第二百九話 海の魔物は鮮度が命②
「それじゃ、次はシーサーペント出しますね」
「ああ。おい、オメェら次はシーサーペントだ」
俺はアイテムボックスからシーサーペントを取り出した。
それを見て、解体職員たちがコソコソ話し出した。
「アイテムボックス持ちはいないわけじゃないけど、あの大物が入るくらいの大きさの持ち主なんて見たことねぇぞ」
「ああ。それにあの冒険者さっきクラーケンも出したんだぜ。クラーケンとシーサーペントが入るって、どんだけの大きさのアイテムボックス持ちなんだ?」
「さっきのギルドマスターの話じゃ、この他にアスピドケロンもいるって話じゃねぇか。あの冒険者のアイテムボックスはどんだけデケェんだ?」
あのー、しっかり聞こえてますから。
俺のアイテムボックスは無限大に近いんじゃないかと思うよ。
異世界人特有のやつだからさ。
だけど、そこはちょっと触れないでほしいんだよねぇ。
異世界人だって知られたくないしさ。
「おい、お前ら無駄口叩くな。それと言っておくが、この冒険者のムコーダはな、この間王都の冒険者ギルドから通達が来たあの件の冒険者だからな。余計な詮索はせんことだ。場合によっちゃ冒険者ギルドはおろかこの国にもいられなくなるからな」
マルクスさんがそう言うと、コソコソしていた職員たちは口を閉ざした。
てか、え、何それ。
前に聞いた話だと、国王様が貴族やらには手出し無用って伝えてくれたみたいだけど、冒険者ギルドにもそういう話が回ってるんだ。
変な詮索されないのはありがたいけど、冒険者ギルドにいられないとか、この国にいられないとかっていうのは脅しみたいでちょっとヤダなぁ。
まぁ、マルクスさんが言ってくれたおかげで、職員の人たちも黙ったからいいのかな?
俺のこともそうだけど、フェルたちのこともあるし、詮索入れられるのが1番厄介なことではあるからそういうことしないでもらえればいいんだけどね。
そんなやり取りの間も、シーサーペントの解体は進んで行く。
シーサーペントもあれよあれよという間に解体されていった。
皮がはがされて身と頭と骨とに分けられる。
頭は頭蓋骨と目と牙以外は廃棄処分になり、内臓も同じく廃棄処分とのこと。
皮は鎧の素材になるし、骨と牙と頭蓋骨は剣やらナイフやら弓の矢じりやら武器の素材になるそうだ。
目は何か薬剤の材料の1つになるらしい。
あとはシーサーペントもSランクの魔物だから当然魔石があった。
こっちはまん丸の球体の大きめの魔石で、目の覚めるような青い色をした魔石だ。
この魔石も良い物だったらしく、マルクスさんが強面の顔にイイ笑顔を浮かべていたよ。
身はもちろん返してもらったよ。
見た感じはブラックサーペントとかレッドサーペントの肉質にそっくりだった。
食べてみないと分からないけど味も似てるんじゃないかなと推測している。
そして最後は……。
「それじゃ、アスピドケロン出しますね」
「ああ」
俺は超巨大魚のアスピドケロンをアイテムボックスから出した。
とは言っても10メートルクラスのクラーケンやシーサーペントよりは少し小さいが。
でも、10メートル近い大きさの魚だから超巨大魚と言っていいだろう。
アスピドケロンもあれよあれよという間に解体されていく。
鱗がはがされて、頭が切り落とされる。
そして内臓が取り去られて、3枚に下ろされていった。
鱗は指輪やネックレスやブローチなんかの宝飾品に加工されるんだそうだ。
磨いていくと虹色に輝き、其れで作製された宝飾品は女性に人気で飛ぶように売れると聞いた。
身の他に頭や骨もあら汁にできないかなと思ってもらおうと思ったら、マルクスさんに止めてくれと泣きつかれた。
「良い武器の素材になるもんを、スープの出汁にするなんてよぉ……おめぇ何てこと考えんだ」
なんて言われちゃったよ。
だって鑑定で”最高級の白身”って出てたし、あら汁にしたらイイ出汁が取れるんじゃないかと思ったんだよね。
だけど、アスピドケロンの骨も剣やらナイフやら弓の矢じりやら様々な武器の素材になるそうで、その武器自体も人気のあるものなんだそう。
そう聞いたら無理によこせとも言えないし、しょうがないから諦めたよ。
あとな、尾びれやら背びれの硬い部分も武器の素材になるらしい。
それからアスピドケロンもSランクの魔物だから魔石だな。
アスピドケロンの魔石は丸くて平べったい形の水色の魔石だった。
これも割と良いものだったらしく、マルクスさんは満足そうな顔してたよ。
残りの内臓やらは廃棄処分とのことだ。
これも身は戻してもらってアイテムボックスにしまった。
鑑定で”最高級の白身”とあったとおり綺麗な白身で、焼いても煮ても揚げても良さそうだったぞ。
「解体は終わったが、あとは買取の素材の査定に少し時間がかかるが大丈夫か?」
クラーケン、シーサーペント、アスピドケロンの解体が終わり、マルクスさんがそう言った。
やっぱ時間かかるよな。
けっこう大物だし、査定にもある程度時間が必要だろう。
「はい、大丈夫です。いつ頃来たらいいですか?」
「そうだな、明日の昼過ぎまでにはやっとくぞ」
明日の昼過ぎか、それはちょうどいいな。
明日は影の戦士の面々に聞いた朝市に行こうと思ってるし。
そこで魚介を仕入れて、屋台で朝食としゃれ込む予定だ。
「それじゃ、また明日の昼過ぎに来ます」
「おう、待ってるからな」
倉庫の隅っこで寝こけていたフェルとドラちゃんとスイを起こして冒険者ギルドを後にした。