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勘違い系○○  作者: 流音
間章
118/218

3-0山本 竜也



俺には憧れている奴がいる。



それは俺と同じ野球部で、学年一の人気者と言ってもいい親友の吉田竜聖だ。


あいつは人懐っこい笑顔と人見知りしない性格で、どんな奴とも気軽に話す。

優しくて、自信家で正直者。

それが俺の中の竜聖だ。


そんなあいつには一年のときから大好きな女の子がいる。


俺はその女の子とクラスが違ったから、詳しい事は知らないけれど、どうやら吹奏楽部に入っている真面目そうな子らしい。

体育祭のマーチングという吹奏楽の出し物を見たとき、一度だけ話題に上がった。


それから竜聖の様子を気にするようになったのだが、あいつは野球部の練習の合間によく立ち止まって音楽室のある校舎を見上げてる。

そしていつも何とも言えない嬉しそうな顔をしている。

俺はその表情の意味が恋と知ったのは、二年になってからだった。


二年になった俺は、竜聖が気にしている沼田さんという子と同じクラスになった。

彼女はいつも同じ女子二人と一緒にいて、すごく楽しそうに話をしていた。

俺から見たらどこにでもいる普通の子だ。

マネージャーの板倉さんの方が美人に見える。


でも竜聖は何かと沼田さんに絡みにやってくる。


「紗英!!辞書貸して!辞書!!次、英語なのに忘れちまって!!」


竜聖が隣のクラスからわざわざ沼田さんに話にやってきた。

沼田さんは嫌がる素振りも見せずに辞書を手渡している。


「はい。」

「サンキュ!!また次の時間に返すな~!」


竜聖は野球をしているときよりも嬉しそうな顔で彼女に笑いかけている。

あ、あのときと同じ顔だ。

俺は音楽室を見上げるあいつと同じ顔なのに気づいた。

竜聖は辞書だけ借りるとさっさと教室に戻ってしまったが、沼田さんはその背をじっと見送っている。

そんな沼田さんの顔も竜聖と同じ、嬉しそうな顔だった。

でも、少し切なそうに歪められている。


俺はその顔の意味が知りたくなって、席を立つと竜聖のクラスに向かった。

隣のクラスに足を踏み入れて、あいつの席に向かうと机の中を漁っていたあいつが何か見つけたようで声を上げた。


「あっ!!奥の方に辞書入ってた。やっべ。返しにいった方がいいかな~?」


沼田さんに借りた辞書と一緒に並べながら、あいつは腕を組んで悩んでいた。


「まぁ、また次の時間も話に行けるし…いいか!借りとこう!!」


竜聖はまたあの顔になると、自分の辞書を机の中に突っこんでいる。

俺は竜聖の机の前に立つと、尋ねた。


「なぁ、なんでわざわざ沼田さんに借りるんだよ?俺に借りればいいじゃん?」

「んぁ?なんだ、竜也か。いいだろ、別に。」


竜聖は一度俺を見た後、むすっとして視線を逸らした。

俺はその反応に首を傾げた。


「やっぱ好きなんだ?」

「ちっげーよ!!クラス別になっちまったから、話す機会少なくなったから…そのきっかけとして…それだけだよ!!」


その行動が好きという事なんじゃないのだろうか?

俺はこいつの心理がよく分からない。

竜聖はしかめっ面のまま、辞書を開いた。

俺も自然とその辞書に目を落とす。

彼女の性格なのか、辞書にはよく使う単語にマーカーで印がつけられていて、付箋も貼ってある。

真面目の外見そのままだなーと思って、竜聖に視線を戻すと、あいつは口の端を持ち上げて笑っていた。

辞書を見て楽しそうな姿に俺は確信した。


やっぱり竜聖は沼田さんが好きなんだ…


この顔は沼田さんに恋してる顔なんだ。


俺は人を好きになるという気持ちが分からなかったが、竜聖の表情を見ているとこっちまで嬉しくなってくる。

ずっと見ていたようなそんな気持ちになってくる。



それから俺は竜聖と沼田さんの関係を見守るようになった。

俺から見たら二人は両思いなので、さっさと告白してしまえばいいと思っているのだが…

竜聖は自分の気持ちに気づいてないようで、ずっと平行線の日々が続いていた。


そんな二人に変化が現れたのは二月―――

バレンタインでデーの日だった。


竜聖は人気者なので、その日はたくさんチョコを貰っていた。

俺はチビで、メガネでかっこ良い面なんか一つもなかったので一つももらっていない。

縁遠いものだと思って教室で寛いでいたら、沼田さんが焦った表情を浮かべて教室に戻ってきた。

その背中を追いかけるように翔平たち野球部の面々が入ってきて、何事だと体を起こした。

様子を見守っていると翔平が大声で言った。


「沼田さんでもチョコあげるんだな~俺びっくりしたぜ。なぁ!」


教室がざわつき始めた。

俺は状況を把握しようとじっと翔平たちを見つめていたが、あいつは彼女をじっと見下ろしたまま動かない。

あいつ…何しようとしてるんだ?

俺は今にも泣いてしまいそうな沼田さんを見て、席を立った。

するとチャイムが鳴って先生が教室に入ってきた。

翔平はそれに弾かれるように教室を出ていく。

でも、出ていくときに見た翔平の顔が辛そうに歪んでいて、俺はますます状況が分からなかった。

仕方なく席につくと、近くの女子が小声で噂している声が耳に入ってきた。


「沼田さん、竜聖君にチョコレート渡したんだって。」

「うっそ!あの沼田さんが?意外~。」

「だよねぇ?」


その言葉に状況を把握した。

上手くいけばいいと願っていたのに、状況は逆転してしまったようだった。


それからあいつは沼田さんを避け続けて、いつも辛そうに顔をしかめていた。

その反対に翔平が沼田さんと仲良くなって、竜聖がしていたあの顔をし始めた。

二人から直接話を聞いたわけではないが、俺は分かってしまった。

竜聖と沼田さんの関係は終わってしまったんだと。

俺の見たかった姿は見れなくなったんだと…



そして俺たちは中学を卒業し、高校へと進学した。

俺は竜聖と同じ西ケ丘高校へ。

翔平と沼田さんは西城高校へ。


もともとあの日以降、翔平は俺たちとあまり話さなくなっていたので、高校が離れてもあまりがっかりしなかった。

でも、俺は中3になって変わってしまった竜聖だけは放ってはおけなかった。

何があったのかは分からない。

あいつは本音を避けて、塞ぎこむことが多くなり、すぐにキレるようになった。

高校に上がってそれは顕著に出てきた。

俺は何度も注意した。

このままだと元に戻れなくなると、いくとこまでいったらダメだと…

でも、あいつは聞く耳をもたなかった。

いつも死んだような目でつまらなそうに学校に来ていたあいつが嫌で嫌で仕方なかった。


だから高校に入ってから体もでかくなった俺は、あいつに負けない腕っぷしを身に着けるためボクシングを始めた。

あいつがケンカでしか自分を抑えられないなら、俺が力づくで止めてやろうと思った。

そして警察沙汰になりそうになるたびに、俺はあいつを殴っては更生させようとしてきた。

両親が離婚してしまった家庭環境の変化はあるだろうが、あいつはそれぐらいで壊れる奴じゃないと信じていた。

いつか昔のように笑ってくれる日がくるとそう信じたかった。



そして信じつづけていたら、本当にその日がきた。

その日、あいつは懐かしい顔をしていた。

死んだような目だったのに、目に光が射しこんでいて表情も赤みがあった。

その顔を見れたことが本当に嬉しかった。

こいつはもう大丈夫だ。

そう思った。



その通りであいつは昔のあいつに戻った。

どうやら沼田さんと仲直りしたらしかった。


それから竜聖は学校に真面目に来るようになって、昔みたいに人気者になっていった。

そしてとうとうあいつは沼田さんと付き合い始めた。

その頃のあいつは本当に幸せそうで、見てるこっちが自然に笑顔になるぐらいだった。

あの顔をまた近くで見られることが、本当に嬉しかった。


この調子なら翔平とも仲直りできる日は近い。

三人で話せる日もきっとやってくる。


そう思っていたのに…


今度はあいつが姿を消してしまった。



何であいつばかりがこんな目に合うんだと恨んだ。


どうして…俺は何もできなかったんだと自分の無力さに吐き気がした。



そして、俺の前から親友だと思ってた二人がいなくなって、ただ無駄に日々を過ごしていた。

たまに高校のときの事を思い出しては顔をしかめる。

イライラすることも多かった。



そんな俺の前に彼女が現れたのは、あいつがいなくなって4年が経ってからの事だった――――







序章で書けなかった山本竜也視点です。

彼の恋の行方に関わってくるので、上げました。

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