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風の翼

夜叉王丸の軍団がまだ有名になっていないお話です。

「・・・・・・・・」


戦が終わり皆が宴会をする中で夜叉王丸はセブンスターを蒸しながら夜空を眺めていた。


「あっ、旦那っ。ここにいたんですか?」


ワインボトルを片手にゼオンが陣幕から出て来た。


「ゼオンか。宴は始まったばかりだろ?」


「主役の旦那がいないでどうするんですか?」


夜叉王丸の質問に当たり前のように答えるゼオン。


今夜の宴は天界の十二個ある都の一つを滅ぼした祝いの宴で主催者は地獄軍団の総司令官のバールと将軍のフォカロル。


どちらも上級悪魔で夜叉王丸の戦略、指揮官としての器などを高く評価している数少ない悪魔だ。


人間出身という事だけで不評価せずに真面目に評価してくれる為、偏屈者の夜叉王丸も好意的な態度を取り今回の宴に参加したのだ。


「ちっと考え事をしてたんだよ」


苦笑しながら紫煙を吐く夜叉王丸。


「考え事?」


「バール殿に言われたんだよ」


「『そろそろ軍の名前を付けては如何ですか?』ってな」


「軍の名前、ですか?」


言われてみてまだ、決まってないのを思い出した。


「あぁ。俺達もそこそこの手柄を立てたから名前を付けても良いだろうと」


そこそこと言って簡単に片付けられるような手柄ではないとゼオンは思った。


この男の上げた手柄はどれも他人が真似できるような手柄ではない。


そして誰よりも真っ先に敵陣に切り込み部下を思い労い大切にする男が何故、重役にも貴族にもなれないのか?


理由は元人間だからと言われたがそれを差し引いても何かしらの官職には付ける筈だとゼオンは思った。


いや、是非とも付いて欲しかった。


重罪人の自分を取り立てた上に戦死した仲間の墓を自分で掘って埋葬し泣く程の男が使い捨て軍の指揮官で終わって欲しくない。


もっと上の地位に付いて楽をして欲しかった。


「何か良い名前はないものか・・・・?」


ゼオンの思考に気付かず夜叉王丸は名前を考えるのに夢中だった。


「んー、いざ考えると中々思いつかないな?」


頭を抱える夜叉王丸にゼオンは苦笑した。


「旦那も悩む時があるんですね」


「あ?俺が悩むのが可笑しいのか?」


「いえいえ」


「あー、良い名が思い付かないー」


「まぁ気長に考えましょう」


「この宴の中で考えると決めたんだ」


頑なに言う夜叉王丸。


「分かりました。俺も手伝いますよ」


「すまねぇな」


セブンスターを一本差し出す。


「頂戴します」


一本とって口に銜え魔術で火を点ける。


「どんな名が候補ですか?」


「それが一つも浮かんでない」


「まぁ、まだ宴は宵の口ですからゆっくりと考えましょうや」


隣に腰を下ろしながら笑いかける。


「旦那の家紋や紋章は何ですか?」


「紋章?」


「他の軍は家紋や紋章から名前にしていますが?」


「俺の家紋も紋章も無いな」


「え?」


それは変だと思うゼオン。


どの家にも家紋や紋章はある。


「旦那が人間出身でも家紋や紋章はある筈ですよ」


「んー、ベルゼブルとサタン様が自分達のを使えって言われた事はあるんだよな」


皇帝の養子でもある男なら使っても変ではない。


むしろ当たり前だと思う。


「しかし、この軍は俺の軍だから自分だけの名前や紋章にしたいんだよな」


「子供染みた理由ですね」


笑いが漏れてしまう。


だが、そんな所もゼオンは面白くて好きだった。


「まぁな。何か良い名は無いものか」


吸い終えた煙草を捨て新しい煙草を吸い始める夜叉王丸。


「んー、旦那の作戦は素早さが得手です。それに旦那の性格からしても風や空と言った捕らえる事が出来ない物の名前をしてはどうですか?」


この男が立てる作戦は以下に迅速に情報を掴み素早く弱点を突き被害を最小限に抑えるかに固執している。


更にこの男の性格は掴み所がなく自由奔放で気紛れだ。


その事を考えれば空や風の名前を付けるのが妥当だと思った。


「・・・・・・・・・」


考えているのか男は無言だった。


「・・・・・・・・・」


暫らく待っていると大きな風が吹き何処からともなく一枚の漆黒の鴉の羽が舞い落ちて来た。


「・・・・・風と羽」


ぽつりと呟く夜叉王丸。


「・・・・風の翼」


「風の翼?」


夜叉王丸の呟いた言葉に首を傾げるゼオン。


「風の翼って言う軍名はどうだ?」


「風の翼・・・・・・良い名前ですね」


この男の軍の名にぴったりだ。


「よしっ。今からこの軍は風の翼と名づける」


満足気に笑う夜叉王丸の顔は子供のように輝いていた。


「では、この事を他の奴らにも言いましょうか」


「あぁ。気に入ってくれると良いんだが・・・・・・」


苦笑しながら歩き出す夜叉王丸の背中にゼオンは


『旦那が悩んで付けた名前です。きっと気に入りますよ』


小さく呟いて自分が忠誠を誓う男の後を追った。


これが天界の軍団を恐れさせた飛天夜叉王丸男爵の軍団、風の翼の誕生とはまだ誰も知らない。


次回はまだ分かりませんが、二十四人の妻達の誰かを書きます。

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