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貴方の元へ

ヒュー、と風が吹いて襖を叩く音がした。


しかし、直ぐに止んで辺りは静寂な場へと戻った。


私は浅い眠りから覚めて久し振りに床から起き上がった。


ズキッと左足に鈍い痛みが走った。


・・・・そうだ忘れていた。


遥か昔に飛天様と戦って私は片足に後遺症が残ったんだ。


あの時は絶望のどん底だった。


信じていた上司、家族、恋人から見捨てられた事に・・・・・・・・・


そんな私に救いの手を差し伸べてくれたのは、飛天様だった。


敵であった飛天様だけが、私を絶望という底なし沼から掬い上げてくれた。


恐らく、あの方が居なかったら私は死んでいた。


それから私の人生は楽しくなった。


初めて心を許せて話せる友人。


頼れる相棒と仲間。


そして、妊娠と出産。


全てが楽しくて充実していた。


・・・・・・それは全て飛天様が与えてくれた物。


全知全能の神ではなく一階級の悪魔に過ぎない飛天様が私に与えてくれたどんな宝にも勝る最高の宝物。


その飛天様も、もうこの世には居ない。


ジャンヌ殿やクレセント殿、千夜殿に黒闇天なども飛天様の後を追うように亡くなっていった。


私を含めて、まだ居るが皆、飛天様の死を悲しんでいた。


飛天様が亡くなって、急激に体力などが衰えた私は部屋の中で寝込む事が多くなった。


私の中で飛天様は、まさにルシュファー様がかつて“明けの明星”と言われた如く太陽な存在だった。


その太陽だった飛天様が亡くなって私は再び絶望へと落ようとしていたが、救いの手が差し伸ばされた。


私の娘が男の子を出産したのだ。


飛天様のように黒髪で金色の瞳を持った元気な男の子。


それを見て飛天様が生まれ変わったように思えた。


他にもジャンヌ殿達の娘も出産して沈み掛けていた心が浮上した。


孫達は私を気遣ってくれて嬉しかった。


まるで、飛天様が私にしてくれたように・・・・・・・・・・


それが嬉しいと同時に、やはり飛天様が居ないという事を実感して悲しみが出てきた。


今日は飛天様が亡くなって三百年が経った日だ。


その日は、多くの著名な方が飛天様の菩提を弔う為に魔界に訪れて娘たちも作業に追われている。


今、部屋に居るのは私だけだ。


やるなら今しかない。


私は左足を引き摺りながら箪笥の中に仕舞っていた懐剣を取り出した。


飛天様が私の守り刀として作ってくれた物だ。


その刀で、これから命を絶つとは失礼にも程があるが・・・・・・・もう耐え切れない。


飛天様が居ない世界など私にとっては、無に等しい。


この三百年で、それが痛いほど解った。


だから、クレセント殿や月黄泉殿、サリエル様などは直ぐに後を追った。


・・・・・・私も後に続きます。


静かに正座して懐剣を鞘から引き抜いた。


綺麗に光を放つ懐剣に眼を奪われながら私は己が喉に懐剣の刃先を向けた。


『・・・・・飛天様。私も、貴方の元へ行かせて貰います』


ズンッ


力いっぱい懐剣を喉に突き刺した。


溢れ出した血が部屋を赤く染め上げた。


薄れ行く意識の中で私は、飛天様が呼ぶ声が聞こえた。


『・・・・・飛天様。迎えに来てくれたのですか?』


貴方が私の手を取り貴方の世界まで連れて行ってくれるのですね?


今度は、貴方とずっと一緒に・・・・・・・・・・・


死んでも、ずっと一緒に居させて下さい・・・・・・・・・・


そして願わくば、今度、また生まれ変われるなら、私は、再び貴方の妻として生きて行きたい。


貴方以外の男と生きて行く姿など、想像できないから・・・・・・・


その日、飛天夜叉王丸の妻、レオノチス・ヴィクトリア・ヴァレンタインが自身の喉を懐剣で突いて死んでいるのを使用人が発見した。


夜叉王丸の妻の中で自害したのは従者でもあったクレセント姫、サリエル、月黄泉に続いて四人目だ。


部屋中が夥しい血色に染められていたが、自害した顔は幼子のように笑っていて、とても自害した者の顔だとは思えなかったらしい。


後に彼女の数奇な人生は天界でも動きが出て彼女の名誉を回復させる運動が起きて名誉が回復される事となった。


左足にハンデを負いながら誇り高く生きて夜叉王丸を支えた彼女を魔界のルイズ・ド・ラヴァリエール(フランス国王、ルイ十四世の側室で片足に後遺症があった)と称えて尊敬されるようになった。


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