精神統一と新しい相棒
今回はゼオンを主人公に書きました。
俺は一人で山に篭り滝に打たれていた。
俺がいるのは平安時代の京都にある名も無き小さな山。
何故、平安時代の京都の山に居るのかと言うと俺の主人、飛天夜叉王丸(通称:旦那)に頼んで連れて行って貰ったのだ。
前の戦で俺の剣が木っ端微塵に砕け散ってしまったのだ。
しかも俺自身の精神が乱れていると敵に指摘されておまけに敵の勝ち逃げという大敗北を俺は味わったのだ。
その事を旦那に尋ねたら
『・・・・・ふむ。精神が乱れているねぇー。なら、俺の国の独自な精神修行でもやるか?』
そう言われて俺の答えは勿論OKだ。
あいつに再び挑み勝てるなら何でもしてやる!?
そして平安時代に連れて行って貰い俺は滝に打たれていた。
旦那が言うには滝打ちは精神統一には一番らしい。
旦那もさっきまで滝に打たれていたがダハーカの馬鹿が都で女を口説きまわっていると聞き仕置きに行ったのだ。
そして俺は一人残って滝に打たれているのだ。
しかし、この滝打ちに本当に意味があるのだろうか?
「おや?これは珍しい方がいるなー」
声の方向を見ると雲水姿に身を包んだ坊主が笑って立っていた。
「お前さん、人間じゃないね?」
俺の姿を見破るとは退魔師か魔術師か?
「だったら何だ?俺を殺すか?」
「いやいや、お前さんからは悪さをする気配が無いから何もせんよ」
「所でお前さんは何で滝打ちなんぞ?」
「俺の主人が精神統一は滝打ちが良いと言ったからだ」
「お前さんの主人は中々の見所がある主人じゃな」
「・・・・・じゃが、お前さん。今のまま滝に打たれても精神修行には程遠いぞ」
なに?程遠いだと?
「じゃあどうすれば良いんだ?」
「そういうのは自分で道を開くものじゃが、少し手懸かりを教えて進ぜよう」
手懸かり?
「まずは己が心を無にする事じゃ」
「無?」
「左様。心を無にすれば自然と精神は統一するもの。先ずは己が欲望を捨てよ」
「欲望を捨てろって・・・・・・・・・・・・・・・厳しいな」
悪魔の俺に欲望を捨てろとか無理に等しいぞ。
「まぁ、気長に頑張る事じゃな」
言うだけ言うと坊主は去って行った。
「・・・・・・心を無にしろ、か」
滝に打たれながら俺は坊主が言った言葉を呟いた。
「なぁ、飛天」
「ん?何だ?」
「あの小僧、一人で大丈夫か?」
ダハーカは月を見上げ酒を飲みながら焼けた二本の鉄の棒を叩く夜叉王丸に尋ねた。
「その変は問題無い。あいつなら大丈夫だ」
「随分と言うじゃないか」
意外だと眼を見張るダハーカ。
「まぁな。あいつなら物に出来ると俺には分かる」
「ほぉう。なら、あいつが帰って来る前に新しい刀を二振り作らないとな」
「心配するな。奴との相性ばっちりの二本を作り上げてみせる」
口元を耳まで裂けた笑みを浮かべる夜叉王丸にダハーカは一瞬だけ震えた。
『くっ、この俺を震え上がらせるとはな』
ダハーカは曇り一つ無く輝く月を見上げ一気に酒を飲んだ。
それから三ヶ月が過ぎた。
「どうだ?出来栄えは?」
「あぁ。重さ、切れ味、安定さ、全て奴の身体に合った刀だ」
紅蓮色に輝く太刀と白氷色に輝く太刀を見ながら満足気に笑う夜叉王丸。
「ほぉう。触れるだけで腕を斬られそうだ」
わざと身震いするダハーカ。
「さてと、そろそろゼオンの所に行くか」
二本の太刀を鞘に収めて夜叉王丸とダハーカは山に向かった。
山に行くと全身びしょ濡れのゼオンが道端で待っていた。
「あっ、旦那」
「精神統一はどうだった?」
「欲望を捨てるのに苦労しました」
「だろうな。まぁ、その様子だと物に出来たようだな?」
「はい」
「こっちも出来たぞ」
鞘に収まった太刀をゼオンに向けて投げた。
「ありがとうございます」
一礼して鞘から抜くと熱気と寒気をゼオンは感じた。
「うわぁっ」
「煉獄の炎で焼いて氷狼の吐く息で凍らせて再び叩くのを三ヶ月続けて作った太刀だ」
「紅蓮色の太刀が紅月、白氷色が蒼月だ」
煙管を銜えながら肩を揉む夜叉王丸。
「その太刀なら簡単には折れない筈だから次にそいつと会った時は手加減無しで使って見ろ」
「ありがたく使わせて貰います」
ペコリと頭を下げて二本の太刀を腰に差すゼオン。
「さぁ、帰るぞ」
「はいっ」
夜叉王丸達はその場で魔界に通じる扉を開き魔界に帰還した。
そして次の戦の時にゼオンは前回敗北した敵と戦い左目を失うも見事に敵を倒しリベンジを終えた。
それからゼオンの愛刀、紅月と蒼月とその二本を操り夜叉王丸の軍団の副長を務める元罪人のゼオン・エルヴィン・ハンニバルの名は一躍有名になった。
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