4-57同窓会その後
紗英の高校からの同級生である山森涼華視点です。
紗英ちゃんの彼氏の竜聖君が乱入してきたことで、同窓会は大騒ぎになった。
クラスメイトの女子は竜聖君のカッコよさにキャーキャーと高い悲鳴を上げているし、竜聖君に話題を奪われたストリングスのメンバーは苦虫をすり潰したような表情を浮かべた。
私は言い寄ってきていた神谷君が鬱陶しかったので、内心ざまーみろと思っていた。
それにしても久しぶりに見た竜聖君はカッコよさに磨きがかかっていて驚いた。
ピアスをしていて少し服装もオシャレになっていたからかもしれない。
大好きな彼氏のいる私でさえ彼から目が離せなかった。
やっぱり竜聖君はいつも人の目を集める。
そういう魅力を持って生まれたような人だと再確認した。
そんな竜聖君はというと昔と同じで紗英ちゃんしか目に入らないようで、さっさと紗英ちゃんを助け出すと店を飛び出していってしまった。
小野田君を押し倒したときには、紗英ちゃんに対する愛の深さが伝わってきて、自然と胸がギュッと苦しくなった。
彼女のピンチに颯爽と助けに現れるなんて、二人はきっと何かで繋がってるんだろう。
私は紗英ちゃんを奪われた小野田君を見て、ふっと鼻で笑った。
あの二人の間に割り込めるわけないでしょ?
たかだかデビューしたからって好きな女の子を思う通りにできるなんて、勘違いも甚だおかしいわ。
私はグラスに残っていたお酒を飲み干すと、帰ろうと腰を上げた。
するとそこへ佳織ちゃんと美優ちゃんが帰ってきた。
「さっきの竜聖さんですか?」
「きっとそうだよね?私は直接見たのは初めてだったけど…。」
そういえば二人は竜聖君を見た事がなかったかもな…と思って、私は説明してあげた。
「そうだよ。さっきのが竜聖君。すごくカッコいいよね。」
「やっぱり!一度だけ文化祭で見ましたが、あの頃より磨きがかかっているような気がします。」
「へぇ…紗英ちゃん、すごい人と付き合ってるんだね~…。女の子のやっかみとか凄そう…。」
美優ちゃんの感想に私は激しく同意した。
だって今も竜聖君の魅力に当てられた女子が大盛り上がりしている。
まぁ…誰が邪魔してこようともあの二人は大丈夫だと思うけど…
今までの事もあるから波風はなるべく立てたくないよね…
私はふうと息を吐くと、少し声を張り上げて店内に響き渡るように言った。
「さっき来た紗英ちゃんの彼氏って、紗英ちゃんにベタ惚れだからこんな所まで迎えに来たんだよ~!!いずれは結婚するぐらい仲もいいし、いくらカッコいいからって割り込む隙なんてひとっつもないんだよね~!!羨ましくてやんなっちゃうよー!!」
私の言葉に耳を傾けていた女子たちが口ぐちに「何だー。」「残念だねー。」と言っていて、私はホッと胸を撫で下ろした。
目の前にいた美優ちゃんと佳織ちゃんが私のした事に理解を示してくれて、嬉しそうに微笑んでくれた。
私はそんな二人に応えると、店を出るために足を出口に向けた。
すると店を出る直前で小野田君が私の横にやって来て言った。
「さっきの言葉、俺には無意味だから。」
「は?」
私は自信満々な小野田君を見て顔をしかめた。
小野田君はニットと口の端を持ち上げると、ズボンのポケットに手を突っ込んだ。
「相手が強力なほど、燃える奴もいるってことだよ。山森さんも精々気をつけなよ?」
彼はそれだけ言うと、クラスメイトの女子に呼ばれてそっちへ歩いて行ってしまった。
私はその背を見つめて、少し不安が過った。
紗英ちゃんにまだ何かするつもり…?
私は女子に囲まれて笑っている小野田君を見て、胸の中がもやもやとしていた。
***
私はてっちゃんと同棲しているアパートに帰って来ると「ただいまー」と言って中に入った。
するとてっちゃんがテレビに体を向けたまま、顔だけ私に向けて「おかえり。」と言って出迎えてくれた。
同棲を始めてもうすぐ半年が経つけど、こんな何気ないやり取りが自然と嬉しい。
私は鞄を置いててっちゃんの隣に座ると、顔を寄せて尋ねた。
「まだ起きてくれてたんだね。」
「あぁ、うん。同窓会どうだったのかな~と思ってさ。」
「楽しかったよ。久しぶりに紗英ちゃんたちとも会えたしね。」
「そっか。楽しかったなら良かった。」
てっちゃんは嬉しそうに笑うと目をテレビに戻してしまって、私はもう少し話をしたかったので、今日一番の話を出した。
「あ、そうだ。今日、久しぶりに竜聖君も見たんだよ。」
「うん?竜聖君って…沼田さんの高校のときの彼氏?」
「そう!!それも驚くことに今も紗英ちゃんの彼氏なんだ!!」
「…へ?今もってどういうこと?竜聖君っていなくなっちゃったんだよな?沼田さん、竜聖君と再会したの?」
「ふふっ!!ずっと黙ってたけど、実はそうなんだ。」
てっちゃんは驚いた顔をしていて、私は驚かすことができて感無量だった。
てっちゃんの興味を引くことに成功したのか、てっちゃんはテレビを消すと私の方に体を向けた。
「それで今は付き合ってるんだ。すごいなぁ…それ。まるで運命みたいじゃん?」
「でしょ!?私も今日久しぶりに竜聖君見て、驚いちゃった。すっごーくカッコよくなっててさ。クラスメイトに絡まれてた紗英ちゃんを颯爽と助けていって、まるで映画のワンシーンみたいで素敵だったんだ。やっぱり紗英ちゃんの事大好きなんだなぁ~って伝わってきて、なんか憧れちゃったよ~。」
「へぇ~…沼田さんってボケっとしてるとこあるから、竜聖君も気が気じゃないのかもなぁ~。気持ちなんか理解できるよ。」
てっちゃんは面白そうに笑っていて、私は気持ちが分かると言った姿にちょっと嫉妬してしまう。
気持ち分かるって事は、てっちゃんもそういう気持ちを抱いた事があるって事だよね?
いったいいつの事を言ってるんだろう…?
私は何となく張り合いたくなって、言わなくてもいいと思ってた事まで口に出してしまう。
「私も紗英ちゃんと同様にクラスメイトに言い寄られてたんだけど、どこかの人は竜聖君みたいに助けに来てくれなかったなぁ~。」
「あ、そうなんだ。でもすずの事だから、バッサリ切ってきたんだろ?」
てっちゃんに安心した顔で返されてしまって、私はムスッとふて腐れた。
「その通りですよ!!私はどうせボケっとしてませんから!!」
「何怒ってんの?何もなくて良かったってこっちは安心してんのに。」
さらっと言い切ったてっちゃんに私は思わず顔を向けた。
てっちゃんはふっと微笑んでいて、私はこんな時間まで起きてくれていた事も心配してくれていたからだと分かった。
そんなさり気ない優しさに胸が熱くなる。
だから好きなんだよ…
そんな分かりにくいてっちゃんが愛しくて、私はてっちゃんに抱き付いた。
「安心してていいから。てっちゃん以外の男は芋だから。」
「芋って!それもすげー話だなぁ~。」
てっちゃんは笑いながら私の背に手を回して、抱きしめてくれた。
嬉しい…
私はてっちゃんから感じる温かい体温に顔を埋めると、幸せを噛みしめるように目を閉じた。
そして頭の隅で、きっと紗英ちゃんも同じように幸せなはずだと思って、二倍胸が熱くなってきた。
涼華と哲史は安泰カップルでホッとします。
次から紗英と竜聖カップルのラブ度がMAXに向かっていきます。




