背中で泣く
ハーフリー・ボガードが主演した映画、カサブランカを見て考えて書きました。
何れ改めて編集して載せるつもりです。
雨が降る中で一組の男女が互いに見つめ合っていた。
女は金の長髪を雨で濡らしながら紫の瞳を潤ませて男を見つめていた。
男の方は灰銀の髪を女と同じく濡らしながら青と緑の瞳というオッド・アイで女を見つめ返していた。
女の名前はリーラ・フレム・フィン公爵令嬢。
魔界でも指折りの公爵家に生まれた生粋の貴族令嬢だが、着ている服は平民が着るような服装だった。
男の名前はラインハルト・フェルナンデス・クラウザー。
父は男爵で次男坊という立場で爵位は継承できないという所謂、“ただ飯食らい”という立場である。
しかし、彼は飛天夜叉王丸の軍団である風の翼の奇襲部隊副隊長という肩書を持っているのが他の貴族の子弟とは違う所だ。
そのラインハルトは目の前にいるリーラに淡い恋心を懐いていた。
誰もが憧れる風の翼の兵士で更に一隊の副隊長を務める今の彼ならリーラとの結婚も夢ではなかった。
だが、それは決して叶う事はなかった。
リーラには将来を誓い合った恋人がいた。
その恋人は平民の男でラインハルトよりも身分の差が激しい。
しかし二人は結婚を決めた。
密かに式も上げた。
だが、親は許すはずもなく二人は引き離されそうになった。
そこを偶然にもラインハルトが通り掛かり助けた事で二人の逃避行の片棒を担ぐ事となった。
その時、彼はリーラに告白をしようと行く途中だった。
まさに青天の霹靂、寝耳に水だ。
普通なら断るが、彼は二人の逃避行の手助けをした。
リーラの恋人から何故、助けるのかと聞かれた彼はこう答えた。
『好きな女が助けを求めて来たから助けるだけだ。例え、自分に不利益だろうと』
これを聞いて男は彼がリーラを好きだと知った。
しかし、女の幸せを願い自分の気持ちを押し殺すラインハルトに感銘を受けた。
その男は馬車を取りに行って今はいない。
二人で残されたラインハルトとリーラ。
彼女は何度も彼に礼を言った。
「本当にありがとう。ラインハルトさん」
「気にしないで良いよ。女性を助けるのが騎士の役目だから」
彼は自分の気持ちを抑えて無理に笑った。
『嘘を吐け。本当は行かせたくないくせに』
心の声が聞こえた気がした。
しかし、彼は聞かない振りをした。
「この後はどうするんだい?」
無言でいると何をするか分からなくなるので話題を上げた。
「彼、ヴィンの故郷に行くの。すごい田舎だけど静かでよい場所そうらしいんです」
リーラは邪気のない笑みを浮かべた。
その笑みには何の不安も見えなかった。
公爵令嬢という肩書も財産も全てを捨てて愛する人と暮らす。
それが彼女には嬉しいのだ。
「・・・そう」
ラインハルトは段々、自分の気持ちを抑えられない事に焦ってきた。
このまま彼女を連れて公爵家に行けば結婚できる。
そうすれば長年、願っていた自分の夢が叶う。
『やれ。彼女を連れて帰れ』
『駄目だ。彼女の幸せを考えるんだ』
本当の気持ちを嘘の言葉で打ち消すラインハルト。
しかし、自分の気持ちを抑える事が出来なくなった。
「リーラ。実は・・・・・・・・」
彼は自分を見つめる娘に自分の本当の気持ちを伝えようとした。
その時、馬の鳴き声が聞こえてきた。
「・・・・・どうやら来たようだね」
馬の鳴き声で彼は自分の気持ちを抑える事が出来た。
リーラは彼が何を言おうとしたのか忘れて男の姿を見て嬉しそうに微笑んだ。
さっき自分に微笑んでくれた笑みとは違う。
愛する人にだけ見せる笑顔だ。
「リーラ。お待たせ」
男はリーラに笑い掛けた。
「・・・・・・・・」
ラインハルトは何も言わずにリーラが男の腕を掴み馬に乗るのを見た。
「それでは、色々とありがとうございました」
男が一礼するとリーラも一礼した。
「・・・道中、気を付けて」
二人は頷くと雨が降る中を馬で走り抜けて夜の闇へと消えて行った。
一人のこされたラインハルトを雨が打つ。
不意にリーラに男と同じ質問をされたイメージが出てきた。
『どうして私たちを助けようとしてくれるの?』
その時は質問に答えられなかったが、今なら言える。
「・・・君の事が好きだからだよ」
誰に言うでもなく彼は呟いた。
彼は二人が去った方向とは別に背中を向けると雨が降る中を一人歩いて去った。
その背中は悲しかった。
彼は泣いていた。
瞳から涙を流すのではなく背中で静かに、しかし、はっきりと泣いていた。
それは彼なりに自分の恋との決別だったのかもしれない。
『さようなら。俺の初恋の女。どうか、幸せに・・・・・・・・・』
背中で泣くボガードこそ、まさに男。
興味があったらカサブランカを見て下さい。