2-15修学旅行Ⅵ
修学旅行 最終日
楽しかった修学旅行も最後の日となってしまった。
紗英ちゃん、佳織ちゃん、美優ちゃんと一緒の班で本当に良かったと思う。
良かったと思うんだけど…
私は目の前で繰り広げられる、複雑な恋愛ベクトルに目眩がしそうだった。
まずスポーツ科女子、浜口理沙。
彼女は本郷君にぞっこん!
しきりのボディタッチ、上目遣い。
私が修学旅行前に熟読した雑誌に載っていた、男の子を落とすテクニックそのものを使ってる。
それを駆使しているのに、彼の視線はある人物一直線!
その人物とは、私の友達の紗英ちゃん。
ほんの少し本音を言うと、私は最初本郷君が気になっていたんだ。少しだけだけど。
それで気になって目で追っていたから気付いたんだけど、
どんなときでも紗英ちゃんの方を見ては、逸らすという行動をしているの。
たまにじっと見つめ続けているんだけど…本当分かりやすいよね
紗英ちゃんはというと、そんな視線に一切気づいていない。
たまに視線を感じてキョロキョロすることはあるけど、それに気づくと本郷君は目線を逸らすので、
紗英ちゃんはそれが誰なのか分かっていない。
鈍感すぎると思う。
見ていてイライラするので、何度も察する力を力説したんだけど
紗英ちゃんに備わるかは望み薄ね。
けど紗英ちゃんもここ最近変わってきた。
恋に興味がないと思っていたんだけど、最近は少し本郷君を意識している節があるの。
今も浜口さんと仲良さげにしゃべっている本郷君を見て、少し悲しそうな顔をしてる。
うーん…なんと言うか…見ていて歯痒いなぁ…。
本郷君も紗英ちゃんが好きなら押せばいいのに、
いっつもさりげない感じでのアピールばっかりだから
紗英ちゃんは一向に気づかない。
また悔しいことに、紗英ちゃんはモテる。
なぜか分からないけど、男の子の心を掴むなにかがあるんだろう。
今も紗英ちゃんを意識しているのは本郷君だけじゃない。
おそらく男子全員、紗英ちゃんに気があるんじゃないかな?
中でも伊藤君は本郷君と同じぐらい本気だと思う。
今も紗英ちゃんの隣をキープして野球談義で盛り上がっているし。
私にはついていけない話だけど。
分からない話でも笑ってあげられる...これが男心を掴む秘訣なのかな?
うーん…だとしても私には無理ね。
けど私は本郷君に頑張ってほしい。
最初に気になった人でもあるし、私は心の中で応援している。
ぼやっとしてると負けるよ!本郷君!
わわ!私が観察している間にまた恋愛模様が盛り上がってきている。
伊藤君と紗英ちゃんが仲良くなってるのに気付いたのね。
本郷君が明らかに焦ってる。
ちょっと近づいてみようっと。
「なんか、沼田さんと話してると楽しいな~
でも沼田さんには分からない話だよね?」
「ううん!知らない事ばっかりだから、知れて嬉しいよ。
もっと教えてほしいな。」
紗英ちゃん…、その言葉は男性には殺し文句だと思うよ。
さらっと言えちゃうところがすごい。
伊藤君なんかほっぺた赤いし、すごく嬉しそう。
あ、我慢できなかったのかな。
本郷君がじわじわこっちに来る。
「紗英!野球のことだったら俺が話してやるよ!!」
「え?」
「えー本郷君!そんなに楽しそうな話あるなら私にしてよー!!」
本郷君にくっついて浜口さんまでやって来る。
紗英ちゃんを挟む形で伊藤君が左、本郷君が右。
本郷君の右隣に浜口さんで横一列になっちゃった。
本郷君たらそんなにあからさまに女の子睨んじゃダメだよ~
確かに睨みたくなる気持ちも分かるけどね。
「あ、沼田さん。その荷物重たくない?俺、持つよ。」
ジェントルマン!!伊藤君たら好感度アップだよ!
紗英ちゃんは深く考えずに、持ってたお土産の袋を伊藤君に渡すと思ったら
あれ?本郷君が奪っちゃった。
「俺が持ってやるよ。」
あー…伊藤君と本郷君の間で散ってる花火が見えるよ。
浜口さん相手にされなくて、横でむくれてるし。
紗英ちゃん一人何も分かってなさそー。
「もー!!本郷君!早く行こうよ!」
「ちょっ!引っ張んなって!!先行くことないだろ!?」
引き離しにかかった浜口さんに本郷君が抵抗してる。
へー…意外と食い下がるなぁ~
「あ、翔君。先行きたいなら行ってもいいよ?」
紗英ちゃん!!それはないでしょ!?
さっき寂しそうにしてたのに、変なところで気を使って!もう!!
…やっぱり…本郷君ショック受けてるよー
浜口さんは「じゃーねー」と嬉しそうに本郷君を連れてっちゃった。
「沼田さんの名前って紗英っていうんだよね?」
「うん。そうだよ?」
「俺も翔平みたいに名前で呼んでもいいかな?
あ、もちろん嫌ならいいんだけど…。」
「……………」
あれ…?紗英ちゃん?
「……うん。いいよ。」
「やった!」
いつもの紗英ちゃんだったら、すぐいいよと言うと思ったのに…
あの間は何だったんだろう…?
名前に何か思い出でもあるのかな…?
「じゃあ、紗英ちゃん。俺のことは圭祐でいいからさ!」
「うん。圭祐君。」
うわぁ、伊藤君の顔だらしなーい。
嬉しいのは分かるけど、顔に出しすぎじゃない?
紗英ちゃんってば、気を持たせたら可哀想だよ~
「あ、着いたよ!」
先頭を歩いていた木下君から声がかかった。
わー!初めて来た!!海遊館!
建物の前まで来て見上げる。
皆気が急いでるのかな…?
私を置いて行っちゃった。待ってー!
伊藤君がまとめてチケットを買ってくれた。
一人一人に手渡ししてくれる。
紗英ちゃんの前に立った伊藤君が緊張しているのが分かっちゃった。
チケット一つであんな真っ赤な顔になるなんて、何だか可愛い。
「はい。紗英ちゃん。」
「ありがとう。圭祐君。」
「は!?」
あ、二人のやり取りを見てた本郷君が驚いてる。
えっと怒ってるのかな?
伊藤君に詰め寄って、何か言ってる。
私にも紗英ちゃんにも聞こえなかったけど。
「涼華ちゃん。入ろ?」
紗英ちゃんがいつの間にか私の横にいた。
私は紗英ちゃんが声をかけてくれて嬉しくて、
紗英ちゃんの手を引いて水族館の中に入った。
***
水族館の中はすごく綺麗だった。
久しぶりだったってのもあるのかも…
この感動を共有したくて、紗英ちゃんがいるはずの横を向いたら
そこに紗英ちゃんの姿はなかった。
あれ…?どこ行っちゃったんだろう。
はぐれちゃった?
私は辺りを見回した。
暗かったのでよくは見えなかったけど、
一区画前の水槽の前に紗英ちゃんと本郷君が一緒にいるのが見えた。
なーんだ。
心配しなくても良い雰囲気じゃない?
友達を取られて、少し寂しいけど。
あんなに並んでて自然な二人もなかなかいないと思う。
「気になる?」
私の上から声がすると思って見上げたら
そこには木下君が私と同じように二人を見ていた。
「少しね。」
私の見立てでは、木下君も紗英ちゃんに気がありそうだったけど
心の中はどうなんだろうか?
「木下君はいいの?」
木下君は言葉の意味をくみ取ってくれたのか、
はにかむと笑って言った。
「俺は勝算のない勝負はしないんだ。君こそいいの?」
「え?」
私は問いかけの意味が分からなかった。
木下君はいたずらっ子のように笑ってる。
「翔平のこと、気になってたじゃん?」
「なんで!?」
何でわかったの!?
私、何か分かりやすい態度とったっけ?
「見てれば分かるよ。あいつ、ああ見えてモテるからさ。
今までそういう女の子よく見てきたし。」
恥ずかしい!!
上から目線で木下君の事、気遣ってる場合じゃない!
私の方が観察されてたなんて!!
顔に熱が集まってくる。
思わず手で隠した。
「でも、やっぱり沼田さんは特別だよな~。
翔平を色んな顔にさせられるのは沼田さんだけだよ。」
私と同じ事を思ってる人がいるなんて思わなかった。
「私も…同じこと思った。気が合うわね。」
「そか、俺だけじゃなかったんだ。あの二人見守ってたの。」
木下君は私を見つめて、手を差し出してきた。
何だろう?
手を握ればいいのかな?
「仲間だな!俺たち。」
私の差し出した手をギュッと握りしめて、木下君は握手した。
私はその手を凝視してしまった。
男の子と手をつなぐなんて…いつぶりだろう…
「さ!邪魔しないように、先行こうぜ!」
手をつないだまま、木下君は歩いて行く。
え?…えぇ?…こ…この手どうしたらいいの?
私が手と木下君の背中を交互に見て戸惑った。
木下君はちらっと私の方に目をやると、またあの顔で笑う。
私の顔…そんなに面白いのかな…?
私はムズムズした気持ちを抱えて、自然に笑った。
つないだ手もこの気持ちも不快ではなかった。
むしろ心地よかったことが、何だか嬉しかった。
修学旅行編終了です。
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