第百六十九話 ウゴールさん激おこ(再び)
俺たちは冒険者ギルドに来ていた。
雑貨屋で買ったバスケットにパウンドケーキも入れて準備万端だ。
慣れたもので何も言わずとも少しするとエルランドさんがやって来た。
そしてこれまたお馴染みになった2階のギルドマスターの部屋へと向かった。
「ウゴール君も来ますんで、少し待っててください。私だけで大丈夫って言ったんだけどねぇ。ウゴール君も立ち会うってきかなくて……」
そう言ってエルランドさんはちょっぴり不満顔。
いや、ウゴールさんの気持ちも分かりますよ。
あなたすぐにサボろうとするしさ。
「お2人ともお待たせいたしました」
それほど待たずにウゴールさんが部屋にやって来た。
「それでは早速ですが、昨日のダンジョン産の品々の買取代金をお渡ししたいと思います。えーと詳細がですね……」
羊皮紙だろうか、それをペラリとめくりウゴールさんが確認している。
「まずはオークの皮×125が金貨1000枚、リザードマンの皮×63が金貨630枚、オーガの皮×102が金貨2040枚、トロールの皮×113が金貨2486枚、ミノタウロスの皮×88が金貨1672枚、オーガの魔石(極小)×21が金貨315枚、トロールの魔石(小)×23が金貨460枚、ミノタウロスの魔石(小)×20が金貨380枚、ジャイアントキラーマンティスの魔石(小)×7が金貨147枚、パラライズバタフライの麻痺毒の鱗粉×15が金貨75枚、ワイルドエイプの毛皮×20が金貨160枚、マジックバッグ(小)が金貨280枚で合計金貨9645枚になります。額が額ですから、そこは商人ギルドに倣ってうちも白金貨と大金貨でお支払いさせていただきたいと思います。よろしいですかな?」
俺が大丈夫だというと、それではとウゴールさんが白金貨96枚と大金貨4枚と金貨5枚をテーブルの上に並べた。
「それではご確認を」
白金貨が1、2、3……(中略)……96枚と大金貨が4枚それから金貨5枚、うん大丈夫だな。
「はい、間違いありません」
「今回、ムコーダ様のおかげで皮と魔石が大量に確保できました。本当にありがとうございました」
ウゴールさんが笑顔でそう言った。
「……ヴァースキの牙とかマンティコアの毒針とかギュスターブの牙とか背骨の方が良かったのに(ボソッ)」
「ギルドマスター、何か言いましたかな?」
「別に何も言ってませんよ」
……いや、何白切ってるのかな?
あなた言ったでしょ、ボソッとさ。
「まぁ、いいでしょう。今回は不問にしますよ。地竜の素材を何の相談もなく勝手に購入したと聞いたときは本気であなたを殴りたくなりましたけど、結果的にはあなたの言ったとおり血やら肝やらには予想以上に高値になりましたからね。そのおかげで、今回こうしてムコーダ様からダンジョンの品々を大量に買取できたわけですから」
「うんうん、そうでしょうそうでしょう。私だってやるときはやるんだよ。だからさ、ご褒美に地竜の牙を剣にするのに、今すぐ予算くれないかな」
エルランドさんがそう言った途端、ウゴールさんのこめかみにビキッと青筋が。
あぁ、余計なことを。
この人、ウゴールさん怒らせてばっかりだね。
見てる分にはしょうもない人で終わるけど、ずっと一緒にいるウゴールさんはホント大変だね。
ご苦労お察しします。
「ギルドマスター、地竜の牙を剣にしてギルドに飾るというのは納得しましたよ。渋々ながらですがね。しかしですよ、これだけの素材です。依頼するにしたって誰でもいいと言うわけではないんです。あなたはお分かりになってないようですが、予算には限りがあるのですよ。ギルドとしてはなるだけ安く依頼できるに越したことはありませんからね。その辺の相談も含めて依頼先を選定しなければならないんです。そういう手順を踏んで決定していくことを、あなたは予算を大量につぎ込んですぐに剣にしてもらいたいと言うのですね。これだけの素材ですから、そりゃ金を積めばすぐにでも剣にしてくれるでしょうな。今すぐ予算をくれというのは、ギルドマスターはギルド運営のための予算をご自分の欲望のために出せとそうおっしゃるんですな? どうなんですかギルドマスター?」
おおぅ、こう理詰めでこられると反論の余地なしだぜ。
「い、いや別にね、そ、そこまでは言ってないよ」
エルランドさんがウゴールさんと目を合わせないようにそう言う。
「そこまでは言ってないって、今すぐ予算をくれということはそういうことなんですよ」
要は入札みたいなもんで、ウゴールさんとしては主要な鍛冶工房の中で条件がいいところにお願いしたいってことだろうな。
「だいたいですね、ギルドマスターは…………」
おおう、ウゴールさんの説教が始まっちゃったぜ。
エルランドさんは嫌そうな顔してるけど、これ聞いてないだろ。
ま、まぁ懲りないエルランドさんだからね。
とりあえず、こんな人でもお世話にはなったからちょっと助け舟を出しますか。
「あの、ウゴールさん」
「ああっ、すみませんムコーダ様。ギルドマスターがどうしようもないので、ついつい」
あ、ウゴールさんエルランドさんのことどうしようもないってはっきり言っちゃったよ。
「いえ、それより、ウゴールさんとエルランドさんにお渡ししたいものがあるんです。えっと……」
俺はパウンドケーキの入ったバスケットを2人の前に置いた。
「ウゴールさんには昨日商人ギルドでお世話になりましたし、エルランドさんには地竜のことでお世話になりましたので。ちょっとした菓子なんですが、食べてください」
「え、いいのですか?」
「はい、どうぞ」
「いや、これはありがたい。菓子とは妻と子供たちが喜びます」
これにはウゴールさんも笑顔だ。
菓子の選択は間違ってなかったみたいだね、良かった。
「私も甘いものには目がないので嬉しいですね。早速お茶と一緒にいただかせてもらいます」
エルランドさん意外にも甘い物好きだったようだ。
「ギルドマスター、早速お茶と一緒にいただかせてもらいますとは何ですか? あなた仕事もしていないのにお茶の時間にするおつもりですか?」
再びビキビキッとウゴールさんのこめかみに青筋が。
「い、いや、違うよ。も、もちろん仕事をしてからさ、ヤダなぁ、ハハッ……」
うん、いい加減仕事した方がいいよエルランドさん。
王都にも行かなきゃいけないんだし、その準備もしなきゃね。
さて、もうそろそろお暇しようかな。
って、あ、さっき鍛冶工房の話が出てたけどさ、考えてみたら鍛冶工房に頼めばバーベキューコンロいけるんじゃないか?
ウゴールさんに聞いてみたところ、この街はダンジョン都市ということもあっての鍛冶工房は武器専門のところがほとんどなのだそうだ。
「武器以外は作ってもらえないんですかね?」
「鍛冶職人は頑固な者が多いですからね。そこは話してみないと何とも言えませんね」
やっぱそうか。
とりあえず、鍛冶工房が集まる区画に行ってみて交渉してみるしかないか。
俺たちは冒険者ギルドを後にして、鍛冶工房が集まる区画へと向かった。