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勘違い系○○  作者: 流音
第四章:社会人
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4-26野球の試合


私は村井さんや野上君と一緒に○○球場へ野球部の応援にやって来た。

村井さんは球場に来るのも初めてのようで、隣ですごく緊張している。

村井さんの隣では野上君がやたらハイテンションでメガホンを打ち鳴らしている。


そして私はこの日のためにクローゼットの奥に入り込んでいた野球帽をかぶってきた。

高校のとき、翔君にもらった野球帽だ。


この帽子をかぶって応援に行った高校三年の夏、翔君のいる野球部は甲子園出場を決めた。

だからゲン担ぎも兼ねている。


噂によると我が新美浜高校野球部は甲子園出場など夢のまた夢の高校らしい。

いつも一回戦負け、又は二回戦が限度。

今日は設立始まって以来の二回戦突破がかかる一戦だ。

私はまっすぐグラウンドを見つめて、手を合わせて組んだ。


「紗英先生。すっごい熱心ですね~!!」


後ろから声がかかって、私は振り返った。

そこにはよく話しかけてくれる三年生の女の子の栗原さんがいた。

よく野上君を取り囲んでいるメンバーの一人だ。

クリクリの二重の瞳に栗色の髪がとても可愛い子だ。


「あはは。なんか高校時代を思い出してね。勝負事って熱くなるっていうか…。」

「へぇ!!紗英先生の高校時代とか聞いてみたいなぁ!!」

「ま、機会があったらね。」


私は栗原さんに追及されそうだったので、軽く躱しておいた。

栗原さんはむくれて不服そうだったけど、ちょうど試合が始まるようで選手たちが列になって並んで一礼した。

そして選手たちがベンチに戻るときに川島君がちらっとこっちを向いた。

それを見て、私は拳を作って合図すると、彼は嬉しそうに笑ってベンチに入って行った。

その直後、背後から女子の歓声が巻き起こって肩を縮めた。


「キャーッ!!川島君がこっち見て、笑ったよ!!」

「私だってー!!」

「頑張れー!!川島くーん!!」


等等、熱い声援が巻き起こって、川島君の人気を再確認した。

すっごい人気だなー…

まるで昔の吉田君みたい。

私は中学のときの吉田君を思い浮かべて笑みが漏れた。


そういえば…今日キャンセルしちゃったけど、吉田君何やってるんだろう?


私はケータイを取り出すとメールが届いていないかチェックした。

でも特に何も来ていなかった。


あっさりしてるなぁ…


私は何もないと逆に会いたくなってきた。

応援が終わったら、連絡をとろうと決めてケータイを鞄にしまった。


そしてグラウンドに目を戻した瞬間キィンと響く音がして、ボールが空高く飛んでいった。

今は私たちの高校の攻撃だったので、今のホームランで何点か入ったようだった。

グラウンドに目を走らせると、ホームランを打ったのは川島君だった。

背後ですごい歓声が巻き起こっている。

私たちは立ち上がって拍手を送る。

そのときスコアボードに目を向けると、今ので3点入ったようだった。


すごい…


二回戦までしか行ったことがないなんて嘘のようだと思った。

私はこのままいけば二回戦突破なんて軽いと思っていたのだが…、現実はそうは甘くなかった。




初回3点入れた新美浜高校だったけど、そのあとは得点に恵まれず、相手校にじわじわと一点ずつ返されてしまい最終回の前には同点にされてしまった。

この回に一点でも入れておかないと、延長…もしくは裏で得点を許してしまうと負けてしまう。

私は手を合わせて握りしめると祈った。


すると横で村井さんが話しかけてきた。


「ねぇ…これって、点入れられないとどうなるの?」


村井さんは野球を知らないようで、首を傾げている。

私はグラウンドに目を向けたまま説明した。


「点が入れられないと延長戦、もしくは裏で点を入れられると負けちゃうかもしれない状態かな。」

「そうなの?なら、絶対点を入れてもらわないと!!」


村井さんは立ち上がって「頑張ってー!!」とグラウンドに声援を送っている。

私はこんなに熱い村井さんを見たことがなかったので驚いたけど、私も見習うと声を張り上げて応援した。

それを皮切りに新美浜側の客席が盛り上がった。

次々に声援がかかる。


選手たちもそれに背を押されたのか、ノーアウトで満塁のチャンスを作った。

そして打席に立つのは…また川島君だった。

それを見るなり私の後ろにいた女子生徒たちが階段を駆け下りて、フェンスにしがみつくように応援し始めた。

私は村井さんと野上君に視線を送ると三人で声を張り上げた。


「頑張れー!!川島君!!」

「打てーっ!!」

「頑張れー!!」


甲子園優勝が目標の川島君はその目標に向かって、バットを振り切るとキィンと気持ちの良い音が鳴って、ボールが飛んでいった。

ボールは綺麗に弧を描いて、向こう側のフェンスの向こうに落ちた。

それを見て客席がドワァッと盛り上がった。

ホームランだ!

今日二本目のホームランが飛び出した。

さすが甲子園優勝を目標にしているだけはある。


「やったー!!」


私は隣の村井さんと手を上げて喜んでいると、村井さんが私の後ろを見て固まった。

私はその表情を見て首を傾げたとき、後ろから誰かに抱き付かれた。


「へっ!?」


私が驚いて首だけ回して振り返ると、息を荒げた吉田君が熱い体で私を抱きしめていた。

それに私はドクンと心臓が跳ねて、顔に熱が集まった。


「っりゅ…竜聖!?…何で、ここに!?」


私は盛り上がる客席の歓声を聞きながら、焦った。

吉田君は私の肩にのせていた顔を少し上げると、潤んだ目で私を見た。


「……俺…会いたくて…。」


その一言に私はぐわっと体温が上昇して、思わず顔を前に戻した。

そのとき目の前で頬を染めた村井さんとニヤーっと笑っている野上君が見えて、私は慌てて吉田君を引きはがした。

そして彼の手を掴むと、落ち着いて話のできるところに連れて行こうと、客席から外れて球場の廊下に移動した。

今は試合中だったので、人通りはなくガランとしている。

私は吉田君に向き直ると、熱の引かない頬を手で押さえて尋ねた。


「会いたいのは嬉しかったんだけど…その、私も会いたいな~って思ってたから…。でも、その…もうちょっと、場所とか…考えてくれても良かったんじゃないかな…?」


「…うん。悪い…」


私の言葉に素直に謝る吉田君が可愛くて、胸がギュッと苦しくなった。

気持ちがムズムズしてきて、抱きしめたくなる。

潤んだ目が更に庇護欲を刺激する。


私はふーっと長く息を吐くと、吉田君を見て笑顔を作った。


「もう、いいよ。試合、一緒に見る?」

「…あ…うん。」


吉田君は子供みたいに頷いて、また胸がキュンとなった。

私は吉田君の手を引くと、その気持ちを押さえ込んで観客席に足を向ける。


観客席に戻るともう攻撃が終わっていて、新美浜高校は守備についていた。

私は村井さんに状況を尋ねた。


「これ、今どういう状態?」

「えぇっと…どう説明したらいいかな…?」


野球に詳しくない村井さんは隣の野上君を見上げて困っている。


「今アウト一つとったから、あとアウト2つでこっちの勝ちだよ。ただ、二塁に出塁されてるから、気をつけないと点が入る。」

「そっか。頑張れーっ!」


野上君は応援に熱が入っているのか、さっきまでのニヤニヤ顔から真剣な顔に変わっていて、拳を握りしめていた。

私もそれにつられて手を合わせて祈る。

すると、吉田君が隣でグラウンドをまっすぐに見つめて言った。


「大丈夫。勝つさ。」


私は吉田君のキリッとした姿にドキッとした。

勝利を信じきった姿に、中学時代の吉田君が重なる。

部活の合間に見た、野球部の練習試合。

吉田君は同じようにグラウンドを見つめていた。


私は吉田君から顔を反らして、グラウンドに目を向けると私も信じる事にした。

必ず勝つ――――――と


すると、吉田君の言葉通り、危ない場面もなく、私たちの新美浜高校はアウトを2つとって、初めての三回戦進出を決めた。


私たちの観客席は試合終了と同時に大盛り上がりとなった。

選手達が一礼してベンチに戻ってくるときに、賛辞の声が飛び交う。

そのとき川島君がこっちを見たので、私は拍手を送った。

すると彼はペコリと帽子をとって頭を下げてから、ベンチに戻っていった。


「紗英。今の男子、知り合い?」


吉田君が尋ねてきたので、私は拍手しながら頷いた。


「うん。今日、応援に来て欲しいって言ったのも、さっきの川島君だよ。真面目ですごく優しい子なんだ。」

「ふーん…」


吉田君は何を思っているのか、グラウンドを見て目を細めた。

その横顔がなんだか冷めていて怖い。

私は観客席の人達が帰り始めるのを見て、荷物を持つと村井さん達に目を向けた。


「じゃあ、生徒達を誉めてから帰りますか!」

「あ、ごめん。私、竜聖いるから先に帰るよ。」


野上君の言葉に私は吉田君を見上げて告げた。

するとまた野上君がニヤーっと笑ってからかってきた。


「彼氏ができたからって、そっち優先とか沼田さんも偉くなったよなぁ~?」

「うるさいな。竜聖は彼氏ってわけじゃないから!」


私はイラッとして言い返すと、吉田君の腕を引いて客席から降りた。

吉田君は『好きになっていい?』って言っただけで、私の事を『好き』だなんて一言も言ってない。

云わば友達以上恋人未満という関係だ。

彼氏だなんて自分に都合の良い解釈は良くない。

私は野上君に言い返しながら自分に言い聞かせる。


「それじゃ、野上君は村井さん送ってあげてね。」

「へいへい。気ーつけてなー。」


私は村井さんに目配せすると、球場を後にした。



そして球場から出て、駅に向かう道中。

吉田君は黙って何か考えているようで、一言も発しない。

私はそれが気になったが、この変な空気を壊そうと明るく話しかけた。


「竜聖、今日はデート断ってごめんね。また来週、一緒に遊園地行こうね。」

「…うん。」


竜聖は反応が薄く、私は何かしただろうかと不安になってきた。


「ねぇ、今日は何してたの?」

「…うん。家に翔平たちが来た。」

「そうなんだ。翔君たちはまだお家にいる?」

「…さぁ?」

「さぁ…?」


首を傾げた吉田君と一緒に私も首を傾げる。

さぁ…ってどういうこと?

吉田君は翔君たちと別れたからココに来たんじゃないの?

私は吉田君が全く分からない。

吉田君はまだ何か考え込んでいるのか、まっすぐ前を見つめたまま表情を変えない。


「じゃあさ、私が吉田君の家に行ってもいい?」

「…うん。………え?」


私は翔君たちと一緒ならこの表情の理由が分かるかもと思って訊いたのだけど、吉田君は予想外だったのか目を見開いて驚いている。

その反応に来てほしくないのだろうかと思って、吉田君に尋ねた。


「私が行っちゃダメかな?」

「え…いや。いいけど…。その…いいのか?」

「うん?…いいから聞いたんだけど?」


私は吉田君の問いかけの意味が分からなくて聞き返した。

すると吉田君は何だか嬉しそうに表情を緩ませていて、ますます意味が分からなくなる。

私は吉田君の横顔を見て、機嫌がよくなったようだったのでいいかと思って気にしないことにした。





まだ少し竜聖が自分を押し込めてますが、徐々に気持ちを出してきます。

見守ってください。

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