ひな祭り
三月に因んで雛祭りを題材に書きました。
三月三日、ひな祭り。
女の子にとってはヴァレンタインの次に大きなイベントだろう。
しかし、西洋の魔界では雛祭りという祭りは存在しなかった。
だが、魔界にある飛天夜叉王丸の屋敷では雛祭りが開かれていた。
『あかりをつけましょ ぼんぼりに おはなをあげましょ もものはな ごにんばやしの ふえたいこ きょうはたのしい ひなまつり』
雛衣装に身を包んだジャンヌの流れるような歌声を聴きながら内裏姿に身を包んだ夜叉王丸は静かに酒を飲んでいた。
空になった杯に酒を注ぐ玉藻の衣装も雛衣装で琴を、竜笛、琵琶、鼓を演奏する月黄泉、龍星姫、白明天も雛衣装であり音楽に合わせて舞を舞う緋夜、黒闇天、摩利支天も雛衣装だった。
否、その場にいる夜叉王丸の妻、全二十六人が雛衣装に身を包んでいた。
何故、皆が雛衣装に身を包んでいるのかというと、今日は雛祭り。
である事から夜叉王丸が日頃から世話になっている妻達に
『今日は雛祭りだ。何か願い事を言ってみろ』
と言ったため妻達は口を揃えて
『じゃあ、雛祭りをしましょう』
と全員が言って今に至る。
因みに屋敷に仕える多種族の使用人達も皆、官女(女中)、五人囃子(楽人)、随身(武官)の姿になり雛祭りを楽しんでいた。
相棒ダハーカ、忠狼フェンリル、執事ヨルムンガルド、弟子スコロピオンは随身の姿に身を包み片隅で談笑し義弟のゼオンとティナも雛衣装に身を包み二人で酒を飲んでいた。
「・・・・・幸せそうな顔ね。飛天」
玉藻が酒を飲む夜叉王丸を見ながら小さく笑った。
「こんな綺麗な女達に囲まれて幸せじゃないなんて言う男がいたらお目に掛かりたいな」
そんな冗談を言う夜叉王丸に妻達は微笑んだ。
「随分とお口が達者ですね」
スクルドが玉藻の反対側から擦り寄りながら耳元で囁いた。
「そうか?俺は本当の事を言っただけだぞ」
スクルドの水色の髪を撫でると気持ち良さそうな表情をするスクルド。
「酒の手が止まってるわよ。飛天」
少し怒った口調で玉藻が肘で突っ突いてきた。
「飛天様、私の舞を見てください」
「鳥娘の舞よりも妾の琴の音色を聞いてたもれ」
「そこな二人よりも童の踊りを堪能しろ」
「いえいえ。私の琵琶を・・・・・・・・・・」
「いや。私の料理を・・・・・・・・」
などと二十六人の妻が各々そろって夜叉王丸にアピールを始めてきた。
「やれやれ。今年も騒がしいな」
ダハーカがため息を吐きながら酒を飲んだ。
「年寄り臭い発言ですね。ダハーカのおっさん」
和服には不釣り合いな赤ワインを飲みながらスコロピオンが笑った。
「うるせぇぞ。餓鬼」
ボカッとスコロピオンの頭を殴るダハーカ。
「痛ッ。そんな殴らないで下さいよ」
頭を抑えて怒るスコロピオン。
「俺を年寄り扱いするのが悪いんだよ」
再びスコロピオンの頭を殴るダハーカ。
「やれやれ。騒がしいのはどっちも同じだな」
アメリカン・スピリットに火を点けながらフェンリルは愚痴を溢した。
「仕方ありませんよ。兄さん」
苦笑しながら答えるヨルムンガルド。
「相変わらず旦那の家族は賑やかだな」
「えぇ。羨ましいわ」
そんな騒がしい夜叉王丸一家とは違い和やかな雰囲気を出しながら新婚夫婦空気を出すゼオン、ティナ夫婦。
そんな騒がしい一家を楽しんでいるかのように春風が静かに流れた。
ゴチャゴチャしてすいません。流石に二十六人の妻は多すぎだと思っています。