プロローグ的な
始めて小説というものを書きました。拙く荒い文章ではありますが、もしよければ批評などを書いていただけると嬉しいです。
「おにいちゃん、ジョーゼフさん、頑張るのもいいけど三時のお菓子たべよーよ!」
小動物のような足音がコロコロと転がるようにこちらに近づいてくる。
「ハァ……ハァ……ん?もうそんな時間か」
イタクはハァと一息吐き、刃のない武骨な練習用の剣を傍らの切り株に立てかけてやると、ガチャガチャと仰々しい音を立てながら彼の妹、クーに一歩歩み寄った。
「おいおい、まだ私を倒してないのに剣を置くとは。もしかして棄権の合図か?」
「そもそも剣と鎧ってのが時代遅れなんですよ、今は銃と蒸気機関の時代です。魔戦時代じゃないんだから。」
イタクは重苦しい鎧を今にも外したいと言わんばかりに言った。
「こんな事をしても倒せるのは今は藻屑のニェーパランドの魔法使いだけですよ」
「おぉ、お前は魔女を倒せるのか!言うねぇ!」
ジョーゼフがニヤニヤと笑いながらイタクの横を通り過ぎると、その古傷だらけの指でひょいとクーの皿の上のクッキーを拾い上げそれを口に放り込んだ。
「ジョーゼフさん、クッキーおいしく焼けたと思うんですけどどうですか?」
「う~ん、いいねぇ!すごくおいしいよ!何か秘密でもあるのかい?」
クーはその小さな胸を一杯に貼りながら、ふふんと鼻を鳴らした。
「なんと!そのクッキーは、ジョーゼフさんの大好きなリンゴジャムが混ぜてあるんです!」
「おぉ、なんと!本当にクーはマメな子だな。いつかきっと素晴らしいお嫁さんになるぞ!」
いつものようにジョーゼフがわしわしとクーの頭を撫でてやると、クーは少し痛そうに顔をしかめつつも、きゃらきゃらと毬のように笑う。ひとしきり笑ったあと彼女はイタクの元に駆け寄ると、その大きな瞳でイタクを見上げた。
「はい、おにいちゃん。おにいちゃんの分はレーズンクッキーだよ。」
彼女はまるでこれが兄の好物だとさも知っているかのように、半分ほどに減ったジャムクッキーと「それ」をこちらに差し出した。
実を言うとイタクはレーズンが嫌いだった。別に昔から嫌いだったわけではない。
ある日イタクが裏山を歩いてるときにどうしようもなく腹が減ったイタクは道に落ちていたそれを拾い上げた。レーズンのような何か、黒いころんとした「それ」を口に入れると「それ」はレーズンには程遠い不気味な味がした。
イタクの頭にはもはや答えは出ていた。が、それを良くない思い込みだと、ただ痛んでいただけなのだと、なかば妄信に近い形で答えを振り払った。イタクが自らの馬鹿な考えに一人笑いながら道を行くと道にはてんてんと続く「それ」が転がっていた。「それ」の道をたどっていくと一匹の太った野兎にイタクは出会った。イタクが「あぁ、この辺はエサが豊富だからな、レーズンとか」などと考えていると、野兎はイタクの目の前でそのフワフワした尻から「それ」をひりだし、さして恥ずかしがる様子もなくその場から立ち去っていったのであった。
あの時のことを思い出すと胃酸が食道を登ってくるような気がするが気のせいだろう、そうだろう、と。やるせなさに襲われながらも涙を堪えるように胃液を押し戻すと、イタクは「それ」を一つ掴み上げた。
「いつもありがとうな、クー。可愛いよ。」
薄ら笑いを浮かべたまま固まっている兄を不思議に思いながらも、クーは兄の死に顔にその毬のような笑顔を手向けるのであった。