閑話 3人の勇者~不穏な足音~
俺と花音と莉緒はついてくれている3人の騎士たちとダンジョンに潜りレベルアップを図り、最終的には25階まで到達した。
1人でオーガを倒せるようになったところで、ダンジョンへ潜るのは一旦中止にして、実際に外で魔物を討伐してみることになった。
3人の騎士たちの方針としては、やはりダンジョンの魔物と外の魔物は違うし外での戦闘経験を積んで行った方がいいということになったそうだ。
ダンジョンもゲームみたいで面白かったけど、俺としても外で魔物と戦ってみたいっていうのがあったから願ったり叶ったりだった。
この時点での俺のステータスはというと、こんな感じだ。
【 名 前 】 カイト・サイトウ
【 年 齢 】 17
【 職 業 】 異世界からやって来た勇者
【 レベル 】 10
【 体 力 】 1010
【 魔 力 】 978
【 攻撃力 】 988
【 防御力 】 961
【 俊敏性 】 953
【 スキル 】 鑑定 アイテムボックス 聖剣術 火魔法
水魔法 土魔法 風魔法 光魔法 雷魔法
氷魔法
順調にレベルアップしてレベルも10に。
体力は1000を超えた。
ステータス値のどれか1つでも1000を超えれば一流と言われるんだって聞いているから、けっこういい感じに上がってきてるんだと思う。
1000超えがあるのは今のところ俺だけだけど、花音と莉緒も同じようなステータスだから近いうちに1000超えになると思う。
ただレベルが上になればなるほど上がりにくくなっているっていうのは感じている。
それでも、この世界に来て1か月も経ってないのにこれだけのステータスなのは勇者だからなんだろう。
みんなから「さすが勇者様だ」って言われると、照れもあるけどやっぱ嬉しい。
明日はいよいよ外で魔物と戦うことになる。
冒険者ギルドで受けた依頼は、コボルトの巣の殲滅だ。
この依頼はCランク以上で受けられる依頼だ。
だけど、騎士たちがCランクだから受けられた。
俺たちと騎士たちでパーティーを組んでいるからな。
俺たちの冒険者のランクはDランクなんだけど実力はそれ以上だと騎士たちからも太鼓判を押されている。
ルイーゼにもいいとこ見せたいし……コボルトの殲滅か、やってやるぜ!
王都の南の森に来ている。
コボルトは鼻がいいから、匂いで気付かれる可能性がある。
風向きに気をつけながら巣の洞窟に近づいて様子をうかがう。
「洞窟の入り口に見張りが2頭。予想通りですね。それでは、作戦通りに事を進めましょう。あの2頭を始末した後に火魔法を洞窟の中に打ち込んで大幅に数を減らします。そして、洞窟から出てきたコボルトを順次倒すということで。よろしいですね?」
レナードが小声で説明したのにたいして、みんなが頷く。
「まずは俺とルイーゼで見張りを始末する。その後は櫂斗、花音、莉緒で火魔法を頼むぞ」
アーロンがそう言い俺たちも頷いた。
それを見た後にアーロンとルイーゼが動き出した。
気付かれないように移動し、2頭いるコボルトの見張りの後ろにアーロンとルイーゼが立つと……。
ザシュッ。
ズシュッ。
アーロンが後ろに立ち剣を振った瞬間、コボルトの頭がゴロンと転がった。
その後すぐに、首から上が無くなった胴体もドサっと倒れる。
ルイーゼが後ろに立ったコボルトは、レイピアで心臓を一突きされて声も上げられないままに息絶えていた。
2人の剣技はいつ見てもすごい。
今日は指揮に徹しているレナードの剣技もすごいんだけど。
俺は剣なんて握ったのはここに来てからだから、剣の腕もまだまだだけど、いつかはああいう風になれたらいいなと思う。
レナードやアーロンやルイーゼに少しでも近づけるようにがんばらないとな。
とそんなことを考えるのは後にして。
見張りが倒されたのを確認した俺と花音と莉緒は洞窟の前まですぐさま移動する。
そして、3人同時に火魔法を洞窟の中に撃ち込んだ。
「「燃え盛る火の球よ、我が敵を焼き尽くしたまえ。ファイヤーボール!」」
「猛る炎の火矢よ、我が敵を穿ちたまえ。ファイヤーアローッ!」
花音と莉緒はファイヤーボールを、俺はファイヤーアローだ。
俺たちの火魔法が洞窟の奥に達すると「ドカンッ」と凄まじい音がした。
「炎が噴き出すぞッ! お前たち洞窟の横へ避難しろッ!!」
アーロンの声で咄嗟に俺たちは横に飛んだ。
「キャーッ」
「キャアーッ」
「ウォォッ」
横に飛んだ直後、洞窟の入り口からボォォォッという音とともに炎が噴き出して来た。
俺たちの火魔法の威力が高過ぎたみたいだ。
火が収まったところで立ち上がる。
「何か、強すぎた?」
「ぽいね」
「うん……」
洞窟の中を覗き込むと真っ黒に焼け焦げて、コボルトが生きている気配は感じられなかった。
レナードやアーロンやルイーゼもやってきて洞窟の中を確認する。
「依頼完了ってことでいいな」
「ええ、あれだけの高火力の火魔法で生き残ってるわけないわよ」
「そうだな。生物の気配は感じない。殲滅完了でいいだろう」
3人がそう言った。
「御三方とも良かったですよ。コボルトの巣の殲滅完了です」
レナードからそう言われると、花音と莉緒は「ヤッター」と言いながら喜び合ってる。
「まぁ俺ら一応勇者だしね。こんなもんだろ」
カッコつけてそう言ったけど、内心めっちゃ嬉しかった。
外の魔物相手にも十分戦えるって思ったし、自信もついた。
よっしゃどんどん倒してくぜっ。
翌日、依頼を受けにみんなで冒険者ギルドに向かう途中に莉緒が昨日はなかったブレスレットを腕にしているのが袖口からチラリと見えた。
「莉緒、それどうしたんだ?」
目でブレスレットを追いながらそう聞いてみると、莉緒が嬉しそうに笑った。
「え? 何々その話、あたしも興味ある」
花音も初めて気付いたのか、話に交ざる。
「実は、レナードからもらったの……」
頬を染めて嬉しそうに莉緒がそう言った。
「キャーッ、良かったじゃん」
「うん」
「いいなぁ。羨ましい」
「大丈夫だよ。アーロンさん、いっつも花音のこと見てるし、絶対花音のこと好きだよ」
「そっかなぁ~」
何か2人の恋バナになっている。
そっか、レナードからか。
レナードやるじゃん。
ってか莉緒も呼び方が”レナード”になってるし。
前は”レナードさん”って呼んでたのにさ。
チクショー、俺もがんばるぜ。
やっぱ女にはアクセサリーをプレゼントすんのがいいのかな。
ちょっと参考にさせてもらおう。
莉緒がしていたブレスレットを見ると、銀色の1センチ幅の薄い金属に魔法陣らしきものがびっしり描かれていて、中央には透明な紫色の石が嵌め込まれている。
なかなか綺麗じゃないか。
莉緒に聞いてみると、魔法具の一種で身体能力を少し上げてくれるんだそうだ。
「レナードが、私は櫂斗や花音より体力がないのが心配だって言ってこれをくれたの」
そう嬉しそうに莉緒が教えてくれた。
なるほど、そういうアクセサリーもあるわけか。
きっと高いんだろうなぁ。
莉緒ってば愛されてんじゃん。
(騎士たちの会話)
「レナード、例のモノは上手く渡せたのか?」
「もちろんだ。身体能力を上げる魔道具だって言って渡したら、喜んで受け取ってくれたぞ」
「ふん、甘い言葉でも囁いて渡したんだろ?」
「否定はしない。だがお前だって同じようなもんだろ?」
「まぁな。あいつらは鑑定スキル持ちだし、さすがに同時期に渡すのはいらぬ疑いを持たれそうだからな。時期をずらして折を見て渡すつもりだ。もちろん甘~い言葉を囁きながらあの腕輪を腕に嵌めてやるよ。そうすりゃあいつ等は疑いもしないさ」
「お前も悪い男だな」
「人聞きの悪い。お前だって同じ穴の狢だろ」
「あんたたちはいいわよね。相手が女なんだから。男から女にアクセサリーのプレゼントをすることは何ら不思議じゃないもの。こっちは櫂斗にどうやって渡すか苦心してるってのに」
「そこは色仕掛けでもして、腕にささっと嵌めりゃいいだろう。あいつ、何だかんだ言ってもお前に相当惚れこんでるみたいだしよ」
「そうですよ。そこはあなたの腕の見せ所ですね」
「フンッ、分かってるわよ。この”隷属の腕輪”を勇者に嵌めることができれば、この任務も達成できたも同然だしね。そうなれば昇格間違いなしなんだから、やってやるわよ」
3人の勇者の話は難しい……。




