二人の激闘
「・・・・これでどう?」
私はストレートを出して前方に座りながら煙草を蒸かしている愛する夫である飛天を見た。
これなら勝てる。
そう確信した。
しかし・・・・・
「・・・・残念だな」
飛天は持っていたカードを私に見せた。
「ロイヤルストレートフラッシュだ」
私は悔しくて身体を投げ出した。
「もう!!何で飛天に勝てないのよ!!」
私が悔しがるのを飛天はニヤニヤしながら紫煙を吐いた。
「お前よりも運が良いからかな」
勝ち誇った顔が悔しくて仕方がなかった。
久しぶりに二人だけでポーカをしたが負けに負け続けた。
あまりの敗北に私は疑問をぶつけた。
「嘘吐き!!何か小細工したんでしょ?!」
「小細工?証拠があるのかい?」
「ある訳ないでしょ!?」
この男が証拠を残すなんて間抜けな真似をする訳がない。
「よく解ってるな」
不適に笑う飛天を見て私の疑惑は確信に変わった。
「やっぱり小細工したのね!!」
私は椅子から立ち上がって飛天の胸倉を掴んだ。
「証拠がないだろ」
「貴方の笑った顔が証拠よっ」
胸倉を掴んだままがくがく揺らす。
「おいおい。揺らし過ぎだぞ」
飛天の制止も聞かずに私は揺らし続けた。
そしたら勢い余って
「うわっ」
「きゃっ」
二人して倒れてしまった。
「痛ってー。だから言っただろ?揺らし過ぎだと」
後頭部を抑えながら飛天は私を睨んで来た。
「そっちが小細工なんかするからよっ」
若干、罪悪感を感じたが怒りの方が強かった。
「証拠がないだろ?」
「悪魔相手に証拠なんて必要ないわよっ!!」
嘘つきで用意周到の悪魔に証拠を求めるなんて馬鹿な行動だ。
「証拠も無いのに人を罪人扱いするなよ」
「悪魔だから良いのよ!」
目茶苦茶な理論だと分かっているが止まらなかった。
飛天を押し倒した状態のままで怒る。
傍から見れば私が飛天を襲っているように見えるだろうが今は飛天と私しか居ないから問題ない。
「悪魔でも証拠は必要だぞ」
飛天は尚も食い下がった。
「往生際が悪いわよっ」
私は業を煮やして飛天の胸倉を掴んで顔を接近させた。
「大人しく白状なさい」
私の顔を真っ直ぐに見ていた飛天が不意に後方に目をやった。
「・・・・・・」
私も後を追うように視線を後方にやると仁王立ちして額に青筋を立てた友人のラファエルが立っていた。
「・・・・昼間から何をしているの?ガブリエル」
ラファエルは怒りを押し殺した低い声で尋ねてきた。
「何って、見て分からない?」
私はわざと首を傾げてみせた。
最近ラファエルは私が飛天と一緒に居ると必ず現れて邪魔をしてくる。
恐らく私に嫉妬しているのだ。
自分はあんなに飛天に冷たくされたのに私は優遇されたのが気に入らないのだろう。
それに私も飛天が好きだと知った時から少し距離を置いていたのを私は知っていた。
正直言って天界に居た頃に比べてラファエルに感情の現れが大きくなったのが分かった。
天界に居た頃のラファエルは仕事しか頭にない様子で殆ど感情を表に出さなかった。
魔界に来てからは感情が豊かになって嬉しいが今はムカついた。
「“私”の飛天から離れなさい」
命令口調のラファエルに私は血管が切れるのを感じた。
「あら?貴方だけの飛天なんて誰が決めたの?」
「“私”の飛天でもあるのよ」
押し倒した飛天の唇に自身の唇を重ねる。
「ッ!!」
ラファエルは瞠目した。
「私と飛天の逢引を邪魔しないでくれる?」
挑発的な口調で言うと
「・・・・・ガブリエル!!」
ラファエルは直ぐに我を取り戻して何もない空間から愛剣を取り出した。
私も直ぐに臨戦態勢に立った。