表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/62

一射必殺

謹慎処分を解かれた夜叉王丸がバラテの家に帰るとやつれた顔の男がいた。


男は夜叉王丸を見ると縋り付き懇願した。


“どうか、仇を・・・・・・・・あの獣を殺して下さい!?”


何が何なのか解らず訳を聞くと男は話し始めた。


内容はこうだ。


男の住んでいる村に通常の数倍はある巨大な熊が現れに女子供が十五人も食い殺されたというのだ。


退治しようにも満足な武器もなく騎士団を頼りたくても辺境の地では拒否されるに決まっている。


そんな時に一人の村人が夜叉王丸なら助けてくれると言ったらしい。


村人達は夜叉王丸に頼む事に決めて村人を代表して来たのが男だ。


「・・・分かった。引き受けよう」


夜叉王丸は重苦しい口調で了承した。


「あ、ありがとうございますっ」


依頼人と思われる中年の男は涙ながらに感謝の言葉を言った。


「直ぐに準備する」


夜叉王丸は奥の部屋へと消えた。


部屋の奥に行った夜叉王丸は狩猟で使う降魔弓ではなくナチス・ドイツ第三帝国が使用していたボルトアクション式ライフル、モーゼルkar98kを持ち出した。


「依頼か?」


隣の部屋からダハーカが欠伸混じりに聞いてきた。


「あぁ。少しデカイ熊を狩る」


淡々と準備をする夜叉王丸。


「ライフルを使うって事は手こずる可能性がある訳か」


目を細めるダハーカ。


「話を聞くとそうらしいからな。フェンたちにも伝えろ」


「了解」


ダハーカは部屋から出ると自身の用意とフェンリルたちに準備を促せた。














「これはこれは・・・・・・・・まるで死の都だな」


ダハーカが逞しい胸板を掻きながら村を見渡した。


「確かに。まるで死の都だな」


ダハーカの言葉に夜叉王丸も頷いた。


「本当に住んでるのか?」


ゼオンが疑いの眼差しで案内人の村人を見た。


「い、今は老若女子供は隣の村に避難させていて残っているのは僅かな男だけです」


「つまり早い話が主人様に任せて皆は逃げたんですか」


感情を込めずに事務的に言葉を放つヨルムンガルドに村人は怯えた。


「主人。こんな無責任な奴らを助ける必要なんて無いですよ。帰りましょうよ」


狼姿のフェンリルが欠伸をしながら提言すると男は土下座をした。


「お願いです!どうか私たちを見捨てないで下さい!?」


「誰も見捨てるなんて言ってないぞ」


セブンスターを銜えながら夜叉王丸は答えた。


「女子供を避難させたのは間違いではない。むしろ正解だ」


「話しから察するに、その熊は女と子供の肉を覚えたから女と子供しか狙わん」


だから避難させて正解だと夜叉王丸は土下座している男に言った。


「残りの奴らに伝えろ。松明と刃物を持てるだけ持って隣の村に行け」


それだけ男に言うと夜叉王丸は肩に掛けたモーゼルkar98kを腕に持ち直して山の中へと入って行った。


「あいつの律義さに感謝しろよ。小僧」


マウザーM1918を片手にダハーカは男の肩を叩くと夜叉王丸の後を追った。


「ダハーカの言う通りだ。旦那に感謝しな」


レミントンM700を片手に掛けながらゼオンも夜叉王丸たちの後を追い山の中に入った。


「私たちも行きましょうか。兄さん」


ウィンチェスターM1895を構えながらヨルムンガルドは狼姿のフェンリルに言った。


「あぁ。俺達も行くぞ」


フェンリルたちも後を追い残った土下座していた男だけだった。















「主人。俺達以外の臭いがする」


フェンリルは鼻を嗅ぎながら目を細めた。


「誰か分かるか?」


「人数は一人。まだ乳臭い餓鬼の臭いだ」


地面に鼻を押しつけながらフェンリルは分析した。


「餓鬼が一人で山ん中とはどういう訳だ?」


ダハーカが欠伸をしながら首を傾げた。


「・・・・・それは本人に聞けば解る」


突然フェンリルは茂みの中に突っ込んだ。


しかし、直ぐに出てきた。


・・・・・暴れる子供を口に銜えてだが。


年齢は十、十一になったばかりだろう。


あちらこちら破れているが外傷は見られなかった。


「放せよ!この犬がっ」


「てめぇ、首を噛み切られたいか?」


口元で暴れる子供をフェンリルはギロリと睨んだ。


「止せ。フェン」


夜叉王丸が溜息を吐きながら止めた。


「ちっ。運の良い餓鬼だ」


フェンリルは乱暴に子供を下ろした。


「痛てっ」


子供は地面に強く打った尻を擦りながら夜叉王丸を見上げた。


「おっさん誰だ?」


「口の聞き方に気をつけろ」


フェンリルが前足で子供の足を叩いた。


「止めろ。フェン」


夜叉王丸が怒るとフェンリルは不貞腐れた眼差しで子供を見た。


「俺は村人に雇われた者だ。今度は坊主が名乗る番だ」


手短かに名乗ると子供に促した。


「・・・・・キッド」


子供は俯いて答えた。


「よし。キッド。お前、何でこんな所に居るんだ?」


優しく尋ねる夜叉王丸。


「・・・・仇を討ちたかったから」


「仇?」


一同が首を傾げる。


「あいつが、あの熊が俺の家族を皆殺しにしたんだ!!だから、仇を討ちたいんだよ!!」


涙を流しながらキッドは大声で言った。


話しによるとキッドの母親と妹は熊に内蔵を食い千切られたそうだ。


狩人だった父親は仇を討とうとしたが返り討ちにあったらしい。


「だから、俺が皆の仇を討ちたいんだ・・・・・・・・」


山刀の柄を握り締めるキッド。


その身体は震えていた。


よく見ると所々で服や体に傷があった。


本当なら逃げだしたいが家族の仇を討ちたいから我慢していたのだろう、と夜叉王丸は考えた。


『・・・こいつに仇を討たせてやりたい』


不意に夜叉王丸は立ち上がるとコートの中からライフルを取り出しキッドの目の前に突き出した。


「この銃は村田銃二十八番口径。火薬は黒色から無色に変えた改造版だ」


淡々と銃の説明をする夜叉王丸。


「これをお前にやる」


無造作にキッドに渡す夜叉王丸。


「・・・え?」


「装弾数は一発だ。外したら命は無いぞ」


「・・・・・・・」


キッドは震える手で夜叉王丸から村田銃を受け取った。


「これで奴を殺せ。俺達が手助けをしてやる」


これを聞いたダハーカ達は溜息を吐いた。


「・・・やれやれ。また世話焼きが始まった」


「仕方ありませんね」


「まぁ、そこが旦那の良い所だけど」


「こんな餓鬼のために・・・・・・」


こうしてキッド少年を混ぜた夜叉王丸一同は熊狩りを再開した。














「・・・・近くにいる」


狩りを再開した一同はフェンリルの鼻を頼りに熊を探していた。


するとフェンリルの鼻が何かを嗅ぎ取ったようだ。


「・・・・・・・」


夜叉王丸は無言で肩に掛けていたkar98kを腕に持ち帰るとダハーカ達も周囲を警戒した。


キッドもぎこちない手でライフルに弾を装填した。


暫く獣道を歩いていると樫の木の上に動く黒い影が見えた。


大きさは三メートルを超えている巨大な熊。


眠っているのか夜叉王丸の気配に気づいていなかった。


「・・・キッド」


「あいつだ。・・・・・俺の家族を殺した熊は・・・・・・」


ギュッ、と村田銃を握るキッド。


「仇を取れ」


キッドは村田銃を構えた。


しかし、初めて扱う武器と恐怖から身体が震えて上手く狙えなかった。


「・・・・落ち着いて狙え」


夜叉王丸たちは後ろで黙ってキッドを見た。


「・・・・・・・」


キッドは震える身体を叱り付け狙いを定めた。


『・・・・俺が皆の仇を取るんだ』


自分の決意を新たにするとキッドは標準を熊の額に定め引き金を引いた。


ダァン!!


一発の銃声が山の中に響いた。


「・・・・見事だ」


ポツリと夜叉王丸は言った。


キッドの撃った弾は見事に眠っている熊の額を打ち抜いた。


熊は木から落ちると少し動いたが直ぐに事切れた。


キッドはその場で座り込んで泣いていた。


恐怖からか安堵からかは分からないがキッドの泣き声が暫くの間、山奥に響き渡った。













「・・・・本当に貰って良いんですか?」


キッドは村田銃を持ちながら夜叉王丸に尋ねた。


「あぁ。そいつはお前にやる」


タバコを蒸かしながら夜叉王丸は言った。


熊を仕留めた後は死体を解体して村に持ち帰り依頼完遂を伝えると解体した熊を持って、そのまま帰る事にした。


熊を仕留めた村田銃はキッドに譲り渡すと夜叉王丸は言った。


「さぁて、そろそろ帰るか」


タバコをもみ消すとダハーカ達と共にキッドに背を向けた。


「ま、待って!!」


キッドは大声で夜叉王丸を呼び止めた。


「あ、あんたの名前は?」


「・・・・・飛天夜叉王丸だ」


背を向けたままキッドに名乗ると夜叉王丸は二度と振り返らなかった。


これが魔界四銃士として名を馳せるデェイヴィット・キッド・ジェシーと夜叉王丸の初めての出会いだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ