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監禁二

ガブリエルの回想が入っています。

「・・・・てん、飛天」


耳元で自分の名を呼ぶ声がして夜叉王丸は目を覚ました。


「・・・・気が付いた?」


ラファエルが泣きそうな顔で自分の顔を見ていると暫らくして理解した。


「・・・・そうか。気を失ったんだな」


冷静に思い出してラファエルから視線を避けるように窓を見た外は夜で真っ暗だった。


「無理に動いたせいで塞がり掛けた傷が開いたわ」


そっと夜叉王丸の額に手を伸ばした。その手はまた拒絶されるのではないかと怯えで震えていた。


「・・・・・・・」


左目でちらりと見たが黙ってラファエルの好きにさせた。


「・・・・熱は下がったわね」


拒絶されなかったのに安堵の息を漏らすラファエルを夜叉王丸は口の端を吊り上げて笑った。


「くっ・・・・・身動きも取れない悪魔に怯えるとなんて悪霊退治で名高いラファエルの名が泣くぞ」


「・・・そうね。私みたいな天使が悪霊退治の筆頭なんて情けないわね」


自嘲気味に笑うラファエルに夜叉王丸は顔を動かしてラファエルの顔を凝視した。


「・・・・・泣いていたのか」


ラファエルの瞼が赤くなっているのを見て泣いていたと確信する夜叉王丸。


「えぇ。貴方がこのまま目覚めないのでは?なんて思って泣いたのよ」


「可笑しいでしょ?天使が悪魔が死ぬのを悲しんで泣くなんて?」


「あぁ。可笑しいね。宿敵の天使が悪魔の死を悲しむなんて何処の伽話にも無いぞ」


けたけたと笑う夜叉王丸。


「・・・・・・貴方が地獄に堕ちて悪魔になっても・・・・・・・・好きなんだから」


ぽつりと言葉を漏らすラファエル。


「・・・・俺はこの手で八つ裂きにしたい位、お前が大嫌いだ」


嘲笑うようにラファエルを見る夜叉王丸。


「お前が・・・・・・・お前らの信者が俺の幸せを壊したんだ」


「・・・・・・ッ!!」


ラファエルは我慢できずに部屋を飛び出るように出て行った。


「・・・・・・・ちっ」


残された夜叉王丸は後味の悪さで舌打ちをした。













宮殿の噴水がある中庭まで走り続けたラファエルはその場で蹲るようにして泣いた。


哀しかった。


彼が怨んでいるのは解っていた。


それなのに、自分の心の中に押し込めていた彼に対する欲望が言葉になって出てしまった。


解っていたのだ。


自分と彼とは決して相容れない関係なのだと。


・・・・・・・・天使と悪魔。


自分は悪霊退治の筆頭で彼は皇帝の息子で自分を怨んでいる。


それでも彼に対する想う気持ちは変らない。


例え、彼に八つ裂きにされても自分は彼を怨んだりしない。


彼にした事は謝罪して済むものではない。


愛した大切な女を奪ったのだ。


彼は永遠に自分を許さないだろう。


それでも、例え、憎まれていても彼を愛する気持ちを潰す事は出来ないのだ。


ラファエルは泣き続けたが不意に只ならぬ気配を感じて顔を上げた。


「この気配は・・・・・・・・・」


神経を研ぎ澄ませると夜叉王丸の部屋から気配を感じた。


『飛天!!』


ラファエルは走り出した。
























「・・・・・・・・・・・・」


先程まで窓から見える三日月は曇り一つ無く輝いていたが急に曇りだした雲により隠れてしまった。


「・・・・俺に何か用か?」


部屋を覆った闇の中から現れたのは黄金のような金髪とは裏腹に妖しく光るラファエルが立っていた。


「・・・久し振りね。夜叉王丸」


「あぁ。三百年振りか?ガブリエル」


大天使、ガブリエル・・・・・黙示の天使、復活の天使、復讐の天使などの異名を取る天使だが、有名なのは受胎告知の天使として聖母マリアにイエス・キリストの妊娠を伝え神の左に座る事を許された天使でもありラファエルの古き友人でもある。


「お前が来たって事は俺の首でも斬りに来たか?」


自嘲気味に笑いながら夜叉王丸は目を閉じた。


「殺りたきゃ殺れ。今のお前なら俺を殺す事くらい出来るぞ」


「・・・誰が貴方を殺すと言ったの?」


「・・・・なに?」


閉じていた瞳を開けガブリエルを見る夜叉王丸。


「・・・・貴方を殺したりしないわ」


「それじゃどうするんだ?」


「・・・貴方の傷を癒しに来たのよ」


そっと夜叉王丸の身体に触れて気を送るガブリエル。


すると忽ち傷が癒えて治った。


「・・・どういう事で俺の傷を癒した?」


「・・・・貴方の十八番の気紛れとでも言えば良いかしら?」


「・・・気紛れ、か」


夜叉王丸は眉を顰めた。


この天使は何を考えているのか解らない。


夜叉王丸はこれまで多くの天使達と戦ってきた。


ある時は軍団同士でまたある時は決闘で・・・・・・・・・・・・・


天使達の王メタロン、神の炎ウリエル、神の慈悲レミエル、死天使サリエル、慈愛の天使ラファエル、復讐の天使ガブリエル。


皆、それぞれ個性豊かで強かったが同時に尊敬できる相手もいた。


しかし、このガブリエルは何を考えているのか解らない。


「強いて言うならラファエルが敵将を隠していると情報が入ったから、サリエルよりも先に来たのよ」


「・・・・・・・!!」


サリエルと名を聞いた途端に夜叉王丸の全身から殺気が出た。


「きゃあ!!」


ガブリエルは油断して弾き飛ばされそうになったが腕が伸びて来て首を掴まれた。


「・・・・あいつが来るのか?」


メキメキと首を締め上げる夜叉王丸。


「ぐっ・・・・・・は、放して・・・・・・」


「なら、答えろ」


「こ、来ないわ。サリエルは、メタロンが足止めしてるから」


「ちっ・・・・・・・余計な事を」


あっさりとガブリエルを解放する夜叉王丸。


「ごほっ、ごほっ、ごほっ」


ガブリエルは首筋を抑えながら咳き込んだ。


「・・・・・サリエル」


夜叉王丸は眼帯をしている右目を右手で抑えた。


「・・・・・今度、会ったら八つ裂きにして喰ってやる」


激しい怒りを露わにする夜叉王丸をガブリエルは哀れみの表情で見ていた。


ラファエルの友人であるガブリエルは夜叉王丸の過去を知っている。


「・・・・・・傷を癒してくれて、感謝する」


ガブリエルに頭を下げる夜叉王丸。


「・・・行くの?」


「傷が治ったんだ。ここに居る理由は無い」


それだけ言うと夜叉王丸は背中から漆黒の鴉の翼を出して窓から飛んで行った。


「・・・・・無事で帰るのよ。私の愛しい男」


夜叉王丸の後ろ姿を見てガブリエルはぽつりと言った。















「・・・・・・飛天っ!?」


ラファエルが部屋に来た時には誰も居らず漆黒の鴉の羽が散乱しているだけだった。


「・・・・・・・・」


ラファエルは黙って部屋の中に入ると鴉の羽を一枚摘んだ。


「・・・・・・飛天」


ラファエルは暫らく羽を握り締めていたが身体を動かし背後を振り返った。


「・・・どういう事か説明して。ガブリエルッ」


キッと睨んだ先にはガブリエルが静かに立っていた。


「・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・」


暫らくの間、二人は無言で見詰め合っていた。
















「・・・・・・ん?あれは?」


ラファエルの都から離れた森林の上を飛んでいると何かが飛んで来るのが分かった。


「・・・・・・ダハーカじゃねぇか」


目を細めて見ると相棒で軍団の奇襲部隊長を務めるダハーカだった。


「よぉ。ダハーカ」


片手を振り陽気に笑う夜叉王丸にダハーカは凄まじい速さで近付き抱き締めた。


「飛天!無事だったか?大丈夫か?心配したんだぞ!?おぉう!!」


「放せ!暑苦しい!!」


夜叉王丸はダハーカの左頬に拳を打ち込んだ。


「ぐほぉ!!」


ダハーカは下に急降下して下から見上げていたフェンリルの上に落ちた。


「酷いぞ!飛天!?」


「酷いのはお前だ!この老いぼれドラゴン!?」


ダハーカの下で暴れながら怒鳴るフェンリル。


そんな二人を唖然として軍団は見ていた。


それから暫くしてゼオンとヨルムンガルドも追い付いてきた。


「先ずは無事でよかったです。旦那」


副長のゼオンが代表して夜叉王丸の無事を喜んだ。


「お前らには心配を掛けて悪かった」


頭を下げる夜叉王丸。


「さぁ後は仕返しと行こうぜ」


ダハーカが兵士達に賛同を持ち掛けたが夜叉王丸が止めに入った。


「それは次の機会にしてくれ」


これには皆が驚いたが


「傷が癒えてないから癒えてから攻めたいんだよ」


この言葉に皆は納得し兵士達は背を向けて来た道を戻り始めた。


しかしダハーカだけは夜叉王丸の様子に気が付いた。


「何か合ったな?」


ジョーカーを夜叉王丸に渡しながら尋ねるダハーカ。


「やっぱりお前には分かるか?」


「伊達に相棒を長年してねぇよ」


「ふっ、年の功ってやつか?」


苦笑しながら夜叉王丸はダハーカに真実を話した。


「・・・・・成る程。お前らしいな」


漆黒の闇を見ながらダハーカは納得した。


「あぁ。命を助けたのに直ぐに仇で返すのは嫌いだからな」


「すまないな。手間をかかせて」


「気にするな」


「・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・」


それだけ言うと二人も軍団の後を追って夜空の空を飛んだ。













「・・・・・・・」


自分の都に戻ったガブリエルは部下が用意した濡れたタオルで真っ赤に腫れ上がった左頬を冷やした。


数時間前にラファエルに打たれたのだ。


避けられたが避けなかった。


これはラファエルに対する罪の証。


友人が好きな相手を好きになってしまった罪の証。


ガブリエルが初めて彼と会ったのは地獄だった。


恋人の復讐を決意する瞳の強さと悲観に心を動かされて悪魔にした。


ラファエルから非難されたが、復讐の手助けをする自分には仕事としか取れなかった。


復讐の天使・・・・・ガブリエルの裏の異名。


聖母マリアに受胎の告知をした事が有名だが、怨みを持つ者に力を貸す事でもガブリエルは有名だった。


例え、自分の信者だろうが復讐する者には力を貸した。


否、むしろ復讐の手助けをしたかった。


復讐の手伝いでも彼と少しでも力になれて一緒に居られるなら何でも良かった。


その事を話したらラファエルの平手打ちだ。


友人を裏切るような行為に罪悪感は感じたが、それも直ぐに消えた。


・・・・・・・好きな相手を想う気持ちは変える事も消す事も出来ないから。


「・・・・貴方は、今、何処に居るのかしらね?・・・・・・・飛天」


ガブリエルは窓から見える月を見上げながら愛する男の名前を呼んだ。



少しドロドロしてました。

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