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勘違い系○○  作者: 流音
第二章:高校生
20/218

2-14修学旅行Ⅴ


修学旅行二日目、夜―――


俺はホテルに戻ると真っ先に紗英の姿を探した。

集合時間のはずなのにどこにも姿がない。


お昼にいつの間にかいなくなっていて驚いた。

今日一緒にいたはずなのに一回も話をしていない。

不安でいてもたってもいられない。

「どうしたのー?」

という浜口の声を背に俺は辺りを見回す。


すると時間ギリギリなって紗英たちの班が戻ってきたのが

遠目に見えた。

話しかけに行こうとするが、学年主任の「宴会場に移動!」の声に阻まれた。

俺は流れに流されて宴会場へ向かいながら、紗英の姿を横目に見ていた。



結局紗英と話をする機会が巡ってきたのは

夕食のあとだった。

一人部屋に向かう紗英を発見して、叫んだ。


「紗英!」


紗英は俺の方を向いた。

俺は駆け寄ると、紗英の表情に笑顔が出せなかった。


「何?」


声も表情も不機嫌そのものだった。

いつもの柔らかい雰囲気が消えていて、

俺は言葉につまる。


「用がないなら行くよ?」


冷たい言葉だったが、俺は行こうとする紗英の前に立ち続けた。

そして許されるかは分からないが、頭を下げた。


「ごめん!!」


紗英の反応が怖くて頭が上げられない。


「……何に対して謝ってるの?」


紗英の問いかけに頭を上げて答える。


「その…昨日の夜のこととか…今日の事とか…」


紗英がため息をつくのが聞こえた。

頭は上げたが、紗英の顔は見られなかった。


「……そう…分かった。…私には関係ないもんね…。」


ここで初めて紗英の顔を見ることができた。

その紗英の表情を見て、俺は凍り付いた。


この顔…見覚えがある…

確か…中学のときに……


「明日は一緒に観光するんだよね?

もしそうなら涼華ちゃんたちにも今日の事謝ってね。」


紗英の作り笑顔に俺は咄嗟に紗英の手を握った。

紗英は目を見開いて俺を凝視した。


「紗英。俺に対して思ってること…全部言って。」


何かを諦めたような表情に作り笑顔。

中学時代、紗英が見せてた姿だ。

竜聖の事を想って、傷ついていた紗英の…


このままにしてしまったら、あいつと同じことになる予感がした。


「………後でもいい?部屋で皆が待ってるから…」


紗英は悩んだ末、言葉を絞り出した。

俺は頷くと手を離した。


「お風呂のあとに、またここで。」


紗英はそう言い残すと部屋へ向かって歩いて行った。

その後ろ姿を見送って、俺は一息つくと気合を入れ直した。




***




俺は風呂からあがると、そのままの足で宴会場前にやってきた。

紗英の姿はなかった。

俺はそばのソファに腰かけると、上を向いて目を閉じた。


今日は疲れたなー…


今日はスポーツ科の女子と回ったためか、身体的にきつかった。

体力のある子達なのであちこちに連れまわされたためだ。


ふーっと長いため息をつくと横に誰かが座ったのが分かった。

紗英かなと目を開けたとき、横には浜口が座っていた。


「うわ。またかよ。」


昨日と同じ状況だったためあまり驚かなかった。

浜口は俺の言い方が気に入らなかったのか、むくれた顔で言った。


「なんか腹立つなー。いったいこんなとこで何してんの?」


「人待ってるに決まってるだろ。お前こそ何の用なわけ?」


「用なんかないわよ。何してんのかなーって思って来ただけだもん。」


「だったらどっか行けよ。」


紗英に一緒の所を見られたくないと浜口に冷たい態度をとる。

しかし、これが逆効果だった。

「女の子に対してひどーい!」と子供みたいに俺にじゃれてくる。

うっとおしい事この上ない。

早く帰れ!と言おうと立ち上がったとき、俺の目に立ち尽くす紗英の姿が映った。


血の気が一気に引いた。


「さ…紗英…。」


俺は紗英に駆け寄り言い訳するのもどうかと思ったが、

あいつが勝手にじゃれてきて…と浜口に責任をなすりつけた。

浜口は空気を読んだのか「お邪魔しましたー」と笑顔で逃げるように立ち去った。

裏切り者!!と心の中で叫んだが、黙ったままの紗英が気になって俺も言い訳をやめた。

しばらく沈黙が続く…


何で黙ってるんだろう…

空気が重い。


その沈黙を破ったのは紗英だった。


「……翔君に対して思ってること…全部言ってもいいんだよね…?…」


俺は横で全力で頷いた。


「おう!何でも言ってくれ!!」


俺はオーバーリアクションでドンと胸を叩いた。

強く叩きすぎて軽く咳が出た。

紗英は俺の方に向き直ると、捲し立てた。


「……翔君は冗談で抱き付いてきたり、わけのわかんない事するのがイヤ。

そんな事私にした後に他の女の子とベタベタするのもどうかと思うし。

あとすぐ何でも謝ってくるのもイヤだし、私の顔色ばっかり窺ってるのもやだ!」


そんなにダメなところがあったのかとショックだったが、

何だかヤキモチ妬かれてるような言葉があってそこまでダメージは受けなかった。


「変な冗談言うところとか、無理な要求してくるところとか、

他にも…。」


俺は何度も頷きながら、眉を吊り上げて話す紗英を見ていた。

言われていることはひどいが、紗英の声が耳に心地よかった。


「紗英。」


紗英は口を止めて、気まずそうに俺を見た後目をそらした。


「今言ってくれたこと…紗英だから知ってる、俺の姿だよ。」


顔が熱くなる。手に汗もかいてきた。

なんて思われただろうか…

我ながら恥ずかしいことを口に出したもんだ。


「ごめん…私…ひどいこと言ったね…」


紗英はそらしていた目を俺に戻して、ふっと微笑んだ。

俺は今なら告白できる気がした。

息を吸い込んで、紗英を見据える。


「…さっ…」

「私、翔君のこと見てるって約束したから…仲直りしたいな。」


俺の声が喉まで出かかって止まる。

紗英が笑って手を差し出してくる。

告白しようとして開けた口のまま、勢いをそがれて手を差し出した。

紗英は俺の手をとると握手した。

嬉しそうに笑っている姿を見て、俺は口から吸いこんだ息を吐き出した。

俺のミジンコのような勇気が吐き出した空気と一緒に霧散した。


「話聞いてくれてありがとう。」


紗英は手を離すと、「また明日ね。」と手を振って行ってしまった。


俺はその場に立ち尽くした。

しばらく何が起きたのか理解するのに時間がかかる。

差し出した手が微動だに動かない。


そして落ち着いてきた頭の中で、

今まで生きてきた中で一番のタイミングを逃したのだけは分かった。





読んでいただきましてありがとうございます。

次で修学旅行も終了です!

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