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監禁

長編で二部、三部くらい続くかもしれません。

「・・・・・ふん。今日はこれ位にしてやる」


拷問官は血を流しぐったりとする夜叉王丸にウォッカを掛けて部屋を出た。


「・・・・・・・・」


夜叉王丸は血を流す上半身を見ながら力無く笑みを零した。


『俺も、悪運が強いな』


夜叉王丸はサタナエル、ヘルブライ男爵に裏切られ天界の軍団に捕縛され拷問を受けていた。


拷問は昼夜を問わず三日連続で行われ鞭で叩かれ傷口に唐辛子や塩を塗られた上に焼いた鉄槍で身体を数ヶ所を刺された。


こんな拷問を夜叉王丸は一週間も耐えていた。


・・・・・・・・・しかし


『血が、止まらねぇ』


夜叉王丸は意識が朦朧としていた。


大量の出血と疲労により体力は限界だった。


『・・・・・俺の命も、終わりか?』


それも悪くないと夜叉王丸は思った。


そんな事を思っていると声が聞こえてきた。


「・・・・・って、お・・・・・下さいっ」


「・・・・・わないわ」


『・・・・・誰だ?』


声の内、一人はさっきの拷問官だ。


もう一人の声は女性の声だった。


何処かで聞いた事がある。


段々、近づいてきて錆び付いたドアが開かれ光が入って来た。


『・・・・・お前は・・・・・・・・』


中に入って来た人物を薄れ行く意識の中で夜叉王丸は人物の名を呼んだ。


・・・・・ラファエル。













「・・・・・くそたれがっ!?」


ゼオンは力任せにテーブルを叩いた。


「・・・・・煩いぞ」


ジョーカーを吸いながらダハーカはゼオンを戒めた。


「よく煙草なんて吸えるな?ダハーカっ」


ゼオンはダハーカの胸倉を掴んだ。


「旦那が敵の捕虜になってるのによく冷静でいられるな?!」


「・・・・・何だと?」


ダハーカはゼオンの胸倉を逆に掴み掛かった。


「ぐっ・・・・・」


ゼオンは壁に押し付けられた。


「お前が癇癪を起こすのは勝手だ」


「だがな、今は黙ってヨルムとフェンの帰りを待っていろ」


現在、ゼオンとダハーカは夜叉王丸が使っていた王宮の一室でヨルムンガルドとフェンリルの帰りを待っていた。


捕虜になった夜叉王丸を救出しようとベルゼブル達に交渉しているのだ。


「お前は飛天の舎弟だろ?軍団の副長だろ?」


ゼオンの翡翠の両目を真っ直ぐに爬虫類独特の瞳で見た。


「副長がしっかりしないでどうする?しっかりしろ!?」


「・・・・・・・すまなかった」


ゼオンは力無く手を離すと溜め息を吐いた。


「そうだよな。旦那がいないからこそ俺がしっかりしないとな」


「心配するな。あいつが簡単に死ぬ奴かよ」


励ますように喋るダハーカだが沈痛な表情だった。


『・・・・・無事に帰って来てくれよ。飛天』













『・・・・・・ここは何処だ?』


温かい暖炉、身体に巻かれた包帯。


『どうやら拷問部屋ではないようだな』


身体を起き上がらせようとしたが怪我の為か起き上がれなかった。


「・・・・・気が着いたのね」


声の方を見ると上品な薄白のドレスに身を包んだ足元まで伸ばした茶髪を惜しみもなく晒した二十五、六歳の女性が立っていた。


「・・・・・お前の部屋か。なら嫌に胸糞悪い臭いも納得できる」


皮肉な笑みを浮かべる夜叉王丸に女性は悲しそうに顔を歪めた。


「・・・・・ここは私が個人的に使用している部屋だから誰も来ないわ」


直ぐに表情を元に戻し部屋に入って来た。


「ふん。敵将にこんな真似して良いのか?大天使ラファエル殿?」


大天使ラファエル・・・・・・・・七第天使に数えられる慈愛と悪霊退治を生業とする天使で悪魔にとっては天敵とも言える。


「・・・・・ここは私が治める都。貴方をどうするのも私の思うがままよ」


夜叉王丸の皮肉たっぷりの言葉にもラファエルは真面目に答えた。


「相変わらずお固い性格だな」


面白くなさそうに天井を見上げる夜叉王丸。


「・・・・・それで俺をどうする?殺すか?」


「いいえ。貴方は地獄帝国に返します」


これには少し驚いた表情をする夜叉王丸。


「どういう理由だ?」


「・・・・・・・・」


「・・・・・まぁ良い。お前の好きにしろ」


無言のラファエルから視線を逸らし呟く夜叉王丸。


「・・・・・食事の用意をしてくるわ」


ラファエルは早口に言うと部屋を出て行った。


後に残された夜叉王丸は窓から揺れる葉っぱを黙って見ていた。













「・・・・・分かった。救出の許可を出そう」


畏まるヨルムンガルドとフェンリルにベルゼブルは静かに命令を発した。


「ありがとうございます」


ヨルムンガルドは頭を垂れた。


「ふんっ。あんな下衆な主人の為によくやるな」


サタナエルが品の無い笑みを浮かべた。


「・・・・・味方を捨てて逃げる大将より我が身を犠牲にして味方を逃がした主人の方がましだ」


フェンリルが金色の瞳でサタナエルを睨んだ。


夜叉王丸が捕虜になる前に起きた戦で少人数の敵に油断したサタナエルは深追いをして敵の戦略に嵌り味方に大打撃を受けた。


これに怯んだサタナエルと上層部はさっさと部下を見捨て瞬間魔法で逃げ後に残された兵達の命を護る為に夜叉王丸は一人で軍団と交渉し捕虜になり兵達の命を救った。


これにゼオン達は激しく反対したが結局は夜叉王丸の意見を受け入れた。


直ぐに魔界に戻ると事の説明をして夜叉王丸の救出に兵を挙げろとベルゼブル達に進言しようとしたがサタナエルが手回しをして城の中に入る事が出来なかった。


これに激怒した兵達はゼオン達と一緒に三日間、城の門の前で座って抗議してやっと今日の昼に目通りを許された。


このような傾向もあった事からフェンリルが怒るのも無理はなかった。


「ッ!!貴様、無礼だぞ!!」


「無礼で結構だ!!てめえみたいな無能者のせいで俺の主人は捕虜になったんだ!!それを救出しようともしない奴に無礼も糞もあるか!?」


我慢していた鬱憤うっぷんを吐き出すように怒鳴り声を上げて語るフェンリルの声で窓ガラスが震えた。


「なにを・・・・・・・・!?」


サタナエルが剣に手を掛けた。


「殺る気か?いいぜ。てめえみたいな臆病者に俺が斬れるならな!!」


全身の毛を逆立たせて牙と爪を剥き出しにするフェンリル。


「止せ。サタナエル」


静かな有無を言わせない口調でサタンが二人の間に入った。


「フェンリルの言葉は的を射ている。大将が兵を置いて逃げるなど言語道断」


ジロリとサタナエルを睨むサタン。


「し、しかし、父上っ」


「言い訳は無用だ。部屋に戻れ」


「・・・・失礼しました」


苦虫を噛み潰した顔をしてサタナエルは退室した。


「我が愚息のせいで主らの主人が窮地に立たされてすまないな」


未だに殺気立つフェンリルに頭を下げるサタン。


「・・・サタン様が逃げた訳ではありませんので結構です」


ヨルムンガルドの表情は無表情だったが刺があった。


その瞳は怒りの炎が見え隠れして感情を露わにするフェンリルよりも末恐ろしかった。


その場にいたビレト、ザパン、フォカロル、バールはこの二人の怒りが嫌でも分かった。


大切な主人が手足を縛られて引き摺られる姿をただ指を銜えたまま見ている程、従者として屈辱的な事はない。


「きゅ・・・・・」


「救出は私達だけでやりますので何もしないで結構です」


ベルゼブルが口を開こうとしたが遮るようにヨルムンガルドが早口に言った。


「主人は私達が救出してみせます。陛下達の兵など一兵も要りません」


それは意地でもありあんな愚将を野放しにする地獄騎士団への不快感と疑惑で力など借りたくない気持ちだった。


「・・・・・失礼しました」


一礼してヨルムンガルドとフェンリルは部屋を退室し後に残ったベルゼブル達は何も言えなかった。













『・・・・・ここは?』


辺りを見回すと何も無い場所だった。


『・・・・・あれは・・・・・・・神流!!』


ぽうっと光に包まれて現れたのは生前に非業の死を遂げた神流だった。


『神流!!』


夜叉王丸は神流に走り寄ると力一杯に抱き締めた。


『神流っ。もう離さないからな』


涙を流しながら神流を抱き締めたが神流の身体が煙となり消えた。


『神流?神流!?』


必死に神流を探したが見つからなかった。


『何処に行ったんだ?!神流!?』


涙を流しながら夜叉王丸は神流を探し続けた。


「神流!?」


ばっと起き上がった夜叉王丸。


「・・・・・夢か」


辺りを見回しラファエルの部屋だと分かった。


「・・・・・ちっ。嫌な夢だぜ」


痛みに苦しみながらベッドから起き上がると窓まで近付くと窓を開けた。


窓から入って来た風は柔らかく傷を癒してくれた。


「・・・・・・・」


暫く風を浴びているとドアが開く音がした。


「食事を・・・・・・まだ起き上がっては駄目よ!」


窓に立つ夜叉王丸を見てラファエルは持っていた盆を落とすと慌てて夜叉王丸に走り寄った。


「・・・・・気安く俺に触るな」


パンッ


ラファエルの手を払った。


「・・・・・・・ッ」


ラファエルは一瞬だけ傷ついたように表情を歪めた。


しかし、直ぐに表情を引き締めた。


「貴方は怪我人よ。怪我人は大人しくしなさい」


「はっ。この俺に命令するんじゃねぇよ」


挑発する口調で言うと窓口に強く寄り掛かった。


その途端に全身に鋭い痛みが走った。


「・・・・・ぐっ」


「大丈夫っ」


直ぐにラファエルが身体に触れようとした。


「俺に、触るな・・・・・・ッ!!」


再び腕を振り払おうとするも力が入らずに床に身体ごと倒れた。


「飛天っ!!」


ラファエルの悲鳴のような声が響き渡って夜叉王丸は意識を失った。













「どうだった?」


夜叉王丸の部屋に戻ると灰皿から溢れ出したジョーカーの山に新たに吸い終えたジョーカーを押し付け尋ねるダハーカ。


「救出の許しが得ました」


「よしっ。なら行こうぜ」


自分の骨などで作った魔剣、破滅の序曲を腰に差し立ち上がるダハーカ。


「ゼオンは?」


「あいつなら外で待ってる」


城の外に出ると完全装備に身を包んだ夜叉王丸軍団と命を助けられた兵が待っていた。


「飛天を助ける為に集まってくれた」


ダハーカが笑いながら言った。


「おっ、ヨルム。その様子だと旦那の救出の許しは出たんだな?」


「えぇ。出ましたよ」


「よぉし。てめぇら!!皇帝の許しが出た!?もう歯痒くする必要は無い!!俺達の手で飛天夜叉王丸殿を助けに行くぞ!?」


夜叉王丸が作った紅月、蒼月を天に掲げるゼオン。


「おぉぉ!?」


軍団は槍や剣、弓などを天に掲げて一斉に遠吠えを上げた。


『・・・・・これだけ部下に好かれてる奴は何処にもいねぇだろうよ』ダハーカも破滅の序曲を抜いて天に掲げた。


「さぁ、我らの大将を天界の豚共の手から取り返すぞ!?」


黒と紫の蝙蝠翼を出して飛び上がるダハーカに続くようにワイバーンに乗った奇襲隊が飛び上がった。


「おいおい。斬り込み隊長を差し置いて先頭を切るなよ」


フェンリルが遠吠えを上げると軽鎧に身を包んだ斬り込み部隊が走り出した。


それからは我さきにと他の部隊も走り出した。


「・・・・皆、元気がありますね」


「当たり前だ。自分が一番乗りするんだと言ってたんだからな」


黒い一角獣に乗りながらゼオンとヨルムンガルドは笑っていた。


「さて、私達も行きますか?」


「あぁ。行こうぜ?参謀殿」


二人も軍団に追いつく様に一角獣を走らせた。


その姿を城の一室から見ていた人物がいた。


夜叉王丸の養父であり地獄帝国皇帝で七つの大罪、暴食を司る蝿王、ベルゼブルだった。


「・・・・・・・・・」


暫らく見ていたが不意に後ろを振り返ると控えていたビレト、ザパンを見た。


「ヨルムは助けは必要ないと言ったが、飛天は俺の大切な息子だ。ビレト、ザパン」


「「はっ」」


「近衛兵を連れて飛天の救出に向かえ。あの者達を無駄死にさせてはならん」


「「御意」」


二人は頷くと静かに部屋を後にした。


「・・・・・・息子の命を救う事も出来ない皇帝などただの飾りだな」


自嘲気味な笑みを浮かべたベルゼブルは書斎の机に拳を振り落とした。


机は真っ二つに折れて惨めな姿を晒した。


「・・・・・・・・・・」


机に見向きもせずにベルゼブルは部屋の家具類を片っ端から壊し始めた。


暫らくの間、ベルゼブルの部屋の中では物が壊れる音が響き渡った。






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