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虹の踊り子  作者: 魚の涙


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18/19

我々

 右腕に続いて左腕も粉砕する。

 私は待った。ひたすら待った。長い時間待ち続けた。

 私は何を待ったのか? それは指名手配犯が姿を現すまでだ。

「何だっ!?」

 両手を失った統治者が喚き散らしながら周囲へ視線を泳がせる。

「長い時間待ったよ。万年に届こうかと言う程長い時間だったよ、最後の国連総代」

 虹の踊り子の声が聞こえた。いつの間にか統治者の後ろに虹の踊り子が立っていた。

「貴様、警察機構の犬かっ!? 何故だ!? 貴様は今殺した筈だ!」

 間抜けな国連総代が私を見てそう叫ぶ。

 その足元には私、素体に虹の踊り子と呼ばれていた私が転がっている。

 その私は徐々に形状を失いつつあった。

 消滅こそが電基化魂魄の死だ。

「苦労したのよー。中々電基化魂魄の波長が合致する素体が現れなくてねえ。そうこうしている内にVRMMOに接続する人が減って、いっそ基本機構まで出張しようかと思っていた矢先にこの子が現れたのよ」

 虹の踊り子は統治者の背後で楽しそうにケタケタと笑う。

 その虹の踊り子を、何故か統治者は見ようとしない。

 顔に驚愕を張り付けて僕を見ている。何故だ?

「電基化魂魄レベルで融合なんぞ正気か!? 一度混ぜた魂魄はもう二度と分離出来ないのだぞ!?」

 知った事か。指名手配犯を逮捕出来るのならば私は死も厭わない。

「私を誰だと思っている? 私は警察機構の武装工作員だぞ?」

 私がそう言うと、国連総代は警察機構の犬めと吐き捨てた。

「私にとっては賛美賞賛の言葉だよそれは。何なら犬らしく喋ってやろうかワン?」

 虹の踊り子愉悦の表情を浮かべた。

 そして何と無く理解した。

 虹の踊り子はファーストの中に残ってはいなかったのだ。

 どうやったのかわ分からないがずっと僕の中に居たのだろう。

 素体がそんな疑問を思い浮かべたが、大して難しい事はしていないワン。

 ルカと名乗る電基化魂魄が所有していた保存パックに私を上書きしただけワン。

 そしてそこに転がっている私はルカを上書きした私と言う事ワン。

 そしてルカを上書きした私は思考を改竄した上で尖兵としたワン。

 僕の中に虹の踊り子の思考が割り込んで来た。

 否、これは割り込みでは無い。

 混ざり合っているのワン。

 虹の踊り子が僕で。

 ヤヤが私と言う訳だワン。

 ……その語尾止めてくれないだろうか?

 ……私もちょっとこれはないかなと思い始めた所ね。

「それでは万年越しの仕事だ。国際法に死刑は無い。けど、指名手配犯には捕殺が許可されている」

 国連総代が逃げようと電基化魂魄を転送しようとするが、僕はそれを防いだ。

 逃走を阻止された国連総代が私に向かって攻性情報を転送して来るが、無駄な足掻きでしかない。

「くそっ! 折角、もう少しで復活出来たのに!」 

 僕と私は交じり合っている関係で、処理能力は通常の二倍あるのだ。

 国連総代の攪乱や攻撃を真っ向から処理して尚拘束は揺るがない。

「発電施設の中に隠れていたのは良い手だったと思うわ」

 発電施設のネットワークは少し特殊な造りになっている。

 生態系の基盤となる施設なのだから、ファイアウォールの強度も複雑さも並みのそれではない。

「でもねえ、どんなに強固なプロテクトだって必ず突破出来るのよ? 時間を掛ければね」

 我々の前に国連総代が出来る事は無い。

 これ以上の発言も許可されない。

「国際法十九条十二項により、国際指名手配犯の捕殺を行います」

 国連総代の電基化魂魄へ情報圧を掛ける。

 流石に万年生きた電基化魂魄なだけはあって、途轍もない抵抗を感じる。

 それも数秒の事だ。

 我々の前で国連総代の電基化魂魄が崩壊して行く。

 電基化魂魄を魂魄へと戻す方法は存在しない。

 故に、これは国連総代の完全な死を意味する。

 断末魔は観測されなかった。

 崩壊する国連総代は外部へ情報を出力する方法を所持していない。

 我々の中で僕の残滓があっけない結末に物足りなさを感じたが、我々の中で私の残滓がそれに反論する。

 あっけなくは無い。何せ万年越しの決着なのだ。

 国連総代によって警察機構を壊滅させられてから、一万五千二百三十七年八か月十五日と約十一時間が経過している。

 我々の中で私の残滓が清々しい達成感を得て、それは僕の残滓にも電波する。

 とても爽快である反面、私の残滓は空虚を感じていた。

 これから何をするべきか。否、する事は無いのだから。

 その感情に対して、僕の残滓が意見する。

 僕が居る。否、既に僕と私は同じ存在なのだ。

 そう、我々は万年存在していた一方で極最近発生したのだ。

 私の残滓は思う。それも悪くない。

 僕の残滓は思う。それがいいよと。

「まあ取り敢えず」

 だからそれは僕の考えであり私の考えである。

「人類をある程度復活させようか?」

 我々の延命の為にね。

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