第百四十三話 マンティコア
今日も27階層の探索だ。
朝飯には作り置きしておいたロールキャベツを出してやったよ。
でも、フェルとスイがロールキャベツでは食い足りないとか言い出して、仕方が無いからオークジェネラルの味噌焼き丼を急遽作ったりもした。
それでとうとう作り置きしてた料理もなくなったぜ。
あとはもう炊いてある米しかないや。
ドラちゃんはまだいいとして大食らいのフェルとスイがいる割りには保った方かもな。
昼飯からは、また調理だよ。
飯を食い終わって少し休憩したあとに森の中を進んでいく。
フェルが言うには、夕方ごろには階層主のところに着くみたいだけど。
26階層がSランクのヴァースキだったわけだから、それ以下ってことはないんだろうなぁ。
今回はどんな魔物が出てくるのやら……。
まぁ、何にしても俺は戦闘には参加しない方向で。
Sランクの魔物なんて相手にできるかってんだ。
確かに状態異常無効化やら完全防御はあるけどさ、あんな怪獣みたいな魔物に攻撃されてみ?
恐怖でショック死するわ。
『いるな。では、我から行くぞ』
あー魔物が出たみたいだね。
フェル、おなしゃっす。
あっという間にフェルがワイルドエイプの群れを倒したよ。
その後も、フェルとドラちゃんとスイで順番にエンカウントした魔物を倒していった。
俺はドロップ品の回収係としてがんばったよ、うん。
森の中を進んでいると、みんなの腹時計が空腹を訴えたことで飯タイムとなった。
「作り置きしておいたのがもうないから、今から飯作るからな。ちょっと待ってて」
手早くパッパと作れるものってことで……うん、スタミナ炒め丼にするか。
それにしても作り置きしてた料理もここまで保って良かったよ。
ここは27階層だから、他の冒険者を気にしなくていいのは助かった。
ということで気兼ねなくネットスーパーを使いますか。
ニンニクの芽と味付けの焼肉のタレ(焙煎ニンニク風味)と白ゴマを購入。
スタミナ炒めに使うなら焼肉のタレもニンニクの風味がしっかりしたものがおすすめだ。
それから魔道コンロをアイテムボックスから出してと。
肉はオークジェネラルにしようかブラッディホーンブルにしようか迷ったけど、ブラッディホーンブルにしてみた。
炒める肉は豚肉にしても牛肉にしても美味いぞ。
まずはブラッディホーンブルの肉を薄切りにして一口大に切ったら、焼肉のタレを少しかけて揉み込んでおく。
ニンニクの芽は4センチくらいの長さに切っておく。
熱したフライパンに油をひいて、ブラッディホーンブルの肉をサッと炒めていく。
肉の色が変わったら、ニンニクの芽を投入してさらに炒めていく。
ニンニクの芽が少ししんなりしてきたら、焼肉のタレを回しかけてタレを絡めながらサッと炒めたら出来上がりだ。
フェルとスイとドラちゃんの分は深めの皿に飯を盛ってその上にスタミナ炒めをたっぷり載せる。
その上に白ゴマをパラパラと振りかけて完成だ。
「出来たぞー」
みんなの前に皿を並べると、ガツガツ食っている。
『このタレが肉に絡んで美味いな。いくらでも食えそうだぞ』
フェル、いくらでも食えそうってほどほどにしてくれよ。
『かーっ、この甘辛いタレがたまらんな』
ドラちゃん、分かってるね。
焼き肉のタレって美味いんだよねぇ。
『このタレとお肉がすっごく合うねー。いっぱい食べれちゃうよー』
そうかそうか、スイも焼き肉のタレの美味さ分かってくれるか。
『『『おかわり』』』
フェルとスイはいつものことだけど、ドラちゃんもおかわりだって。
って、あれ、ニンニク不味かったか?
さらに食欲が増している気が……。
そう思いつつみんなのおかわりを作っていった。
みんなが食ってる間に俺も食っちゃおう。
ニンニク風味の甘辛い焼き肉のタレが飯によく合うね。
上にパラパラっと振りかけた白ゴマの香ばしさが良いアクセントになっている。
スタミナ炒め丼は簡単だしガッツリ食いたいときにはいいな。
うんうん、美味い美味い。
ちょっと多かったかなと思ったけどペロっといけたよ。
アイテムボックスに保管してたペットボトルのお茶を出してゴクゴクと飲んで一息ついていると、フェルとスイの声が。
『『おかわり』』
ニンニク風味が食欲増進させたのか、その後もおかわりの連続だったよ。
炊いた米ももう一食分くらいいけるかと思ってたのに、すっかりなくなってしまった。
食後に少し休憩を挟んで、再び森を突き進んだ。
フェルとドラちゃんとスイが危なげなく魔物を倒し、ドロップ品を回収していった。
そしてとうとう……。
『あれがこの階の階層主だな』
フェルがそう教えてくれて、木の陰から覗き見たそれ。
な、何だあれは…………。
大きさはライオンよりも少し大きいくらいだろう。
体もライオンぽい感じで、尻尾はサソリの尾に似ていてピンっと上向きに反っている。
異様なのは頭部だ。
その魔物は年老いた人間の男の顔をしていた。
そして、耳の近くまで裂けた口はニヤァっと笑みを浮かべている。
見るも悍ましいそのニヤけ顔に鳥肌が立つ。
その異様な魔物を鑑定してみると……。
【 マンティコア 】
Sランクの魔物。
マンティコアって、なんか聞いたことある。
確か人を食う伝説の生き物だったような……。
ま、まぁ、何でもいいけど、あれはダメだ。
あの顔はキモい、キモ過ぎる。
あの悍ましい顔は夢に出てきそうだよ。
「あれ、マンティコアだって……。フェル、大丈夫なんだよな?」
『大丈夫に決まっておろう。マンティコアとは前に戦ったことがある。ただあいつは狡猾でな。弱ったふりをして、近づいたところを尾の毒針で仕留めたりということをするのだ。その辺は気を付けねばなるまい』
そう言ってフェルがドラちゃんとスイに向き直った。
『ドラ、スイ、マンティコアは素早いうえに狡猾だ。先制攻撃でいっきに仕留めるぞ』
『いつも通りってこったな。やってやるぜ』
『ねぇねぇ、こうかつってなーに?』
スイちゃんには難しかったか。
「狡猾っていうのはね、ずる賢いってことだよ。あの魔物はね、弱ったふりをして近づいてきた相手を攻撃したりするんだってさ」
『ふーん、悪い魔物なんだね。スイ、がんばって倒すっ!』
気合十分、フェルとドラちゃんとスイはマンティコアに向かっていった。
ビュッ、ビュッ、ビュッ―――。
スイの酸弾が放たれたが、マンティコアはそれをヒョイっと避けた。
ドシュッ―――。
マンティコアの横っ腹に風穴が開いた。
ドラちゃんが突っ込んでいったようだ。
マンティコアよ、お前の相手は1人じゃないんだぞ。
「グゲェェェェェッ」
マンティコアが天を向いて叫び声をあげる。
ザシュッ―――。
フェルの右前足から追撃の爪斬撃が繰り出された。
うっ…………。
マンティコアは細切れになって絶命した。
俺が言うのも何だけど、君たち容赦ないね。
マンティコアが消えたあと、ドロップ品を拾っていく。
大きな魔石と皮と毒針だった。
「さて、下に行こうか」
『うむ』
転移の魔法陣はすぐに見つかり、俺たちは28階層へと転移した。
「エーッ?! 28階層ってこんななの?」
俺たちが転移した先には沼地が広がっていた。
 




