さすがにこれだけのものを買取するとなると、査定に時間がかかる。明日の午後まで待ってもらえるか?」
倉庫に向かいながらマルクスさんがそう言った。
「はい、大丈夫ですよ」
けっこういろいろ買取してくれて量もあるもんな。
今のところ、魚介の仕入れくらいしか用もないし、まったく問題ないね。
倉庫に着いて、買取ってもらう品々を出していく。
出し終わって帰ろうとしたところで、マルクスさんに呼び止められた。
「すまんすまん。お前に伝言があったんだった。朝早く商人ギルドから使いが来てな、何だかお前に伝言があるから商人ギルドに来てほしいってことだったぞ」
商人ギルドから?
一応俺も商人ギルドに登録はしてるけど……。
何だろ?
ま、とりあえず行ってみるとしますか。
俺は商人ギルドへと向かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
商人ギルドへ来たはいいけど、さて、何の話なのかね。
俺は商人ギルドに入り、とりあえず窓口に向かった。
「あのムコーダと言いますが、商人ギルドに来るよう言付かったんですが……」
冒険者ギルドのギルドカードと一応商人ギルドのギルドカードを受付嬢に見せた。
すると、奥の商談室へどうぞということで案内された。
フェルたちも一緒でいいか聞いてみると、大丈夫ですとのことだったから、フェルたちを連れて受付嬢について行った。
商談室に入ると、確か商人ギルドのギルドマスターでゲルトさんと言ったかな、そのゲルトさんとひょろっとした感じの細身の40前後の男性がイスに座っていた。
「ようこそ商人ギルドへ。ささ、こちらのイスへどうぞ」
ゲルトさんにそう言われて、ひょろっとした細身の男性のとなりのイスに座る。
フェルたちにはイスの後ろで待っていてもらうことにした。
「この間も少しお会いしましたが、改めましてギルドマスターのゲルトと申します。よろしくお願いいたします」
「こちらこそよろしくお願いします」
「ご活躍は聞き及んでおります。ドランのダンジョンを踏破したとか。それに、この街でも問題になっていたクラーケンを討伐していただいたそうで、破竹の勢いですな」
何だかゲルトさんの目がキランと光った気がするのは気のせいだろうか?
「はぁ、まぁ……」
これまでの成果は全部フェルたちのおかげだけど。
こんな話のために呼ばれたわけじゃないんだろうし、何なんだろ?
「えーと、それで、どんなご用件なのでしょうか?」
「おお、余計な話を挟んでしまってすみません。実はですな、カレーリナの街のランベルト商会から連絡がありましてな、こちらのランベルト商会の方と引き合わせるようにとの連絡がありまして」
ゲルトさんの話によると、商人ギルドでも冒険者ギルドのように転移の魔法道具で手紙のやり取りをしているそうだ。
冒険者ギルドのように各支所とはいかないが、主要都市には設置していてここベルレアンにもあるとのこと。
その魔法道具を使ってランベルトさんから連絡がきたようなのだ。
「仕入れ担当のアドリアンと申します。以後お見知りおきを。今日は会頭からの命を受けましてムコーダ様に会いにベルレアンまで来た次第です」
アドリアンさんがベルレアンの街の近くにいたこともあって連絡が来たそうだ。
ランベルトさん絡みか。
もしかして、あれの在庫が寂しくなってきたのかな?
「それではギルドマスター、ここからは個別の商談となりますので」
アドリアンさんがそう言うと、ゲルトさんが「そうですな」と言って席を立った。
「ムコーダさん、帰られる前に少しお話がありますので受付に声をおかけください」
ゲルトさんはそう言って商談室を出て行った。
「それで、ランベルトさんは何と?」
「はい、こちらの手紙を見せれば分かると言付かっております」
そう言ったアドリアンさんから手紙を渡された。
読んでみると……。
やはりあれの、石鹸やらシャンプーやらのことだった。
かなり売れているらしく、商品ごとに1人〇個までと制限をかけているほどだとか。
それでも在庫が危うくなってきているらしく早急に仕入れたいとのことだった。
そのために商人ギルドの転移の魔法道具も使っての連絡だったようだ。
ランベルトさんが仕入れたいと言ってきているのは、安い方の石鹸×1000個、ローズの香りの石鹸×500個、リンスインシャンプー×1000本、シャンプーとトリートメント×400本、ヘアマスク×100個だった。
総額なんと金貨1185枚分だ。
かなりの量で驚いたが、制限をかけているにもかかわらず売れに売れまくっていて嬉しい悲鳴を上げているそうだ。
今では商品の良さを知る女性も増えて、特に若い女性が購入していくとのことだった。
女性が美しくなりたいって気持ちはどこの世界でも共通することだってことだな。
「お手紙拝見して、事情は分かりました。明日の朝までには用意しておきますので」
「承知しました」
俺はベルレアンでの家をアドリアンさんに教えて、明日の朝来てもらうようお願いした。
さてと、これから準備しないと。
この後は雑貨屋によって木箱と壺を買わないといけないな。
1人で準備するのは大変だけど、さすがにプラスチック製のパウチやらをこっちの人に見せるわけにいかないしね。
何よりお世話になったランベルトさんからの依頼だし、ここはがんばってやりますか。
アドリアンさんとの話も終わり、商談室から出たところでゲルトさんに言われていたとおり窓口に声をかけた。
「すみません、ムコーダと言いますがギルドマスターのゲルトさんに帰る前に声をかけるよう言われたのですが」
俺がそう言うと、受付嬢は「少々お待ちください」と言い席を立った。
そして、すぐにゲルトさんがやって来た。
「お帰りのところ申し訳ありません。どうしてもお願いしたいことがありまして……」
ゲルトさんの話は、ダンジョン産の品々を商人ギルドにも是非とも売ってほしいとのことだった。
やはりダンジョン産の品はなかなか手に入ってこないこともあってここの商人ギルドでも手に入れたいようだ。
ここもドランの商人ギルドと同じく特に宝石や宝飾品の類が欲しいみたいだ。
そうなるとなぁ。
ドランでの苦い経験が思い浮かぶ。
宝石の価値なんてよくわからんし、海千山千の商人に勝てる気がしないんだよね。
情けないけど、なんか上手く丸め込まれるだけのような気がしないでもない。
「あのお売りするのは構いませんが、冒険者ギルドを通してもいいですか?」
俺がそう言うと、少し間は空いたがゲルトさんもOKしてくれた。
費用は掛かっても、やっぱり冒険者ギルドの宝石類に詳しい人に一緒に来てもらった方がいいと思うんだよね。
「冒険者ギルドのギルドマスターのマルクスさんに相談してみますので、明日か明後日には大丈夫かと思います。もし、冒険者ギルドの方が都合が悪くて先に延びる場合は、連絡を入れますので」
「私はほぼ毎日ここにおりますので、いつでもけっこうなので都合がつき次第お願いいたします」
「分かりました」
俺たちはゲルトさんに見送られて商人ギルドを後にした。