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帰国

成田空港に到着したスコロピオンは革のトランクを片手にタクシーを拾うと昔、住んでいた場所に向かうように言った。


「お客さんは日本に何しに来たんですか?」


ドライバーが後部座席に座るスコロピオンに質問してきた。


「故郷が懐かしくなったと言えば良いかな?」


正直に言って自分でも分からなかった。


何でこんな平和ボケした国に戻って来たのだろう?


師匠である夜叉王丸に進められるままに自分を捨てる為に日本を出たのに・・・・・・・・


「そうですか。まぁ、ゆっくりして下さい」


「そうするよ」


ドライバーの言葉にスコロピオンは苦笑した。


それから三十分して目的地に到着した。


金を払いタクシーから降りる。


周りを見渡したが四年前とまったく変わっていなかった。


かつて自分が住んでいた家。


隣家の幼馴染がいる産婦人科。


全てが四年前のままだ。


「・・・昔のまんまだな」


しばらく自分の家を見ていたら背後に気配を感じた。


「・・・・・・・・・」


スコロピオンは無言で懐に手を伸ばしジャックナイフを構えた。


暗黒街を渡り歩いている内に自然と身に着いた用心深さだ。


「・・・・あの、その家に何か用ですか?」


『・・・この声は』


背後を振り返ると、かつての幼馴染が立っていた。


肩まであったセミロングは四年前より少し伸びて服装も色っぽかった。


しかし、瞳の負けん気さは変わらない様子だった。


『・・・・こいつも昔と変わってないな』


「?あの・・・・・・・」


「・・・いや、ただ気になっただけだ」


スコロピオンは短く答えると身を振った。


四年前に何も言わずに置手紙だけを残し去った自分。


今さら何を話せと言うんだ?


『もう、あいつも俺なんて忘れてるだろう』


自嘲気味に笑いながらスコロピオンは今夜の寝床を探しに繁華街に向かった。













「・・・・いらっしゃいませ」


歩いて十五分くらいして繁華街のホテルに到着した。


高級ホテルではないが予約もしてなかったから仕方がない。


『これが師匠だったら予約なしで泊まれただろうな』


自分の師匠なら高級ホテルに予約なしで言っても半額で泊まる事ができる。


それだけの人脈と信頼があるのだと理解できる。


しかし、師匠はちゃんと予約をして金を払っている。


その誠意が長い付き合いが続くのだとスコロピオンは思っている。


『俺も師匠みたいな男になりたいな』


師匠は自分の目標だ。


強くて格好良くて部下からの信頼も厚く暗殺でも証拠も罪なき者は殺さない。


全てにおいて自分を遙かに超えている。


だから自分は師匠が好きであり憧れているのだ。


そんな事を考えているとフロントが鍵を渡した。


「・・・・ありがとう」


礼の言葉を言って鍵を受け取るとスコロピオンは渡された鍵の番号を見てエレベーターに乗った。














「・・・・・はぁー」


部屋に入るとスコロピオンは持っていた革のトランクを床に置くとベッドに倒れ込んだ。


「・・・・・・・・」


何でこんな所に来たんだろう。


もう、二度と来る事はないと思っていたのに・・・・・・・・


「・・・分からない」


自分の行動に疑問を抱きながらスコロピオンはコートの中からジタンを取り出して口に銜え火を点けた。


煙草は一瞬だが、思考を和らげてくれる。


外人部隊に在籍していた時にたまたま手に入れたフランス製の煙草。


甘さと神経を麻痺させる所に魅かれて吸い始めた。


少し吸って紫煙を吐きながら気まぐれにテレビを点けた。


テレビからは緊迫した音ともにレポーターが喋りだした。


「今の時間から二時間前に銀行強盗を働いた容疑者が警察に追われて逃亡して近くの喫茶店に逃げ込み客や従業員を盾に立て籠もっています」


スコロピオンは小さい事件だと思いながら煙を肺に入れた。


しかし、次の瞬間にスコロピオンは眼を瞠った。


「アルバイトの椎名優奈さんが犯人に拳銃を突きつけられて泣き叫んでいます」


・・・・・椎名優奈。


スコロピオンのかつての幼馴染。


「優奈さんは・・・・・・・」


スコロピオンはテレビを付けたまま革トランクを持つと部屋を飛び出した。













現場に行く途中でスコロピオンは自分の行動に疑問を懐いていた。


「・・・・・何で俺は行くんだ」


自分は暗殺者だ。


依頼でもないのに何で行動を起こすのだ。


「・・・・どうかしている」


自分の行動に苛立ちながら犯行現場へと急いだ。


現場に行くと大勢の野次馬と警察で混雑していた。


「・・・・・・・」


何処か見渡せる場所を探すと適当なビルを見つけて急いで向かった。


ビルの上に行くとトランクの中から暗視双眼鏡を取り出して立て籠もり場所を見た。


「・・・・いた」


双眼鏡で見ると犯人は優奈の首筋にナイフを突き立てて警察を威嚇していた。


「・・・・・・・・」


スコロピオンは改めて辺りを見回した。


回りを見てもスナイパーらしき者は見当たらない。


つまり結論を出すと


『犯人を殺さず傷つけずに逮捕、か』


スコロピオンは改めて日本の警察の慎重さに嘆息した。


「どう見ても頭がイカレテいるだろ」


優奈にナイフを突き付けている男の顔は狂喜と混乱で歪んでいて、とても話を聞くような状態ではない。


そんな男に話し合いをしようとしている警察に呆れ果てた。


トランクから分解したH&K MSG90(スコープ付き)を取り出して組み立て始めた。


「何をしているんだ。俺は・・・・・・・」


自分がやっている事は明らかにどうかしている。


頭では解っていたが身体は違っていた。


組み立て終えるとスコープに瞳を当て犯人の右肩に狙いを定めた。


「・・・・・・・・・」


引き金に手を掛けて引こうとした瞬間に、もう一人の男が近づいてきて思い止まった。


男の手には拳銃が握られていた。


「・・・二人組か」


厄介だな、と内心思った。


二人組では一人を狙撃しても後の一人が残る。


そうなっては人質に危害が及ぶ。


『こういう時がフリーの痛い所だよな』


標的が二人以上なら仲間に狙撃をしてもらう事も可能だが、スコロピオンは一匹狼の暗殺者で組織にも属してない。


「さぁて、どうしたものか」


こういう時に自分の師匠ならどうする?


二人同時に狙撃するなど師匠なら糸も容易くやるだろう。


しかし、自分はまだまだ未熟。


悩んでいると師匠の言葉が蘇った。


『危険を冒さないで仕事をするのが一番だが、時には危険を冒さないと駄目だ』


「・・・・虎穴に入らずんば虎子を得られず、か」


虎の穴に入らなければ虎の子は得られない。


「・・・仕方ない」


スコロピオンはMSG-90を解体してトランクの中にしまうとビルから降りた。


『・・・・中に入って奴らを倒す』















スコロピオンはビルから降りると警察の目を掻い潜り通風口の中から侵入した。


暫くすると犯人たちの頭上まで来た。


上から除くと優奈以外の人質はハンカチや布で口を縛られて後ろ手に縛られていた。


『・・・・これなら何とかなるな』


幸いにも犯人たちがしたのか店の窓ガラスには家具類やカーテンなどで視界を遮られているから外からは見えない。


「・・・・・・・・・」


スコロピオンは小型ダガーを取り出した。


犯人の一人が優奈から離れたのを確認してスコロピオンは直ぐに行動を開始した。


勢いよく通風口を蹴破り落下すると同時に小型ダガーを犯人の肩と腕に一本ずつ命中させて武器を落とさせた。


間を置かずに腰からモーゼル・ミリタリーM712を二挺抜き犯人たちに向けた。


「・・・動くな」


犯人たちと人質たちは突如にスコロピオンに痛みも忘れて瞠目した。


「な、何もんだ?てめぇっ」


「名乗る者じゃない。そんな事より扉に移動して背を向けろ」


二人に命令する。


銃を向けられて抵抗できずに二人は扉に移動した。


「・・・・・・・・」


スコロピオンは一気に二人を扉に向けて蹴り上げた。


二人は扉に激突して勢いよく外に出た。


すると同時に警察が雪崩のように犯人たちを取り押さえた。


「・・・・・・・・・」


スコロピオンはちらりと優奈に視線を送った。


「あ、あなたは・・・・・」


優奈はスコロピオンの顔を見て指差した。


「・・・・俺の事は好きに言え」


短く言うとスコロピオンは素早く通風口に戻り姿を眩ませた。


後日、新聞にはスコロピオンの事は


“正体不明の男”


と乗せられていたが本人は素知らぬ顔でホテルから離れた高級フランス料理店で朝食を取っていた。



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