エロ猫の、猫パンチ!
私は空高く射出されて目の前が真っ暗になったのを覚えている。
「ぎゃあああああああああああああ」
だから私は悲鳴を上げたのだが、気がつくと私は地面の上に立っていた。
傍には何故か先ほど頭に当たった飴玉が三つほど転がっている。
一体何が起こったというのか。
「あれか、私は狐か何かに騙されたのか」
自分の住んでいる場所は寂れた都会だと思っていたが、狐が大量発生してなにやら妖術を使う程度に田舎であったらしい。
そうか、狐に化かされたのか、まてよ、狸の可能性もあるのではないだろうか、と私は真剣に悩む。
私の住んでいる場所で見かけるのは外来性害獣や鼠、カラスじゃないかと思っていたが、そうか狐が住んでいたのか。
そこまで考えていい加減、私は現実を直視する事にした。
見慣れぬ西洋風の建物。
行きかう人々は、もちろん黒などのビジネススーツですらなく、見覚えの無い奇妙な衣装を着ている。
そして、大きな荷車に木箱を載せて引いている人間や馬が引いて走る馬車。
特に馬なんて私は生で始めて見た。
試しに地面を見ると、石畳の道で、アスファルトではない。
「夢?」
小さくポツリと呟いて頬をつねるも痛みを感じる。
未だに疑問が尽きないのだが私はこの世界が異世界だと仮定する事にした。つまり、
「私の時代来たぁあああああああ」
異世界に連れてこられた女の子主人公といえば、何か特殊な力を持っていたり特別な役割を持っていたり……とりあえず逆ハーレム!。
そう、逆ハーレム!。
イケメンを集めてちやほやされたり、恋愛フラグが立ったり……。
そういえば私は今まで彼氏がいた事が無い。
つまり、人生初のイケメンな彼氏出来るという……。
そこまで考えて、夢を見るのは危険だと私は思った。
「……まずは元の世界の戻る方法だけれど、どうしよう」
周りを見回せば、男も女もいるので、それはこの世界と私の世界との共通点だった。
あとは、言語に関してだが、先ほどから傍の八百屋のおじさんがこの玉葱美味しいよ、安くするよー、らっしゃい、らっしゃいと言っているので、言語に関して問題はなさそうだ。
「……やっぱり夢かな」
こんなに簡単に言語が通じるとか流石にないと私は思う。
となると、そういった意味で身の安全は保障された事になる。夢ならば現実の自分の体が傷つく事なんて無いからだ。
「という事は、逆ハーレムを期待しても良いって事ですね!」
男性達のかしずかれる私……とちょっと妄想して見て、すぐに自分の想像力の無さに悲しくなった。
いいですよ、どうせ彼氏いない暦=年齢ですよ、と私は心の中で泣いた。
とはいえ、何時までもここに棒立ちになっているわけにもいかない。
ゲームなり何なりだと、次に何をすれば良いのかの説明があるか、誰かが出て来て道案内をしてくれるはずなのだが……あれですか、自由度の高いゲームという名の、放置プレイ。
「どうするの。ていうか……どうしよう。とりあえず交番みたいな場所に行ってみるかな」
そう呟いて私は歩き出す。
異世界に交番があるか分らないし、私、異世界から来たんですと言ったら、頭を疑われてしまうかもしれない。
だが、現状から考えればそれが一番妥当なように思える。
「仕方がないので公的機関に、聞きに行きますか。はあ、夢の無い異世界トリップだな……」
幸せが逃げていく溜息をつきながら、私が歩き出そうとすると、
にゃー
猫の鳴き声がした。
見ると、すぐ傍の家の地面と接するあたりの隙間から、羽が五枚生えた猫が出て来て私の方に歩いてくる。
そしてその猫は私を見上げて、にゃー、と鳴いた。
どうやら自分を抱き上げて欲しいらしい。
「何処から来たんですかー、可愛い猫ちゃん♪」
もともと猫が好きなこともあって、私はしゃがんでその猫を抱き上げる。
真っ白な毛並みでふわふわして、顔も中々カッコイイ。
随分と美人さんな猫ちゃんだなと思いながら胸の辺りでその猫を抱えると、その猫が前足で私の胸をパンチした。
おお、これがあの俗に言う猫パンチですか! と嬉しい気持ちで私が目を輝かせると、その猫は数回私の胸を服の上からパンチしてから、
「うむ、貧乳ではないが、大きくないな」
と言った。
……。
猫がしゃべったのはまだ良いとして、何か酷く失礼な事を言われた気がした私は、
「……今なんて言った」
「小ぶりだが形の良い胸なので、これからの成長に期待! かな?」
「……他に何か言う事はあるか」
「柔らかかったです! 隊長! ……えっと、僕は優しくされると付け上がるタイプなんです」
「そうなんだ……じゃあ、少し性格を矯正してあげないとね。ほら、鉄は熱いうちに叩けって言うでしょう?」
その猫は、危険を察知して私の手から飛び降りて逃げようとした。
けれどその猫の首の後ろのあたりを掴んで、私は、
「私の胸を触った分、この世界の情報を寄こせ」
「えっと、僕は悪魔なので、お菓子か寿命というか魔力じゃないとお願いは聞けないかなって」
「悪魔? まあ良いわ。それで、猫なべって知っている?」
「猫鍋? 何それ」
「猫を土鍋に入れるの」
正確には猫が自分で入って丸くなるのだが、細かい説明を私はしない。
それを聞いた猫の悪魔が、顔を青くして、
「ぼ、僕を食べても美味しくないよう」
「……どうかしらね。それで、どうする?」
「ぼ、暴力には屈しない」
「猫鍋……」
「うわーん、リオン助けてぇぇぇ、この異世界人の女の子がいじめるぅうううう」
猫が暴れはじめた。
先に私の胸を触っといて何を言っていやがるんだこのエロ猫、と、私は叫ぼうとして……。
「お前、異世界人か?」
私は背後から男に言われたのだった。




