風の軍旗
「・・・・・さぁて、そろそろ戦も始まる頃だな」
周りを一望できる丘の上で進軍を開始している天界の天使軍を見下ろす軍団長は何所か楽しそうな表情をしていた。
元スリで禁固百年を言い渡された俺を救ってくれて仕事を与えてくれた恩人である軍団長。
今の俺の任務は軍団長、飛天夜叉王丸様の軍である“風の翼”のシンボルである軍旗を持つ役目だ。
大変な名誉ある役目であるが同時に死んでも軍旗を敵に渡してはならない重要な役目を担っている。
そんな大事な任務をスリごとき俺に与えてくれた軍団長は
『死にそうになったら旗を捨てて逃げろ。旗なんて直ぐに取り戻せるが命は取り戻せない』
旗よりも俺の身を案じてくれてた。
その言葉を聞いて俺は誓った。
どんな目に俺自身が死んでも、この旗は敵に渡さないと誓った。
この軍団の旗は黒い布に赤色の翼が書かれ左右に剣と槍がクロスしたデザインだ。
剣と槍は激しい攻撃を黒は気づかれずに隠密な行動を赤い翼は何者にも捕まらない位に早く行動を表わしている。
このデザインは軍団長の故郷である日本という国の武田信玄という武将の風林火山という言葉から頂いたらしい。
疾きこと風の如く、徐かなること林の如く、侵掠すること火の如く、動かざること山の如し、という言葉を軍団長が自身なりにアレンジしたらしい。
皆、この名前の意味を気に入っていて旗持ちの俺を羨ましがった。
俺も気に入っていて旗持ちを誇りに思っている。
「さぁてと・・・・・そろそろ行くか」
腰に差していた真紅の鞘に収まった刀を抜いた軍団長は黒の一角獣に跨った。
「これから天使軍の不意を突いて攻撃する。俺に続け!?」
剣を掲げる軍団長。
おおおおっ!?
他の奴らも各々の武器を抜いて雄叫びを上げた。
「掛れ!?」
刀を片手に軍団長は丘から敵陣に突っ込んだ。
俺を始めとする仲間も軍団長の後に続いた。
「あれは・・・・“風の翼”!!」
一人の天使が横から来た俺の持つ軍旗を見て戦慄の声を上げた。
軍団長の軍は天界にその名を大きく轟かせていた。
俺も軍旗持ちとしてその名を天界に知れている。
「風の翼、旗持ち!スコウ・フェンス!?一番乗り!!」
俺は左手に旗を持って剣を抜いて大声で名乗りを上げた。
軍団長の戦では自分の名を売るため大きく声を出したそうだ。
それに倣って俺も大きく声を出した。