法とは何か?
「・・・・・法の処罰なんて被害者の気持ちが反映されてないわ」
アラストールはポツリと漏らした。
「本当に被害者の気持ちが反映されるのは、被害者が納得する罰を与える事よ」
「まぁ、な」
夜叉王丸はセブンスターを吸いながら答えた。
「貴方だってそうでしょ?」
「・・・・・・・・・」
夜叉王丸は無言で天井を眺めた。
「・・・あぁ。口では何を言っても心の何処かでは罪人を殺したいと思っているんだ」
それは自分に言っているように聞こえた。
「だからこそ、俺達が、地獄の処刑人がいるんだろ?」
左眼でアラストールを見た。
「えぇ。私たちが、晴れない怨みを晴らす」
テーブルに置いてあった黒い絵馬を手に取った。
「・・・・・必ず晴らしてみせる」
アラストールはギュッと絵馬を胸元に押し当てた。
「・・・さぁ、行こうぜ」
夜叉王丸はセブンスターを携帯灰皿に入れると立ち上がった。
二人は喫茶店、バロンを後にした。
「何で時効を迎えたのに俺が被害者に謝罪しに行く必要があるんだよ。俺は自由だ!!」
男は酒を煽りながら喚き散らした。
「・・・・・あんたには自由なんて無いわ。あるのは薄暗い牢屋の中で永遠に犯した罪を悔いるだけよ」
「何だと!!」
男は振り向いたと同時に右ストーレトを食らった。
「悪いけど暫く眠って貰うわよ」
アラストールは気を失った男を氷の眼差しで見降ろすと軽々と持ち上げて姿を消した。
「・・・・・うっ、ここは?」
気を失った男は周囲を見回した。
周りは闇に囲まれて何も見えない状態だった。
「やっと気が付いたようだな」
何処からともなく黒い衣装を纏ったルシュファーが男の前に現われた。
「てめぇ、ここは何処だ?」
男はルシュファーに怒鳴った。
「罪人に口を開く権利を与えた覚えはない」
ルシュファーは指を鳴らすと男は口が開かなくなった。
「がぁ!!あがっ!?」
「これより裁判を始める」
ルシュファーは静かに感情の無い声で言った。
「罪人、藤堂宏。20年前に当時女子高校生であった鈴木由美を暴行目的で拉致して抵抗された為に首を絞めて殺害し時効まで逃亡した」
淡々と男の罪状を読み上げるルシュファー。
「刑事でも民事でも時効が成立した今、法の元では裁く事が出来ない」
「だが・・・・・・貴様に殺された由美の家族が地獄の処刑人に怨みを託した」
男は地獄の処刑人の名前を聞き戦慄が走った。
「俺達に依頼して家族は自殺した」
ルシュファーは沈痛な表情になった。
「貴様は何の罪もない幸せな家族を滅茶苦茶にした」
ギロリと男を睨んだ。
「罪無き者を殺した罪により貴様を由美と同じ絞首刑に処する」
ルシュファーが眼で合図すると闇の中から絞首刑台とアラストールが出てきた。
「これより刑を執行する」
アラストールは逃げようとする男の首に鎖鎌の文鎮を投げると台まで引っ張った。
男は口が開くようになると力の限り懇願した。
「た、助けてくれ!!俺が悪かった」
「生憎だが、罪人に掛ける情はない」
夜叉王丸が男の右肩を掴みながら懇願を一刀両断した。
「その通り。貴方のやった罪はとても重い。被害者の将来を壊したのだからね」
アリオーシュが左肩を掴みながら言った。
「更に被害者家族に謝罪もしないとは言語道断だ」
メフィストフェレスが男の両足を掴んで睨んだ。
「貴様は死んで当然の人間だ。そして殺した後も地獄で罪を永遠に償うのだ」
アラストールが先導して男を台まで連れて行き首にロープを掛けた。
「い、嫌だ!!俺は死にたくない!?」
「殺された娘だった死にたくなかったんだよ。それを貴様は殺した。欲望に溺れてな」
夜叉王丸は男の顔を殴った。
「貴様は溺れたんだよ。愚かな罪人が死んで被害者に詫びろ」
非情にロープが上に上がり男の首を圧迫した。
男は首に手を当ててもがき苦しんだ。
「貴様はこうして被害者を殺した」
夜叉王丸は冷酷な眼差しで男を見上げた。
「その苦しみを味わうがいいわ」
四人に見られながら男は数十分の間もがき苦しんで糞尿を漏らしながら息絶えた。
「これにて、裁判を閉廷する」
ルシュファーが言うと辺りは再び暗闇に覆われた。
翌日、吊し上げられた男の死体が警察署前に置かれていた。
死体の傍には置き手紙が合った。
『この男、二十年前に殺害をするも時効まで逃亡し被害者家族に謝罪もせずに罪に悩まされる事もなく生きた過度により処刑した。 地獄の処刑人』
「えー、今日の朝に警察署前に男の死体が置かれていました。死体には置き手紙があり地獄の処刑人により処刑されたと思われます。この男は先日に自宅で自殺した鈴木夫妻の一人娘であった当時高校生だった由美さんを自宅で絞殺して時効まで逃亡しました。夫妻は地獄の処刑人に依頼した様でした」
「なお、警察は『時効が成立した犯人を私殺した悪質な犯罪』と言って地獄の処刑人を逮捕する模様です」
アラストールは市外で映し出されたテレビをガラス越しに見ると背中を向けた。
向かった先には黒い車があり、座席に乗っていた夜叉王丸の前で止まると尋ねた。
「男は?」
「あぁ。地獄でお前の部下に可愛がられているぜ」
黒のベンツSSKに乗った夜叉王丸が答えた。
「・・・・・そう」
アラストールはSSKに乗ると溜め息を吐いた。
「・・・法って何の為にあるのかしらね?」
ポツリと漏らした。
「弱者を護るための法が弱者を苦しめるなんて皮肉ね」
「・・・・それでも法だ」
夜叉王丸はエンジンを掛けるとアラストールを乗せたSSKを走らせて何処となく消えて行った。




