閑話 3人の勇者~マルベール王国入国~
レイセヘル王国を逃げ出して、森の中の道なき道を行き2週間が過ぎようとしていた。
左腕を失った莉緒も今では普通に動けるようになっている。
それどころか、莉緒には本当に助けられた。
「ストーンバレットッ!」
出くわしたオーク3匹を土魔法で葬った。
「オークだから売れるわね」
花音がそう言いながらオークに触れる。
触れられたオークはアイテムボックスに収納されていった。
「櫂斗、また魔法の威力が上がったんじゃないの?」
莉緒がそう声をかけてきた。
「ああ。自分でもそんな気はする。ステータスオープン」
自分のステータスを確認してみる。
【 名 前 】 カイト・サイトウ
【 年 齢 】 17
【 職 業 】 異世界からやって来た勇者
【 レベル 】 18
【 体 力 】 1235
【 魔 力 】 1195
【 攻撃力 】 1207
【 防御力 】 1174
【 俊敏性 】 1162
【 スキル 】 鑑定 アイテムボックス 聖剣術 火魔法
水魔法 土魔法 風魔法 光魔法 雷魔法
氷魔法 回復魔法
この間確認したときよりレベルが1つ上がっているな。
「レベル上がってる。18になったよ」
「すごいじゃん」
「ホント。この中では櫂斗が1番だね」
花音はレベル17でステータス値で1000を超えているのは魔力と攻撃力だった。
莉緒はレベル16でステータス値で1000を超えているのは魔力だけだ。
でも、俺たちがこの2週間でこれだけレベルを上げられたのも莉緒のおかげと言っても良かった。
「これだけレベル上げられたのも莉緒のおかげだよ」
そう言うと花音も同意する。
「莉緒のおかげでいろんな魔法ができるようになったもんね。それこそ教わってなかった氷魔法とか雷魔法もできるようになったし」
「そんなことないよ。私は思ってたことを言ってみただけで……」
莉緒が照れたようにそう言う。
でも本当に莉緒のおかげだ。
莉緒が魔法書を熱心に読んでいてくれたおかげだもんな。
俺と花音は本を読むまではしてなかったし。
たとえ読んでいても気付かなかったかもしんない。
俺も花音も教えられたものが当然だとしか思ってなかったからな。
莉緒が教えてくれなきゃそういうもんだとしか思わなかった。
俺は莉緒が「魔法に詠唱はいらないんだと思う」と言ったときのことを思い出していた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺たち3人でマルベール王国に向けて森の中を進んで5日目のことだった。
その頃には莉緒の様態も安定して、左腕はないものの普通に動けるまでに回復していた。
これも花音と莉緒自身の回復魔法のおかげだった。
森の中とあっていろんな魔物が出てきた。
魔物が売れることは分かっていたから、倒したらなるべくそれぞれのアイテムボックスに保管することにした。
マルベール王国に着いてからの大事な資金になるからな。
その日も出てきたゴブリンを風魔法で倒したところだった。
「見えない風の刃よ、敵を切り裂きたまえ。 ウィンドカッターッ!」
ゴブリンくらいならこのウィンドカッター1発で十分だった。
「ねぇ、私さ、魔法には興味があったから、魔法の本を読んでたの知ってるでしょ?」
莉緒がそんなことを言い出した。
「そう言えば莉緒は分厚い本よく読んでたわね」
「ああ。俺も魔法には興味あったけど、あの分厚い本は読む気おきなかったな」
「それでね、本を読んでるとき知ったんだけど、実は魔法の詠唱って国ごととか誰に教わったかで違ったりするのよ」
「え? そうなの?」
莉緒の話に驚く花音。
俺も驚いた。
魔法の詠唱ってのはこういうもんだと思ってたからな。
違う詠唱があるとは思いもしなかった。
「それでね、いろいろ本を読んで気付いたんだけど、詠唱っていうのは言葉に出して魔法のイメージを固めるためのものであって、イメージがしっかりできれば必ずしも必要なものじゃないんじゃないかなって思ったの。私たち日本人でしょ。それこそアニメとか映画とかいっぱい観てきたわけだし、イメージならこの世界の人よりしやすいのかなって」
なるほど、イメージか。
それはあり得る話かもしれないな。
それにアニメとか映画を観てきた俺たちならイメージしやすいってのも頷ける。
「それで、試しに練習してみたんだ。見ててね……」
そう言って、莉緒が緊張気味にフ~っと息を吐き出した。
そして……。
「ウィンドカッター!」
ザシュッ―――。
目の前にあった雑草が切れて空を舞った。
「ス、スゲェッ」
「莉緒、すごいッ」
俺と花音がそう言うと、莉緒が照れたようにはにかんだ。
「色々試してみたんだけど、何も言わないで魔法を発動すると、威力も弱くなるしタイミングが難しいの。だから頭の中で魔法のイメージをして魔法名を言って撃ってみたら上手くいったんだ。私でもできるようになったんだから、櫂斗と花音もできるようになると思う」
「よしっ、俺と花音は早速練習だ」
「ええ。あの厨二病みたいな詠唱をしないで済むのならいくらでも練習するわ」
「アハハハ、厨二病ってな。まぁ、確かにそうだけどさ」
「あの詠唱をみんな真剣な顔で言うんだもん、何度笑いそうになったかわからないんだからね」
「フフッ、花音ったら」
「莉緒はあたしたちが練習してるの見ててね。それで、こうした方がいいっていうのがあったら遠慮なく言ってね」
「そうそう、お願いな」
「うん、分かった」
それから俺と花音は丸1日練習を重ねて、莉緒と同じように魔法名を言うだけで魔法を撃てるようになったんだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
詠唱をしないで魔法を撃てるようになったのは本当に良かった。
詠唱してるだけで、時間をとられるからな。
2、3秒だから大した時間じゃないと思うかもしれないけど、切羽詰まっているときはそれが命取りにもなる。
この森を進んでいてそれはすごく感じたからな。
魔物は待っちゃくれないし。
何も言わないで魔法を撃つこともやってみたけど、莉緒が言うように威力も弱まるし何よりタイミングが合わず動いている魔物に当てるのは難しかった。
莉緒の言うように魔法名を言って撃つのがベストだと感じた。
魔法名を言うだけで魔法を撃てるようになると、コツがつかめるようになった。
魔法はイメージっていうのなら、まだ習っていなかった魔法もできるんじゃないかって話になって、みんなで雷魔法とか氷魔法なんかも試してみた。
すると、思い通り魔法が発動した。
森を進みながらいろいろ試した結果、俺たち3人とも基本の火魔法・水魔法・風魔法・土魔法のほか氷魔法・雷魔法・回復魔法が出来るようになった。
特に莉緒は、左腕がないからもう剣とか槍とかは無理そうだからって言って、凄く一生懸命魔法の練習を重ねていた。
その甲斐もあって、莉緒はバフ・デバフの魔法に聖魔法まで習得した。
バフ・デバフの魔法なんて俺も花音も思いつかなかったけど、莉緒はゲームなんかではあるから出来るかなと思ってやってみたとのこと。
それで練習して出来るようになったんだから大したもんだと思う。
それにこの魔法はものすごくありがたいものだって俺も花音も実感している。
身体能力アップや防御力アップの魔法をかけてもらうと動きのキレが格段に違うし、逆に相手の魔物に身体能力低下とか防御力低下の魔法をかけてもらうと魔物の動きが鈍くなって倒しやすくなった。
いろいろ試してみた結果、効果は約10分程度と時間制限があるものの、この莉緒の魔法は俺たちにとって強い味方になった。
莉緒は聖魔法も習得したわけだけど、この魔法が発動すると莉緒の周辺が淡い光に包まれる。
聖魔法はアンデッド系の魔物に効果抜群らしいけど、この辺ではアンデッド系の魔物はいなかった。
でも、魔法が発動してるってことは効果もあると思うんだ。
アンデッド系の魔物が出た場合は莉緒にがんばってもらおうと思う。
「櫂斗っ、莉緒っ、あそこ見て! 森が途切れてるっ」
最初に気付いたのは花音だった。
俺たちは森が途切れている場所まで走った。
「道よ、道が見えるわっ! それに人も見える!」
森が途切れた先に道が見えた。
その道の向こうの畑に農作業をする農民が見える。
それを見て興奮した花音が飛び出そうとする。
「ちょっと待った!」
俺は花音を呼び止めた。
「何よ、櫂斗」
「着替えないとマズいだろ」
そう言うと、花音は自分の姿を確認した。
「そうだったっわね。これじゃさすがにね……」
俺たちはレイセヘル王国の騎士と同じプレートメイルを着込んでいた。
そのプレートメイルにはレイセヘル王国の紋章がしっかりと刻まれている。
それにその下に着込んでいた洋服も森を進んできたことで所々穴が開いているし大分汚れていた。
俺たちはあらかじめ用意していた着替えの服と革鎧に着替えた。
莉緒は花音から服を借りて着替えてもらった。
革鎧は何とか隙を見て街で購入して用意した。
花音も同じだ。
それから花音はローブも一緒に用意していたらしく、莉緒にはそのローブを着てもらった。
「よし、これで少しはまともになったな」
「このプレートメイルはどうするの?」
花音がそう聞いてくる。
売ればけっこうな金額になるだろうけど、レイセヘル王国の紋章も入ってるしこれはちょっと売れそうにないな。
「これはさすがに売るのはマズいよな」
「そうだね。けっこうな金額になりそうだけど、紋章も入ってるし、どこで手に入れたんだって話になりそう」
莉緒もそう思うか。
「もったいないけど、ここに埋めていこう」
土魔法で穴を掘り、最初はそこに今まで着ていた服を入れて焼いた。
その後にプレートメイルを放り込み土をかぶせた。
「それじゃ、行くぞ」
そう言うと、花音も莉緒も頷いた。
森を出て、まず最初に農民に声をかけた。
「すみませーん!」
「ん? なんじゃー?」
「ここはどこですか?」
「何だ、オメェら冒険者か?」
「はい、初めてこの国に来たんですけど、ちょっと道に迷ってしまって」
「何だ、ランクが低い冒険者かい。気を付けねばダメだぞ」
「まだ冒険者になりたてなもんで……」
「まぁええ。ここはなマルベール王国の国境の村でランペルツ村だ。その道を行った先に入り口が見えてくるだ。ギルドカードは持ってんだべ? それを見せれば入れるぞ」
「ありがとうございます」
俺たちは教えてもらった方向に向けて歩き出した。
「よしッ、よしよし。マルベール王国に入った」
「ええ。やったわね」
「うんっ」
大声を出して喜びたいところだったけど、農作業している人たちに怪しまれると困るからそこは何とかこらえた。
俺たちはマルベール王国に無事来ることができた喜びを噛み締めた。