ヴァレンタイン
今回はジャンヌを主人公にしました。
ヴァレンタイン・・・・・・好きな男性にチョコを渡す女性には大切な日だが、キリスト教の宿敵である魔界の者たちには関係ない事であると思われがちだが、実際はそうではなかった。
魔界でもチョコを好きな男性に渡そうと何処の店も家も戦場であった。
ここ魔界の英雄、飛天夜叉王丸男爵の屋敷も例外ではなく二十数人の妻たちがキッチンでごっ互いしていた。
「・・・・・できた」
綺麗にハート型に模られたチョコレートにホワイトクリームで名前を書いて仕上げた自信作を見ながら夜叉王丸の妻、ジャンヌは誇らしげに笑った。
ジャンヌは二十数人の妻たちの中で一番、夜叉王丸との夫婦生活が長く初めてチョコを送った人物でもある。
今年も夜叉王丸にチョコを手作りで送ろうと朝から作っていたのだ。
今年のチョコは苦さと甘さをブレンドしたチョコ。
夜叉王丸は苦いのを好まず甘いのを好むために作ったチョコレート。
嬉々した様子でジャンヌは夜叉王丸のいる広間に向かった。
広間に行くと一人で読書をする夜叉王丸がいた。
「・・・・飛天様」
「ん?ジャンヌ、どうかしたのか?」
読んでいた本はハーマン・メルヴィルの長編小説、白鯨だった。
「読書中の所、すいません」
丁寧な物腰で謝る姿はメイド姿だったが気品に溢れていた。
「いや、別に休憩する所だったから良い」
気軽に笑いながら夜叉王丸は本にしおりを挟み本を閉じた。
「え、と、実は・・・・・・」
「ヴァレンタインだろ?」
口ごもるジャンヌに夜叉王丸は本題を切り出した。
「やっぱり分かりましたか?」
「お前と何年、一緒に過ごしてると思うんだ?」
ニヤリと人の悪い笑みを浮かべる夫にジャンヌは苦笑して持っていた紙に包んだチョコを渡した。
「今年のチョコも手作りか?」
「はい。嫌でしたか?」
「いや、お前の作った物なら劇薬入りでも食べるさ」
そんな事を言いながら丁寧に紙を解く。
「私も飛天様から送られた物なら劇薬でも食べます」
些か危ないような事を言いながらジャンヌも笑った。
チョコを取り出すと半分にして片方をジャンヌに渡した。
毎年の行為で二人の愛は一緒に分かち合うという行為。
「ありがとうございます」
渡されたチョコを受け取り一口、食べた。
「ホワイトデーを楽しみにしてろよ」
「はい」
美味しそうにチョコを食べる夫の姿を見ながらジャンヌは微笑んだ。
ヴァレンタインまでに全員のバージョンを書こうと思います。