天使の子守歌
夜叉王丸は最近、極度の寝不足だった。
毎晩のように夜泣きをする真夜を宥めに城を往復するからである。
真夜が夜泣きをすると城まで行きあやして帰るので寝不足気味で昼寝をしようと屋敷の気に入りの木の下に行くと寝転がろうとした。
その時、洗濯を終わらせたジャンヌが夜叉王丸に話し掛けてきた。
「大丈夫ですか?飛天様。お顔が悪いですが」
ジャンヌが心配そうに顔を覗き込む。
「どうも寝不足でな。真夜が夜泣きをする度に行くから仕方ないが」
欠伸をしながら答える夜叉王丸にジャンヌは何を思ったか先に木の下に行くと腰を下ろした。
「では、私が子守唄を歌いましょう」
最初は何を言われたのか分からなかったが、少しして理解すると苦笑した。
「良いのか?仕事中だろ?」
「飛天様の為なら空いております」
これには言う事が何もないので夜叉王丸は遠慮なく彼女の膝に頭を預けると横になった。
「お前の膝枕は温かくて心地が良い」
そう言うと夜叉王丸は瞳を閉じた。
ジャンヌは主人であり想い人が眼を瞑ると歌を歌い出した。
『月が出る晩、貴方と一緒に月を眺める。月は綺麗に光っていて貴方と私を照らす』
『貴方は優しい眼差しで月を眺めていて私は隣で見る。月を見る貴方の横顔はとても幼くて少年のよう。可愛らしくて好きな顔』
何だか恋の歌にも聞こえると思ったが、夜叉王丸は心地よい睡魔に襲われて眠りの世界へと旅立って行った。
眠った夜叉王丸をジャンヌは優しい微笑みを浮かべて髪を撫でた。
自分の髪とは違いゴツゴツしていて身体と同じだと思うが、彼女は好きだった。
無骨な体格と身体を誇っているが、子供っぽい所もあり優しい。
そして誰よりも悲しい運命を背負い生きてきた男。
だからこそ自分は魔界へと旅立ち彼の元に来たのだ。
「ゆっくりと休んで下さい。飛天様」
静かに小さな声で囁きジャンヌは夜叉王丸の寝顔を眺め続けた。