第百六話 覗きは禁止
「えー、女神様たち聞こえますかー?」
あの人たちには変な電波が繋がってるから、これで大丈夫……なハズ。
『聞こえてるのじゃー。待ちわびておったぞっ』
『そうよー、お願いしたいものがあるんだから』
『いよっ、待ってましたっ』
『ご飯とお菓子』
……すぐ繋がったね。
なんか期待感がハンパないんだけど。
無茶なことは言わないでくれよ。
この前も言ったとおり1人銀貨3枚までなんだからな。
「それで、希望のものは決まってますか? この間言いましたけど1人銀貨3枚ですよ。くれぐれもお願いしますからね」
一応釘刺しとかないと、また無茶なこと言いそうだからね。
特にニンリル様とかさ。
『な、な、何故に妾の名前がでるのじゃ? ちゃ、ちゃんと分かっておるぞ。ぎ、銀貨3枚だったな』
あ、これ無茶言うつもりだったわこの人。
『ちょっとニンリルちゃん、その顔あなた無茶言う気満々だったでしょ。異世界人クンは1人銀貨3枚までって言ってたじゃない。あなたが無茶言うと、私たちまでとばっちりで異世界のものが手に入らなくなるかもしれないんだから。そこのところちゃんと認識してよね』
『そうだそうだ。ニンリルはわがまま言うんじゃねぇ』
『ニンリル、ダメ』
『ぐぬぬぬぬ……。妾が最初に見つけて加護を与えたのに。くそう。少しは優遇してくれても良いと思うのじゃ(小声)』
はぁ、やっぱりというかニンリル様が女神様の中で1番残念な女神様だよ。
がっかりだね。
『ぬぅ、お主、何度も言っておるが妾は残念女神なんかではないのじゃっ』
『うふふふ、残念女神だって。ニンリルちゃんに合ってるわね』
『あはははは、そのまんまじゃねぇか』
『クスッ……残念女神』
『むぅぅ、お主たちまでそんなことをぬかしおってからにーっ』
ニンリル様のいつものとおりの女神様らしからぬ言動。
うん、ニンリル様は平常運転だね。
『お主っ、妾は女神なのじゃぞっ。もっと敬うのじゃ』
いや、敬うのじゃって言われてもさぁ。
『まぁまぁ、ニンリルちゃん落ち着きなさいよ。そんなことより早く何が欲しいのか希望言ったら?』
『はっ、そうじゃった。妾の希望は当然甘味なのじゃ。それから、この間の黒い飲み物と透明な飲み物も欲しいのじゃ。あれはシュワシュワして甘くて初めて飲む飲み物じゃが美味しかったのじゃ。それから、またどら焼きは欲しいのじゃ』
キシャール様ナイスです。
さすがニンリル様の扱いに慣れていらっしゃる。
「ニンリル様は甘味ですね。あとコーラとサイダーか」
それにしても、ニンリル様はブレないね。
一貫して甘味希望とは。
俺はネットスーパーを開いて、まずはどら焼き多めにカートに入れて、その他はケーキやらプリン、チョコレート数種にクッキーなんかを適当にカートに入れてく。
そしてご希望のコーラとサイダーは1.5リットルのをカートに入れた。
「次の方どうぞー」
『次は私、キシャールよ。この前のシャンプーとトリートメントとヘアマスク、すっごく良かったわぁ。髪に艶が出たし、パサパサだった髪に潤いが戻ってまとまりが良くなったのよ。そしてこの香り! 動くたびにうっとりするような香りがふんわり香って最高よ。男神の受けもいいのよ、これ。ウフフ。それでね、前に異世界のシャンプーやらは数十種類あるって言ってたじゃない? だから、今度は違う香りのシャンプーとトリートメントとヘアマスクをお願いしたいの。またいい香りのをお願いね』
キシャール様はまたシャンプーとトリートメントとヘアマスクをご所望か。
確かに今のシャンプーやらっていい香りするもんな。
男神の気持ち分かるぜ。
男としては、香水なんかの強い香りよりも、動いたときにふわっと香るシャンプーの香りの方がグッとくるんだよなぁ。
キシャール様希望のシャンプーとトリートメントとヘアマスクを見ていく。
この間買ったのはこれだったな。
何々、ローズブーケの香りって書いてある。
となると、ローズ系の香りは避けて……あ、これがいいかな。
フルーティフローラルの香りって書いてあるし、これも前と同じくノンシリコンのシリーズでダメージヘア用ってなってる。
髪のパサ付きが気になるキシャール様にも合いそうだ。
値段も前と同じでシャンプーとトリートメントとヘアマスク各銅貨9枚だ。
シャンプーとトリートメントとヘアマスクはこれでいいとして、少し余るな。
「キシャール様、シャンプーとトリートメントとヘアマスク買っても銅貨3枚余りますけど、どうしますか?」
『それなら異世界人クンがお風呂に入るときに使ってた、入浴剤?っていうのも欲しいわね』
入浴剤ね、はいはい。
…………ん?ちょっと待て、何で俺が風呂に入浴剤入れてること知ってるんだ?
まさか……。
「あの、何で俺が入浴剤使ってること知ってるんですか?」
『それはお主が風呂に入ってる姿をみんなで水鏡で覗いていたからなのじゃー』
『ちょっ、ニンリルちゃんっ!』
「ちょっと女神様たち、何やってくれてるんですか?! 風呂を覗くなんて犯罪じゃないですかッ!」
『い、いや、そのね、悪気はないのよ。異世界人クン一行を見ていたら、あなたがお風呂に入り始めて……』
「いや、そこで見るの止めればいいだけですよね?」
『あーもう、うるさいのじゃ。男のクセに裸を見られたくらいで騒ぎすぎなのじゃっ』
ニンリル様、男のクセにって言うけどね、男だって裸を見られるのは嫌なんですよ。
それに見られてると思ったらせっかくの風呂なのにリラックスできないじゃないですか。
『そうだぜー。それにな、お前の貧相な体じゃ見ても何とも思わねぇよ。なぁ、ルカ』
ぐぬぬ、アグニ様、貧相な体で悪かったですね。
男は筋肉だけじゃないんですよ。
『…………』(ルカ様、我関せず)
「とにかくですっ、俺が風呂に入ってるときは絶対に覗かないでくださいよっ。次こんなことがあったらお供え停止しますからねっ」
『あわわわわ、悪かったのじゃ』
『わ、分かってるわよ~』
『へいへい』
『…………』
ったくこの女神様たちは、何やってんだか。
さて、気を取り直してと。
キシャール様への柚子の香りの入浴剤をカートに入れる。
「お次は誰ですか?」
『おう、オレだアグニだぜ。オレはやっぱり酒がいいんだけど……なぁ、1本くらいはいいだろう?』
『1本か、1本くらいならいいかもしれんが、みなはどうじゃ?』
『そうねぇ、ダメダメ言ってもアグニちゃんも可哀想だし、1本くらいならいいかしらねぇ』
『……1本なら』
『アグニ、1本だけなのじゃぞ』
『おう、分かった。おい、酒を1本頼む。酒精が強いのがいいな……(大きい1本で頼むぞ)あとは、つまみになるようなもんだな。この間の芋を油で揚げたやつと肉を揚げたやつ美味かったな。あれがいいぞ』
アグニ様、何しれっと“大きい1本で”とか神託してんですか。
まぁ1本は1本ですし、銀貨3枚超えなきゃこっちは文句ないですけど。
酒精が強いっていうと、1番に思いつくのはウイスキーかなぁ。
お、これでいいか。
テレビでCMしてたやつだ。
700ミリリットルで銀貨1枚と銅貨4枚だな。
あとはフライドポテトとメンチカツが欲しいってことだから、この間揚げたやつを皿に盛る。
メンチカツは普通のとチーズINのも皿に載せた。
値段は前と同じでだな。
うーん、それでもちょっと余るな。
あ、ウイスキーなら炭酸水もあればハイボールにできるな。
炭酸水をカートに入れてるとおおよそ銀貨3枚になった。
「最後はルカ様ですね。何にしますか?」
『お菓子とご飯。ご飯多めで』
ルカ様もまたお菓子とご飯ね。
今度はご飯類多めをご所望か。
前と同じくハンバーグとメンチカツだな。
あとはから揚げだな。
それから、今度はネットスーパーの惣菜類も入れてやろう。
コロッケにエビフライにエビチリ、厚焼き玉子にマカロニサラダ、こんなもんでいいかな。
あとは食パンとおにぎりだろ。
残りは菓子類を適当にだな。
よしと、こんなもんだろう。
4つの段ボール祭壇の上にそれぞれの希望の品を並べていく。
「女神様たちご所望の品です。どうぞお受け取り下さい」
段ボール祭壇の上にあった品が消えていく。
その直後には、キャーキャー騒ぐ女神たちの声が聞こえてくる。
「ああ、アグニ様には特に注意点を。そのお酒はかなり酒精が強いので一気飲みはダメですからね。そのまま飲む場合は氷を入れたグラスでゆっくりちびちび飲むのがおすすめです。あとは水割りにしたり、一緒に送った炭酸で割るのも美味しいですよ」
『おう、分かった。ありがとな~』
プツンッ。
あーやっと終わった。
毎度毎度女神たちの相手は疲れるな。
もう寝よ。
俺はスイのいる布団に潜り込んで眠りについた。